日本大百科全書(ニッポニカ) 「糠みそ漬け」の意味・わかりやすい解説
糠みそ漬け
ぬかみそづけ
米糠に食塩と水をあわせ、乳酸菌を繁殖させた糠みそ(糠床)に、野菜類を漬けたもの。漬けた材料に、糠床からの風味や酸味が移り、特有の香味を与える。一名どぶ漬けともいう。日本独特の漬物で、江戸時代にはほとんどの家庭で普及していた。糠みそ漬けの原形は醸造なめみその一種である五斗みそといわれ、調味料としても用いられていたものである。
糠床の作り方は人により好みが違い、材料の配合割合は一定していないが、一例をあげると、重量比で米糠10に対して塩2.5~3.5、水10~13くらいである。水に塩を入れて煮溶かし、冷ましてから糠とあわせて混ぜる。できた糠床はすぐには使えない。捨て漬けといって、ダイコンの葉、ハクサイ、キャベツなど水分の多い野菜類を漬けて床をなれさせる必要がある。野菜は漬かったら取り替え、糠床は底からよくかき混ぜる。1週間くらいで床は柔らかく発酵してくるので、あとは本漬けに用いる。糠の中に昆布、麹(こうじ)、からし、唐辛子などを加えるといっそう風味が増す。発酵を早めるためには、よくなれた糠みそをすこし混ぜるとよい。食パンやイーストもよいが、加えすぎると糠みそ床は酸味が強くなる。糠みそは毎日かき混ぜて、すみずみまで空気を入れることがたいせつである。混ぜ方が悪いと、嫌気性の不快なにおいを出す菌類が繁殖し風味が悪くなる。漬けているうちに水分が多くなり床が柔らかくなれば新しい糠と塩を足す。
漬ける材料はナス、キュウリ、ダイコン、カブ、ウリ、ハクサイなど各種のものが使える。材料は洗って塩もみしてから漬ける。ナスでは古釘(くぎ)をよく洗って床に加えると、鉄分がナスの色止めをしてよい色に漬かる。漬け込み時間は材料の大小、切り方、床の状態、季節で変わり、早いものでは3時間ぐらいから、遅いもので3~4日かかる。
糠みそ漬けの栄養上の特徴は、米糠に含まれるビタミンB1が材料に移行すること、また、乳酸菌の増殖によってB2も増加することである。ただし、新しい糠の補充がないと糠自体のB1は減少していく。
[河野友美]