絃上(読み)ケンジョウ

デジタル大辞泉 「絃上」の意味・読み・例文・類語

けんじょう【絃上/玄象】[謡曲]

《「げんじょう」とも》謡曲五番目物。唐へ渡ろうとした琵琶の名人藤原師長ふじわらのもろながの前に、村上天皇梨壺女御なしつぼのにょうごの霊が現れて名演奏を聞かせ、名器獅子丸ししまるを与える。

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改訂新版 世界大百科事典 「絃上」の意味・わかりやすい解説

絃上 (けんじょう)

能の曲名観世流は《玄象》とも書く。五番目物。河上神主作という。シテは村上天皇の霊。琵琶の名手藤原師長(もろなが)(ツレ)は,渡唐の志を立てて都を出て,須磨の浦で潮汲みの家に泊まる。その家の老人(前ジテ)から所望されて琵琶を弾いていると雨になる。老人が苫(とま)を取り出して屋根に上げるので不審がると,老人は,こうして琵琶の音と雨の音を調和させたのだと説明する。皆が驚いて琵琶を与えると,老人はすばらしい演奏を聞かせる。名をたずねると,実は村上天皇の霊で,師長の渡唐を留めに来たのだと告げて消え去る。やがて霊(後ジテ)は昔の姿で現れ,海底に沈んでいた名器の琵琶獅子丸を竜神(ツレ)に持って来させ,それを師長に与えて舞を舞うのだった(〈早舞・ノリ地〉)。

 変化に富むおもしろい構想の能である。老人が琵琶を弾く段の〈梅が枝にこそ……〉の謡は,雅楽《越殿楽(えてんらく)》に合わせる歌い物をそのまま取り入れたもので,旋律を古型に復元するとそのことが判明する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「絃上」の意味・わかりやすい解説

絃上
げんじょう

能の曲目。五番目物。五流現行曲。観世(かんぜ)流は『玄象(げんじょう)』と表記する。作者不明。琵琶(びわ)の名手藤原師長(もろなが)(ツレ)が奥義を求め渡唐を志す。従者(ワキ)とともに須磨(すま)の浦で宿を借りるが、老人夫婦(前シテ、前ツレ)が奏する『越天楽(えてんらく)』に驚く。老人は琵琶の名器「絃上」の持ち主であった村上(むらかみ)天皇、琴の上手な姥(うば)は梨壺(なしつぼ)の女御(にょうご)の霊であった。慢心を恥じ入唐(にっとう)を思いとどまった師長の前に、ありし日の優姿を現した村上天皇(後シテ)は、中国から渡来する途中、竜宮にとられた名器「獅子丸(ししまる)」を竜神(後ツレ)に命じて持参させて師長へ与え、自身は秘曲を舞う。音楽を主題とし、海を背景とする雄大な能。「玄象」の名は『枕草子(まくらのそうし)』以来、琵琶の霊異の名器であることが、『平家物語』『徒然草(つれづれぐさ)』に至る数々の古典に語られている。

増田正造

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世界大百科事典(旧版)内の絃上の言及

【富士太鼓】より

…なお,曲中,〈越天楽を舞はうよ……〉のあとに,〈越天楽歌物(うたいもの)〉の歌が含まれる。これは,(1)の続編ともいうべき能《梅枝(うめがえ)》や《絵馬》《絃上》中にも取り入れられるほか,能から出た地歌《梅が枝》の中や,箏組歌《梅が枝》にもとられている。【平野 健次】。…

※「絃上」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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