イタリアの解剖学者。ボローニャ近郊のクレバルコレに生まれる。ボローニャ大学で医学を学び、同大学の教授となる。しかし、頑迷な同僚たちに排斥され、ピサ大学、メッシーナ大学へ移り、晩年にはローマ法王の侍医となった。顕微鏡を用いて生物の微細構造を次々と明らかにしていったが、とくに肺の毛細血管を発見して、ハーベーによって提唱された「血液循環理論」を完成させた功績は大きい。近代科学の自覚的な先駆者として、機械モデルによって人体と生物の機構を明らかにしようとし、かつ、人体の複雑さの解明には、より下等な動植物の機構の解明を糸口とすべきであると提唱し、実行した。前者の観点からは内臓諸器官の微細構造の研究が、後者の観点に基づく業績としては、植物の道管、昆虫(カイコ)の変態や気管系の研究がある。発生の研究、とくにニワトリの初期発生(胚(はい))の途上でエラの痕跡(こんせき)が出現することの発見も特筆される。
[澤野啓一]
イタリアの解剖学者。ボローニャ近郊の小農場主の子として生まれ,ボローニャ大学で医学を学んだ後,ピサに移りアカデミア・デル・チメントに参加。晩年ローマに招かれて教皇インノケンティウス12世の侍医となる。G.A.ボレリ,F.レディらとの交友を通じて生命現象の機械論的な解釈に興味をおぼえ顕微鏡を用いて生体の微細構造を精査した。この結果新しく発見されたものとして,肺の毛細血管,皮膚の感覚器官,脳の灰白質の分布,腎皮質中のマルピーギ小体などがある。また,完全な動物の生理現象を理解するには,研究がより簡単にできる不完全あるいは病的な生物を調べればよいとし,《カイコの研究Dissertatio epistolica de bombyce》(1669),《植物解剖学Anatome plantarum》(1675,79)を著したが,両著ともそれぞれの分野での先駆的業績として高く評価されている。同じ意図のもとにおこなわれたニワトリの胚の初期発生を顕微鏡で追跡したすぐれた研究は,一貫して前成説の立場で貫かれ,発生に関する機械論的なアプローチの一典型を示している。
執筆者:月沢 美代子
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…微小な物体を拡大して観察することを目的とした装置。広義には,電子線を利用する電子顕微鏡,イオンを利用するイオン顕微鏡なども含むが,単に顕微鏡といえば光を利用した光学顕微鏡を指す。光学顕微鏡は,対物レンズによって微小な物体の拡大された実像を作り,これを接眼レンズによってさらに拡大しながら明視の距離に虚像を作るものである。この対物レンズと接眼レンズ両者の組合せによって形成されるいわゆる複式顕微鏡は,オランダの眼鏡師ヤンセン父子(Hans JanssenおよびZacharias Janssen)によって1590年から1609年ころにかけて発明されたといわれ,この複式顕微鏡が今日のすべての顕微鏡の基本的構成となっている。…
…この説によれば,発生過程の基本は,成体の微小な原型が成長していく変化にすぎない。17世紀になって顕微鏡観察がはじまり,それまでは頭部と心臓しか出現していないと思われていた時期に,胚体の諸部分がすでに形成されている事実が,M.マルピーギによって発見された(1672)。またJ.スワンメルダムは,さなぎのなかに成体が折りたたまれて入っていることを明らかにした(1669)。…
… 微小循環という名称が一般に用いられるようになったのは1960年代ころからであるが,その研究の歴史は300年以前にさかのぼる。1661年,イタリアのM.マルピーギはカエルの肺ではじめて毛細血管を発見し,1674年,オランダのA.レーウェンフックは自作の顕微鏡を用いてウナギの尾部で毛細血管内の赤血球の流動を観察した。以後19世紀初頭まではおおむね形態学的な観察の記述にとどまっていたが,そのころ微小循環の重要性に着目し,構造,機能の両面から広範な研究を行って近代微小循環学の基礎を築いたのがデンマークのクローSchack August Steenberg Krogh(1874‐1949。…
…赤色髄の構造はウィーンの外科医ビルロートTheodor Billroth(1826‐94)によって明らかにされた。一方,リンパ球の集合からなるリンパ組織である白色髄はM.マルピーギによって発見され,それにちなんでマルピーギ小体ともよばれる。さて,脾臓をおおう被膜はところどころで分枝して脾柱trabecula lienisとなって脾臓の実質の内部に入りこみ,比較的大きな血管が脾柱に導かれて実質内に分枝する。…
※「マルピーギ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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