翻訳|histology
解剖学の中の一分野。特定の構造と機能をもった細胞どうしが目的に応じて集合し,機能上,構造上の合目的性をもった一つの有機体を形成したものを組織といい,この組織という材質の組合せとして生体を研究する学問が組織学である。これに対して,生体を器官という部品からなりたつ構造として,その微小な構築まで研究していく学問は,顕微解剖学microscopic anatomyとよばれる。もっとも組織学と顕微解剖学とはかなり混同して用いられることばで,ときにはほとんど同義語として理解されることもある。
生体を顕微鏡を用いて拡大して観察しようとする試みは17世紀にはじまり,R.フック(イギリス),A.vanレーウェンフック(オランダ),J.スワンメルダム(オランダ),M.マルピーギ(イタリア)などによって生体のいろいろな構造物が観察され,多くの発見がなされた。しかし,彼らは個別的に事物を観察しただけで,生体を構成する組織という認識には立っていない。ただ,それ以前の16世紀に,イタリアのパドバ大学教授で卵管(ファロピオ管)にその名の残るG.ファロピオは,まったく肉眼的観察だけで骨,軟骨,神経,靱帯,腱,皮膚,脈管(脈をうつ管),血管,骨髄,実質臓器などの組織に思いをはせている。
組織tissue(ドイツ語でGewebe)という概念をある程度体系的につくりあげたのは,18世紀末から19世紀初頭に活躍したフランスのM.F.X.ビシャーであった。すでに述べたように,現在では組織学は顕微解剖学(顕微鏡的解剖学)の同義語とされる傾向にあるが,皮肉にもビシャーは顕微鏡を用いずに肉眼だけで生体を観察し,21の組織に分けたのである。すなわち,(1)細胞組織,(2)動物性神経組織,(3)内臓性神経組織,(4)動脈組織,(5)静脈組織,(6)微小血管組織,(7)リンパ管組織とリンパ腺組織,(8)骨組織,(9)骨髄,(10)軟骨組織,(11)繊維性組織,(12)繊維性軟骨組織,(13)動物性筋組織,(14)内臓性筋組織,(15)粘膜組織,(16)漿膜(しようまく)組織,(17)滑液膜組織,(18)腺組織,(19)真皮組織,(20)表皮組織,(21)毛髪組織である。
ヒストロギーHistologie(ドイツ語)という名称は,1819年ドイツのマイヤーAugust F.J.K.Mayer(1787-1865)によってつくられた。19世紀前半のドイツに大生理学者J.ミュラーが現れ,機能的解剖学を開拓し,その多数の門下生が19~20世紀に組織学者として活躍したが,時あたかもT.シュワンやM.J.シュライデンが細胞学説をとなえたころで,組織学発展の素地は十分できていたのである。なお,この時期の組織学の発展に関して見のがせない大きな要素は,顕微鏡の発達と,それに付随する固定,切片標本製作,染色などの技術の確立であった。
チューリヒ,ハイデルベルク,ゲッティンゲンの各大学で教授として活躍したJ.ヘンレは,1841年に《Allgemeine Anatomie》を著したが,これが系統的な組織学の開拓書である。上皮組織は彼の確立した概念である。またJ.ミュラーの弟子であり,J.ヘンレの助手であったビュルツブルク大学教授ケリカーRudolf Albert von Kölliker(1817-1905)は,1852年最初の組織学教科書ともいうべき《Handbuch der Gewebelehre des Menschen》を公にした。彼は組織学を総論と各論に分け,細胞組織Zellengewebe(上皮に当たる),結合物質組織Gewebe der Bindesubstang(支持組織に当たる),筋組織Muskelgewebe,神経組織Nervengewebe,血管腺組織Gewebe der Blutgefässdrüsen(今日の内分泌腺その他の実質臓器などに当たる)に分けた。これが現在の組織の分類のはじまりであり,現在ではこれをうけて,動物組織を上皮組織,支持組織,筋組織,神経組織に四大別している。このように,まさに組織学は19世紀におもにドイツで発展したのであった。
現在の組織学は四大別した組織を総論として取り扱い,各器官の構造を組織学各論として取り扱っている。しかも電子顕微鏡によって組織構造や細胞構造の詳細が明らかになり,1960年ころから組織学の内容は一段と精密になってきている。なお植物学では,組織学と解剖学は同じものとして扱われ,植物解剖学のなかで研究されている。
執筆者:藤田 尚男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生物組織の構造と相互関係を研究する学問をいう。組織は細胞と細胞間物質によって構成されるので、組織学の対象も必然的に細胞のレベルまで下がるが、細胞学が細胞の内部構造や機能の研究に重点を置くのに対して、組織学はむしろ細胞集団としての組織を扱い、また組織によって成り立つ器官の研究も重要なテーマである。
方法としては光学顕微鏡による組織切片の観察が現在においてももっとも基本的であるが、近年の透過型および走査型電子顕微鏡の発達は、組織学の大きな発展をもたらしつつある。またオートラジオグラフィー、免疫組織化学などを含む組織化学の技術も、主として組織内の特定の生体物質の分布を調べるのに有効な方法である。生きたままの組織を観察するためには位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡が用いられる。歴史的にみると、組織学は顕微鏡の発明とともに発達し、その後は相次ぐ顕微鏡標本作製法の改良(固定法、染色法、薄切(はくせつ)技術)によって飛躍的に進歩した。
現在では、動物組織は上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織、遊走細胞組織に大別され、植物組織は表皮系、維管束系、基本組織系に分類されたり、あるいは表皮、皮層、中心柱に分類されたりする。
[八杉貞雄]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし解剖学が医学の教育に用いられるようになり,進歩をとげるのは幕末~明治に入ってからである。 現在の解剖学は肉眼的解剖学macroscopic anatomyと顕微鏡的解剖学microscopic anatomyに大別されているが,前者はさらに骨学,靱帯学,筋学,脈管学,神経学,内臓学,感覚器学などに分けられ,後者は組織学histologyとほぼ同義に用いられる。組織学は19世紀ころになって体系づけられた。…
…しかし解剖学が医学の教育に用いられるようになり,進歩をとげるのは幕末~明治に入ってからである。 現在の解剖学は肉眼的解剖学macroscopic anatomyと顕微鏡的解剖学microscopic anatomyに大別されているが,前者はさらに骨学,靱帯学,筋学,脈管学,神経学,内臓学,感覚器学などに分けられ,後者は組織学histologyとほぼ同義に用いられる。組織学は19世紀ころになって体系づけられた。…
…いいかえれば,個体および個体以下のレベルでおこる生命現象のうち視覚的にとらえられるものを対象とするのが形態学であるが,対象物のレベルや研究目標によっていくつかに類別することができる。 ある一種の生物についてこのような研究がなされる場合は,多少とも生理的機能との関連があるため生理形態学ともよばれ,解剖学,組織学,細胞学,発生学などがこれに含まれる。この種の形態学は,生体内の機能や作用を主対象とする生理学と対比されることが多い。…
…心臓は心筋,血管,神経などの組織からなる器官であり,それらの組織が一定の秩序をもって結合し,一定の機能を果たしている。 組織を研究対象とする生物学の分野を組織学という。細胞学がおもに細胞の一般性や細胞内部の問題に注目するのに対し,組織学においては相互に有機的関連をもつ細胞間の結合様式,さらに組織相互の関係が研究される。…
※「組織学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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