ヘンレ(読み)へんれ(英語表記)Friedrich Gustav Jacob Henle

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘンレ」の意味・わかりやすい解説

ヘンレ
へんれ
Friedrich Gustav Jacob Henle
(1809―1885)

ドイツの解剖学者。ハイデルベルク、ボンの両大学で医学を学び、ベルリン大学のミュラーの下で解剖学を修めた。1840年チューリヒ大学、1844年ハイデルベルク大学、ついでゲッティンゲン大学解剖学教授となり、新興組織学の研究で卓越した業績をあげた。その著作『一般解剖学』(1841)は顕微鏡的組織学を開拓するものである。細胞の構造、とくに上皮細胞の研究を進め、これが皮膚や胃腸などの内臓の表面、そして体腔(たいくう)の内表面のすべてを覆う重要な存在であることを明らかにした。そのほか組織学上の業績は、腎臓(じんぞう)のヘンレ係蹄(けいてい)(ヘンレのわな)、前立腺(せん)尿道部のヘンレ括約筋、末梢(まっしょう)神経のヘンレ鞘(しょう)、ヘンレ靭帯(じんたい)(鼠径(そけい)靭帯)、精細管のヘンレ細胞など、ヘンレの名を冠する多数の解剖学的構造物の名称に反映されている。

 病理学でも貢献し、1840年にはきわめて微細な動物性の伝染性病毒(病原性微生物)の存在を示唆している。

[澤野啓一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘンレ」の意味・わかりやすい解説

ヘンレ
Henle, Friedrich Gustav Jakob

[生]1809.7.19. バイエルンフュルト
[没]1885.5.13. ゲッティンゲン
ドイツの解剖学者,病理学者。組織学の創始者。 1834年ベルリン大学で J.ミュラーの解剖助手,40年チューリヒ,44年ハイデルベルク,52年ゲッティンゲン各大学教授。乳び管,毛髪血管漿膜,肝,腎,眼,爪から中枢神経にいたるまで広範囲を対象に組織学的研究を行い,上皮組織および腎臓のヘンレ係蹄を発見。また論文『瘴気と接触伝染病』 Von den Miasmen und Contagien und von den miasmatisch-contagiösen Krankheiten (1840) では,R.コッホにさきがけて病原菌の存在を予測し,伝染病の病因を述べている。

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