デジタル大辞泉 「仮名遣い」の意味・読み・例文・類語
かな‐づかい〔‐づかひ〕【仮名遣い】
2 仮名を用いて文章を書き表す方法。仮名文字の使い方。
「此の日の本の―千言玉をつらぬるも、心を顕すこと読みなす文字のてにはに有り」〈浄・聖徳太子〉
[類語]歴史的仮名遣い・旧仮名遣い・現代仮名遣い・新仮名遣い
「仮名の遣い方」の意であるが、大別して二つの用法がある。第一は、仮名が実際にどのように使用されてきたかという事実であり、第二は、ある語を仮名で書くにあたって、2通り以上の書き方が可能な場合に、そのうちのどれを正しいとすべきかという規範である。第一の意味としては、上代(奈良時代)に用いられた万葉仮名の用法のなかで、エキケコソトノヒヘミメヨロの13の仮名が、語によってそれぞれ、甲乙2類のうちのどちらかを用いるように定まっていたという「上代特殊仮名遣(づかい)」の現象とか、平安時代の末ごろの平仮名の仮名遣いとかいう場合がそれである。第二の意味としては、現在一般に通用している「現代かなづかい」や、現在も古文などに用いられ、以前は一般に使用されていた「歴史的仮名遣」(旧仮名遣い)などがそれである。
仮名遣いの第一の意味は、古く文献が発生したときから以後、各時代にわたって存在したが、第二の意味によるものは、奈良時代・平安時代にはその確かな例がみえず、鎌倉時代に入って、藤原定家(ていか)が定めたとされる「定家仮名遣い」がその最初とみられる。それを記した書のなかで最古のものとされるのは『下官(げかん)集』で、中世以後広く行われた『仮字(かな)文字遣』(行阿(ぎょうあ))は、それを増補したものと考えられる。その内容は、「お」と「を」、「へ」と「え」と「ゑ」、「ひ」と「ゐ」と「い」などの項目をたて、各項目の下にその仮名を含む語を示した語例集であるが、その規準は一種の歴史的仮名遣いであって、定家よりすこし前、おそらく12世紀ごろの文献を典拠にしたものと思われる。そのなかで、語頭の「お」と「を」とはアクセントの高低によって区別したもので、高い音節を「を」、低い音節を「お」と記したが、その方式はすでに橘忠兼(たちばなのただかね)の『色葉字類抄(いろはじるいしょう)』や、僧重誉の『大般若経音義(だいはんにゃきょうおんぎ)』などにもすでにみられるから、定家はそれらの前例を採用したのであろう。その後、和歌・連歌の規式の発達につれて、『人丸秘鈔(ひとまるひしょう)』『後普光園院御抄(ごふこうえんいんみしょう)』『仮名遣近道』『一歩』などの仮名遣い書が現れたが、鎌倉時代中期以後になると、アクセントの歴史的変化がおこり、アクセントの型が変わった語が生じたために、前述の「を」「お」の書き分けの規準が混乱してしまった。南北朝時代に、長慶(ちょうけい)天皇は、定家の仮名遣いがアクセントに符合しないことを批判したが、その説は一般に普及しなかった。近世に入り元禄(げんろく)(1688~1704)のころ、僧契沖(けいちゅう)は、上代の文献を研究している間に、平安中期以前の文献では、「いろは」47文字の区別があって、すべての語について整然と使い分けられていることを発見し、それこそが仮名遣いの規準であると考えて、元禄6年に『和字正濫鈔(しょうらんしょう)』5巻を著した。この書は、「い」「ゐ」「ひ」「を」「お」「ほ」「え」「ゑ」「へ」などの項目をたて、各項目ごとにいろは順に語を配列し、各語にその典拠を示したものである。ついで元禄11年『和字正濫要略』1巻を著し、「正濫鈔」のなかから語を抄出して詳しい考証を付した。元禄9年に橘成員(たちばななりかず)は『倭字(わじ)古今通例全書』を刊行したが、契沖はそれが『和字正濫鈔』を誹謗(ひぼう)したものと考え、『和字正濫通妨抄』5巻を著して激越な論調でこれを反駁(はんばく)した。これら契沖の著書のうち、「通妨抄」は流布した形跡がないが、「正濫鈔」は版を重ね、「要略」は刊行こそされなかったが写本によって流布した。そして、その典拠が古代文献の仮名の用法に合致しているため、それらの考究を目的とする国学の派の人々の間を中心に広まった。その後、楫取魚彦(かとりなひこ)は、掲語を五十音順に改編し、『新撰字鏡(しんせんじきょう)』など古代文献の用例を増補して『古言梯(こげんてい)』1巻を著した。この仮名遣いは、古代の日本を研究する国学者の流派を中心として行われたが、世間一般ではかならずしも使用されず、仏教の僧侶(そうりょ)や漢学者の間をはじめ、古来の伝統を守る和歌の流の人々などにも行われなかった。
