表面に2条の平行線を引いた小切手(小切手法37,38条)。横線(おうせん)小切手ともいう。小切手の盗難または遺失により不正の小切手所持人に支払がなされる危険の防止を目的とする制度である。
一般線引小切手と特定線引小切手の2種がある。一般線引小切手は小切手の表面に2条の平行線を引き,その線内に何も書かないかまたは〈銀行〉もしくはこれと同意義の文字(例えばbank)を記載したものである。一般線引小切手の場合には,支払人たる銀行は他の銀行または自己の取引先に対してのみ支払うことができる。〈取引先〉とは,支払人たる銀行と従来から当座預金,普通預金等の取引があり,銀行からみてその同一性が明らかな者をいう(ただし,これよりも厳格に,取引の状況と小切手金額を対比してみて,その者が小切手を正当に取得したと認めうる状況があることが必要であるとする見解も有力である)。特定線引小切手は,小切手の表面に2条の平行線を引き,その線内に特定の銀行の名称を記載したものである。この場合には,支払人は被指定銀行に対してのみ,または被指定銀行が支払人のときは自己の取引先に対してのみ支払うことができる。線引の記載をなしうるのは,振出人または小切手の所持人である。所持人は線引の記載をゆるめる変更はできない。
支払に関する上記の制限があるため,線引小切手の取得者は,自己の取引銀行を通さないと小切手の支払を受けることができない。なお,銀行は自己の取引先または他の銀行からのみ線引小切手を取得することができ,また銀行はこれらの者以外のために線引小切手の取立てをすることはできない。線引小切手の取扱いに関する上記の制限に違反した銀行は,損害賠償責任を負う。
線引小切手はイギリスで発達した制度であるが,ドイツではこれに類似した制度として計算小切手がある。これは現金では支払わず,振替え,手形交換等の方法でのみ決済される小切手である(日本では認められていない。ただ,外国で振り出され,日本で支払うべき計算小切手についてのみ,一般線引小切手としての効力が認められている。小切手法74条)。
執筆者:中西 正明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
小切手の表面に2条の平行線を引いたもので、横線(おうせん)小切手ともいう。小切手は支払い手段として用いられるが、紛失、盗難などによって不正の所持人が支払いを受ける危険を予防するために設けられたのが線引小切手の制度である。小切手法(昭和8年法律57号)第5章に線引小切手に関する規定がある。線引小切手には一般線引と特定線引の2種類がある。前者は小切手面に単に2本の平行線を引くか、その間に「銀行」「BANK」などの文字を記したもので、支払い金融機関は自行の取引先か他の金融機関以外には支払うことができない。後者は2本の平行線の間に「××銀行渡り」のように特定の金融機関名を記したもので、これは、その指定された金融機関に対してのみ支払われ、また支払い金融機関自体が指定されているときは自行の取引先に対してのみ支払われる。線引をなしうる者は、小切手の振出人または所持人である。いったん線引がなされた場合には、受領資格の制限の強化すなわち一般線引を特定線引に変更することは認められるが、制限の弱化すなわち特定線引を一般線引に変更することは許されない。また、線引の抹消や、特定線引の被指定銀行の名称の抹消は認められない。
なお、支払銀行が裏面に振出人の届出印が押捺(おうなつ)された線引小切手の店頭呈示を受け、その呈示者に現金支払いをした場合、線引違反による損害に対して賠償責任を負わない旨を振出人との間で特約することができる。これを当事者間の線引排除または線引抹消の特約という。
[井上 裕]
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