カブラともいう。アブラナ科のアブラナ,ハクサイ,キョウナなどと植物学的には同一種とされる二年草。根部をおもに利用する野菜で,煮食もするが,漬物としてよく利用される。日本では古来から〈すずな〉といわれ,春の七草の一つに数えられている。原産は地中海沿岸,南ヨーロッパ地帯およびアジアのアフガニスタン地方といわれている。ヨーロッパでの栽培起源は紀元前からといわれ,中国へは古く西方より渡来し,2000年以前から栽培されている。日本へは1300年ほど前に大陸から渡来し,今では全国に栽培が広がり,多くの地方品種が生まれた。
秋まきでは,ロゼット葉を形成し,草姿には直立性,半直立性,開張性などがある。東洋系は一般に直立または半直立性で,西欧系は開張性である。葉は細長く,切れ込みのないさじ形またはへら形のものと,切れ込みの深いものとがある。東洋系は葉面に毛がなく,ヨーロッパ系のものでは毛がある。葉柄や葉脈,葉身が赤紫色または紅色に着色するものもある。根形には倒円錐形,円筒形,球形,扁球形などがある。あまり改良の進んでいないものは根部が肥大せず,支根も太い。また,表面はあらく横じわも多く,肉質は堅い。改良されたものではよく肥大し,表皮も滑らかで多汁質で柔らかい。外皮の色は白色,黄色,紅色,赤紫色などがある。また,ヨーロッパ系のものには黒色や灰色のものもある。低温にあって花芽が分化し,春にとう立ちして黄色い十字花を咲かせる。
日本で栽培されているカブの品種数は多く,いくつかの系統に分かれる。葉の切れ込みの有無や程度および毛の有無や種子の表皮型などの形質に着目して,在来種群(東洋系,アフガニスタン系var.glabra),西欧系品種群var.rapa,中間系品種群などに分けられる。関西地方や全国的に分布しているカブは,在来種群に属し,東北地方を中心として東日本一帯に分布するカブは西欧系品種群に属する。また,中間的な形質をもった小カブや長カブは,在来種群と西欧系品種群の栽培地帯の境界(関東付近)から発達してできたとみられている。また普通に栽培されているカブは,根の形から大カブ,中カブ,小カブなどに分けられるが,一般的にみると,関東では小カブが,関西では中,大カブが多く利用される。東北地方には長カブが多い。地方品種にはヒノナ(日野菜)やスグキナ(酸茎菜),ノザワナ(野沢菜)などの根部の発達が少ないいわゆるカブナがある。カブの栽培は一般に,晩夏から秋に種子をまき,晩秋から初冬に収穫するが,小カブは周年栽培される。日本での主産地は関東地方で,とくに千葉県に多い。地方品種は京都付近や東北地方でおもに栽培されている。
保存食として主に漬物としての利用が多い。葉にビタミンを多く含み,根とともに広く利用される。また,大カブなどは家畜の飼料にも用いられる。ハクサイ,ツケナ,アブラナなどのn=10群はゲノムも同じ(同一種)なのでよく交雑する。
執筆者:平岡 達也
古くカブは蔓菁とも書かれた。《和名抄》には,〈園菜類〉の部に蔓菁と蔓菁根が見え,和名は前者が〈阿乎奈(あおな)〉,後者が〈加布良(かぶら)〉となっている。阿乎奈は青菜で,カブの地上部の葉や茎をさし,茎立(くくたち)とも呼ばれた。葉菜として多用されたが,これが厳密にカブだけをさしていたとは断定しがたい。江戸時代になると,青菜はそうした葉菜の総称となり,カブの地上部はカブの菜の意で,〈かぶらな〉〈かぶな〉と呼ばれるようになる。《本朝食鑑》(1697)は,春になって大きくのびた茎を茎立,種から発芽したばかりの二葉のものを貝割(かいわり)菜,10cm近くになったのを鶯(うぐいす)菜というとしている。日本での栽培がいつごろ始まったかは不明だが,693年(持統7)3月には栽培を奨励する持統天皇の詔が出されており,より古く《古事記》の歌謡にも栽培されていた様子が歌われている。地上部,根部ともに各種の漬物にされていたことは《延喜式》によって明らかであるが,ゆでて食べるなども行われたと思われる。室町時代すでに京都の東山カブは有名であった。これが4kgもの大きさになる聖護院(しようごいん)カブで,のちに薄く切って千枚漬の材料とされるようになる。これと並んで近江カブ,大坂四天王寺付近で産した天王寺カブも大型,かつ,その美味をうたわれた。カブは種類を問わず種々の漬物にされることが多い。著名なものには,千枚漬のほか京都上賀茂の酸茎(すぐき),長野県の野沢菜漬,あるいは岐阜県,愛媛県その他の赤カブの漬物がある。家庭でつくる小カブのぬかみそ漬や酢漬の味もすてがたい。煮びたしなどにするのもよいが,ゆでたての熱いものをユズみそなどで食べる〈ふろふき〉,すりおろして白身の魚などと蒸す〈かぶら蒸し〉などはまさに日本の美饌(びせん)といえよう。
執筆者:鈴木 晋一
