かげろう かげろふ【陽炎】
〘名〙
① 光と影とが、微妙なたゆたいを見せる現象。強い
直射日光で地面が熱せられ、地面に近い空気が暖められて
密度分布にむらができるために、そこを通過する光が不規則に屈折させられて、揺れ動いて見えるもの。特に、春の晴れた日に、
野原などで見られる現象をさすことが多い。平安時代以降の
和歌では、あるかな
きかに見えるもの、とりとめのないもの、見えていても
実体のないもののたとえとされることが多い。また、「
かげろう(
蜉蝣)(一)②」と混同して解され、はかないもののたとえとなることもある。かぎろい。
かげろい。《季・春》
※班子女王歌合(893頃)「夏の
月光惜しまず照る時は流るる水にかげろふぞ立つ」
※俳諧・猿蓑(1691)四「野馬
(かげろふ)に子共あ
そばす狐哉〈凡兆〉」
② 草の
一種という。①を誤解したもの。〔
八雲御抄(1242頃)〕
[
補注]①を、
漢語の「遊糸」から、古くは、中晩秋、または
初春の
快晴の日に、ある種のくもの子が糸を出して風に乗って空を浮遊するものをいったと解する説もある。
かぎろい かぎろひ【陽炎】
〘名〙
① 春のうららかな日に、
地上から立つ
水蒸気によって光がゆらいで見えるもの。かげろう。《季・春》
※
古事記(712)下・
歌謡「
埴生坂(はにふざか) わが立ち見れば 迦藝漏肥
(カギロヒ)の 燃ゆる家群
(いへむら) 妻が家のあたり」
※
万葉(8C後)一・四八「東
(ひむがし)の野に炎
(かぎろひ)の立つ見えてかへりみすれば月かたぶきぬ」
③ 炎などによって空の赤く染まって見えるもの。
かぎろ・う かぎろふ【陽炎】
〘自ハ四〙 空を赤く染めて光る。また、光や影がゆらいで見える。
※一高寮歌・春爛熳の花の色(1901)〈
矢野勘治〉「秋玲朧の
夕紅葉 山の端近くかぎろへる 血汐の色の
夕日影」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「陽炎」の意味・読み・例文・類語
かげろう〔かげろふ〕【陽=炎】
春の天気のよい穏やかな日に、地面から炎のような揺らめきが立ちのぼる現象。強い日射で地面が熱せられて不規則な上昇気流を生じ、密度の異なる空気が入りまじるため、通過する光が不規則に屈折して起こる。かぎろい。糸遊。《季 春》「丈六に―高し石の上/芭蕉」
[類語]かぎろい・蜃気楼・海市・空中楼閣・逃げ水・浮き島
かぎろい〔かぎろひ〕【陽=炎】
1 かげろう。
「―のもゆる荒野に白たへの天領巾隠り」〈万・二一〇〉
2 夜明け方の光。
「東の野に―の立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ」〈万・四八〉
[類語]かげろう・蜃気楼・海市・空中楼閣・逃げ水・浮き島
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
普及版 字通
「陽炎」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
陽炎 (かげろう)
日ざしの強い日に舗装道路の路面近くを通して遠くを見ると,景色がゆらゆらとゆれて見える。このような現象をかげろうと言う。地物や地面に日が当たると,そこが熱せられ,そのそばの空気も暖まって,上昇気流となって上へ昇る。この時まわりの冷たい空気といり乱れ,そこを通る光線が不規則に屈折するために起こる現象である。星の瞬き(シンチレーション)も似た原因でおこる。俳句では春の季語になっているが,春に限って起こる現象ではない。
執筆者:畠山 久尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
陽炎
かげろう
heat haze
直射日光で熱せられている地面の上や,焚き火の上などを通して遠くを見たとき,遠方の物体が細かくゆれたり形がゆがんで見える現象。空気が局部的に熱せられて対流が起こり,局所的に密度が変化するため屈折率が変化し,そこを通る光線の向きが種々の方向に変化することによって起こる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
陽炎
1991年公開の日本映画。監督:五社英雄、原作:栗田教行による同名小説、脚本:高田宏治。出演:樋口可南子、仲代達矢、本木雅弘、荻野目慶子、かたせ梨乃、川谷拓三、竹中直人ほか。熊本の花街・二本松を舞台とする男女の愛憎劇。
出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報