日本大百科全書(ニッポニカ) 「縛られたプロメテウス」の意味・わかりやすい解説
縛られたプロメテウス
しばられたぷろめてうす
Prometheus Desmotes
古代ギリシアの大悲劇詩人アイスキロスの悲劇。上演年代は不明。近代のヨーロッパ文学でもしばしば取り上げられたプロメテウス神話を素材にしている。クロノスとティタンたちとの戦いに勝って世界の支配権を握ったゼウスは人類を滅ぼそうとするが、これを憐(あわ)れんだプロメテウスが人間に火を与えて滅亡から救った。ゼウスはプロメテウスの博愛的行為に怒って彼を岩山に縛り付ける場面から舞台が始まる。合唱隊との対話、オケアノスとの対話を通して、プロメテウスは現在の自分が受けている不当な屈辱を訴える一方、ゼウスの暴虐非道を非難する。そののち、暴君ゼウスの第二の犠牲者として乙女イオが半狂乱の姿で現れ、ゼウスの専横がいっそうあからさまに示される。最後には、プロメテウスはゼウスの脅迫にも屈せず、その抵抗の姿勢を貫き、タルタロスの谷底に投げ込まれる。この作品は、プロメテウスの人間への好意とゼウスの専制横暴とを対立的に描き、プロメテウスの反抗の姿は多くの人々の共感をよんでいるが、アイスキロスの他の作品にみられる正義を守るゼウスへの敬虔(けいけん)な信仰とは相いれない面もあり、いろいろと問題を含んでいる。『解放されるプロメテウス』はこれに続く作品。『火をもたらすプロメテウス』がこの「プロメテウス三部作」のなかで第1作か第3作になるのかは不明。この2作は断片のみが伝わっている。
[橋本隆夫]
『呉茂一他訳『ギリシア悲劇全集Ⅰ 縛られたプロメーテウス・オレステイア三部作・テーバイに向かう七将』(1960・人文書院)』