明治維新以後、庶民一般にまで教育制度が普及し、また新聞雑誌などの印刷文化が発達するにつれて、教科書や印刷物などにこの歴史的仮名遣いが規準として採用され、世間全般に急速に広まった。しかし、それは「いろは」47文字を基準とするもので、国語史的にみれば、10世紀のころの発音によっており、その後、国語の音韻は大幅に変化したから、ことに近世以後になると、発音との隔たりが大きく、当時のことばを書くには、語ごとにいちいち記憶しなければならないなど、不便な点が多かった。ことに漢字の字音の仮名遣いについては、契沖が着目した古代文献のなかにその仮名書きの例が乏しいために、江戸時代中期以後、僧文雄(もんのう)、太田全斎、本居宣長(もとおりのりなが)、関政方(まさみち)、白井寛蔭(ひろかげ)などの字音研究によって、『韻鏡(いんきょう)』などを根拠にして大綱はつくられたものの、問題点が多く残されていた。このような風潮のなかで、1897年(明治30)になると、仮名遣いを現代語音によったものに改めようとする運動がおこり、1900年(明治33)「小学校令施行規則」によって、「おー」「こー」のようないわゆる「棒引仮名遣」が公布され、教科書にも適用されたが、批判が強く、08年には廃止され、世間にはあまり広まらなかった。24年(大正13)臨時国語調査会の仮名遣改定案が発表されたが、強い反対意見があった。その後、新たに設置された国語調査会は、42年(昭和17)「新字音仮名遣表」を発表したが、戦時下のため行われなかった。
第二次世界大戦終了後、社会の大変革のなかで、1946年(昭和21)「現代かなづかい」が成立した。これは「当用漢字」1850字とともに内閣訓令として公布されたものであったが、学校教科書、新聞雑誌をはじめとして世間一般に急速に広まった。これは「新仮名遣い」とよばれ、従来の仮名遣いは「旧仮名遣い」として、教科書などにみられる文語文や一部の人々の間だけに残るに至り、明治以後の文学作品などまで新方式に改められるようになった。「現代かなづかい」の規則は、従前の「旧仮名遣」を基にしてそれを改める形をとっており、助詞の「を」「は」「へ」を旧の形のままで認めたり、「みかづき」(三日月)や「ちぢむ」(縮む)のような「づ」「ぢ」などを連濁や連呼の際に残すなど、純粋に表音的ではなく、旧方式からの過渡的要素をも含んでいる。また、その規則の構成のなかで不整備の点があり、それらを含めて再検討の要望も生じてきている。
[築島 裕]
『山田孝雄著『仮名遣の歴史』(1929・宝文館)』▽『木枝増一著『仮名遣研究史』(1933・賛精社)』▽『橋本進吉著『文字及び仮名遣の研究』(1949・岩波書店)』▽『大野晋著『仮名遣と上代語』(1982・岩波書店)』▽『尚学図書編・刊『新しい国語の表記』(1985)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…このいろは歌は,仮名の学習にあたって必ず学ばれ,やがて,弘法大師の作であるとの伝説によってますます重んぜられるにいたった。このような関係から,いろは歌は,仮名遣いの問題を引き起こすもととなった。すなわち,時代の推移につれ,日本語の発音に変化が生じ,いろは歌では区別されている仮名のうち,その書き分けについて疑問となるものが出てきたのである。…
…
[問題の発生]
明治初年ヨーロッパと交通が開けてみると,アルファベットの簡単な西洋語にくらべて,日本語が多くの漢字を学習せねばならず,文字学習の負担が大きいことを見て,これを改革しなければならないと考える人々が現れた。それとともに仮名遣いや送り仮名法の問題も考えられ,江戸時代封建制度の下にはなはだしくなった各地の方言を統一して一つの標準語を確立しなければならなくなった。これらが国語国字問題発生の原因である。…
…日本では,〈正字法〉から憶測して漢字の一点一画の正しい書き方と考える人もいるが,それは適当ではない。仮名だけで書くときの仮名遣いの基準,ローマ字だけで書くときのローマ字のつづり方,および分かち書きの基準のことと考えるのが適当である。しかし,最近では,その範囲を広げて,ある語またはその部分を漢字で書くか,仮名で書くか,どの漢字を使うかなどの基準も含めて考えるようになった。…
…日本語はユーラシア大陸の東の端に浮かぶ日本列島(北海道,本州,四国,九州などからなる〈本土列島〉と琉球列島)において,1億2000万の住民により話されている言語である。話し手の数の点からだけ言えば,世界における〈有力な言語〉の一つであると言うこともできるが,これらの島の中で,他民族の言語と境を接することがなく,ほぼ日本国の単一言語として使用されているので,日本語は主としてその分布のあり方の面で〈島国の言語〉という特殊性をもっている。…
…言語を視覚的に表す記号の体系をいう。
【音声言語と文字言語】
言語行動には,音声を素材とする〈音声言語行動〉と,文字を素材とする〈文字言語行動〉とがある。古くは,両者は十分に区別して考察されることがなかったが,両者の差異がしだいに明らかにされてからは,一般に言語あるいは言語行動という場合には主として音声言語ないしは音声言語行動をさしていうのが普通で,文字を媒介として成立する文字言語(行動)は言語の研究において第二義的な位置が与えられてきた。…
※「仮名遣い」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
冬期3カ月の平均気温が平年と比べて高い時が暖冬、低い時が寒冬。暖冬時には、日本付近は南海上の亜熱帯高気圧に覆われて、シベリア高気圧の張り出しが弱い。上層では偏西風が東西流型となり、寒気の南下が阻止され...
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