糸遊(読み)イトユウ

デジタル大辞泉 「糸遊」の意味・読み・例文・類語

いと‐ゆう〔‐ゆふ〕【糸遊】

陽炎かげろう 春》「―に結びつきたる煙かな/芭蕉
糸遊結び」の略。
「―などの末濃の御几帳」〈栄花・音楽〉
[補説](1)語源未詳で、歴史的仮名遣いを「いとゆふ」とするのは、平安時代以来の慣用。(2)「糸遊」は和語「いとゆふ」が陽炎の意の漢語遊糸ゆうし」の影響を受けてできた表記。(3)晩秋晴天の日にクモが糸を吐きながら空中を飛び、その糸が光に屈折してゆらゆらと光って見える現象が原義で、漢詩にいう遊糸もそれであるという。

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精選版 日本国語大辞典 「糸遊」の意味・読み・例文・類語

いと‐ゆう‥ゆふ【糸遊イウ】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 春の晴れた日に、蜘蛛の子が糸に乗じて空を浮遊する現象。蜘蛛の糸が光を受けて流れ乱れるさまは、薄い絹織物(漢詩では「碧羅」)にたとえられる。また、蜘蛛の糸が光の加減で見えたり見えなかったりするところから、あるかなきかのものにもたとえられる。遊糸(ゆうし)。《 季語・春 》
    1. [初出の実例]「かすみ晴れみどりの空ものどけくてあるかなきかに遊ぶいとゆふ〈よみ人しらず〉」(出典:和漢朗詠集(1018頃)下)
  3. 春あるいは夏の晴れた日に、地面から立ちのぼる気。陽炎(かげろう)。〔和英語林集成(初版)(1867)〕
  4. いとゆうむすび(糸遊結)」の略。
    1. [初出の実例]「君達御簾あげて、いとゆふの御几帳ども立てわたし」(出典:宇津保物語(970‐999頃)祭の使)

糸遊の語誌

( 1 )和歌で、漢語「遊糸」を題として「いとゆう」の語が作られたものか。
( 2 )が空中をあるかなきかに浮遊する現象であるため、地面から立ちのぼる大気が揺らめいてみえる気象現象の「陽炎(かげろう)」との混乱が生じたとされる。
( 3 )服飾に関する「いとゆう」には、「糸木綿」「糸結う」など諸説があるが未詳。なお、歴史的仮名遣いの「いとゆふ」は平安時代以来の慣用による。

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