日本大百科全書(ニッポニカ) 「籌海図編」の意味・わかりやすい解説
籌海図編
ちゅうかいずへん
中国、明(みん)末の海防地理書。編者は鄭若曽(ていじゃくそう)。13巻。1562年の序がある。16世紀の倭寇(わこう)を対象として撰述(せんじゅつ)されたもので、内容は、輿地(よち)全図をはじめ、日本に関する記事、中国沿岸各地の地図、倭寇の活動状況やそれに対する方策などからなっている。鄭若曽は、倭寇の鎮圧に功績のあった総督胡宗憲(こそうけん)の幕下にいた地理学者で、撰述にあたっては、可能な限りの資料収集を行った。『籌海図編』の日本に関する記事の大部分は、若曽が1561年に撰した『日本図纂(ずさん)』によっている。若曽は、これらの書の編述にあたり、胡宗憲が日本に派遣した蒋洲(しょうしゅう)、陳可願(ちんかがん)から、なまの日本見聞を聞いて取り入れた。『日本図纂』『籌海図編』は、明代の中国における日本認識の高まりを示すものとして注目されている。『籌海図編』には、明代の嘉靖(かせい)、隆慶、天啓の刊本がある。広く流布したのは天啓本であるが、内容では嘉靖本が優れている。天啓本は編者を胡宗憲として鄭若曽の名前を隠しているため、編者に関する誤解を広めた。
[田中健夫]