〈天正かるた〉から派生したかるたの一種。おもに賭博(とばく)に使用される。かぶは,古くは〈かう(迦烏,加宇)〉と呼ばれ,寛文(1661-73)ごろの刊行といわれる《浮世物語》にもこの名が見える。初めは天正かるたを用いて遊んだが,のちに専用のかぶ札が作られた。天正かるたの4種のマークのうち1種をとって,全部の札が一つの図柄で統一されている。地方により種々作られたが,おもに近畿地方で使用されている〈株札(かぶふだ)〉が,今日ではもっとも一般的で,1から10までの札が各4枚ずつ合計40枚からなる。代表的な遊び方に〈おいちょかぶ〉があり,親が表向けに並べた4枚の場札に子が点を張り,さらに場札の下に伏せた札と張った札との合計数の終りの数字が得点となる。親も別に自分の札をとる。最後に札を開き,親と子1人ずつで勝負を決め,点の高いほうを勝ちとする。9が最高点で,〈かぶ〉と呼ぶ。なお,同種の遊びの〈きんご〉は,15を最高点とする。
→骨牌(かるた)
執筆者:村井 省三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アブラナ科(APG分類:アブラナ科)の越年草。カブラともいい、またスズナともよばれ、春の七草の一つ。ヨーロッパあるいはシベリア温帯にわたる地域が原産地とされる。中国へは約2000年前に伝播(でんぱ)し、『斉民要術(せいみんようじゅつ)』(530ころ)には栽培や利用に関する詳細な記述がある。『三国志』で有名な蜀(しょく)の軍師諸葛孔明(しょかつこうめい)が行軍の先々でカブをつくらせ、兵糧の助けとしたので、カブのことを諸葛菜(しょかつさい)とよぶというエピソードがある。日本へは中国を経て、ダイコンよりも古く渡来した。『日本書紀』には、持統天皇(じとうてんのう)の7年3月に、天下に詔して、桑、紵(からむし)、梨、栗、蕪菁(あをな)などを植え、五穀の助けとするよう勧めるとの記載がある。平安時代の『新撰字鏡(しんせんじきょう)』や『本草和名(ほんぞうわみょう)』には阿乎奈(あをな)とあり、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』では蔓菁、和名阿乎菜、蔓菁根(かぶら)、加布良(かぶら)とある。『延喜式(えんぎしき)』には、根も葉も漬物にして供奉されたとの記載があり、種子は薬用にもされていたほか、栽培法の概要も記されており、平安中期にはかなり重要な野菜であったことがわかる。平安末期の『類聚名義抄(るいじゅうみょうぎしょう)』では、蔓菁根、蕪菁、蕪菁子(なたね)と使い分けの生じたことが知られる。江戸時代には『本朝食鑑』『和漢三才図会』『成形図説』『百姓伝記』『農業全書』『菜譜』などに品種名を伴った記載があり、当時すでに品種が分化していたことがわかる。
夏に播種(はしゅ)すると秋に発芽し、根出葉を茂らせ、根を肥大させる。越冬した翌春にとう立ちして高さ1.5メートルになり、黄色の十字花をつける。根は球形や大根形、勾玉(まがたま)形などに肥大し、その大きさ、形、色彩は品種によりさまざまである。現在都市の市場に出る品種は主として白色の丸カブであるが、地方在来品種のなかには鮮紅色のものや長カブもあり、主として漬物用としてふるさとの味になっている。外国の品種には紫や黄色のものもある。日本在来品種群(アジア系)と西ヨーロッパ系品種群に大別され、ほかに近年の改良育成品種群がある。大まかにみて、在来品種群は西日本、西ヨーロッパ系品種群は東日本に、中部地方を境界にして分布しており、カブの伝播、品種分化を考えるうえで興味ある事実といえる。ただし、例外的な分布をする品種もいくつかある。現在、80ほどの品種があり、千葉、埼玉両県が主産地で、あとは全国で広く栽培されている。
カブの旬(しゅん)は秋から冬であるが、時無(ときなし)カブの系統は周年栽培されて市場に出回る。ダイコンと異なり、耕土がそれほど深くない土地でも栽培できる。間引きと苗のときの害虫防除が重要な作業である。日本在来のカブのなかには、山形県庄内地方の温海(あつみ)カブのように焼畑栽培でつくられるものがあり、文化史的にも興味深い。
[星川清親 2020年11月13日]
おもに漬物として利用される。各地に郷土名産のカブ漬けがあるが、なかでも天保(てんぽう)年間(1830~1844)に始められた京都の聖護院(しょうごいん)カブの千枚漬けや、同じく京都の酸茎菜の漬物、滋賀県の日野菜の桜漬け、長野県の野沢菜の漬物などはとくに有名である。一般に煮物、汁の実、塩漬け、ぬかみそ漬け、酢漬けなどにする。時無系の小カブは盛夏を除いてほぼ一年中市場に出るが、中形から大形のカブは秋から冬にかけて出回る。根部は100グラム中にビタミンCを17ミリグラム含む。葉はビタミンA、Cをそれぞれ1000IU、75ミリグラム含むので、捨てずに有色野菜としていっしょに利用するとよい。かつては米飯の増量材料に、また凶作時のいわゆる「かてもの」として重要であった。家畜飼料用の品種もある。
[星川清親 2020年11月13日]
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