日本大百科全書(ニッポニカ) 「総合社会学」の意味・わかりやすい解説
総合社会学
そうごうしゃかいがく
synthetic sociology
限定された特定の対象をもつ特殊科学としての社会学とは反対に、社会全体の総合的な認識を目ざす社会学。フランスのコント、イギリスのスペンサーによって代表される古典的な社会学は、この総合社会学としての性格を有した。コントは「ユマニテ」(人類という意味と人間性という意味が同時に含まれる)を、スペンサーは一つの大きな有機体としての社会を研究対象とした。また、彼らはいずれも総体としての社会の発展法則を明らかにしようとし、コントは人類社会が「神学的段階」から「形而上(けいじじょう)学的段階」を経て「実証的段階」に至るという「三段階の法則」を説き、スペンサーは「軍事型」から「産業型」への社会の進化を説いた。さらに、コントは社会学以外の社会諸科学の存在を認めなかった。この点では社会学主義をとるフランスのデュルケームもそうであるが、デュルケームの場合には、経済社会学、政治社会学、法社会学などの分化した諸特殊社会学の存在を認めていた点でコントと異なる。だがデュルケームも、特殊分野を研究する特殊社会学に対して、それらを統一する一般社会学の存在を信じていたから、それは総合社会学といえよう。
古典期の総合社会学は、社会の総体を一挙に、どこにも中心を置かずに把握しようとした点で、かえって総体の把握に科学性を欠く結果になった。しかしフランスのM・モースもいうように、分離した諸部分でなく、全体、社会全体との関連によらずしては、なにものも理解されない。社会全体の構成部分でないいかなる社会現象も存在しない。したがって部分を通して全体に迫るのが、現代のあるべき総合社会学の姿といえよう。現代は優れて経済的な時代と直観する者は、経済という部分領域を通して全体に迫り、優れて政治的な時代と直観する者は、政治という部分領域を通して全体に迫ることになろう。
[古賀英三郎]
『大河内一男他編『世界の名著36 コント/スペンサー』(1970・中央公論社)』▽『E・デュルケーム著、宮島喬訳『社会学的方法の規準』(岩波文庫)』