羊水塞栓(読み)ようすいそくせんしょう

家庭医学館 「羊水塞栓」の解説

ようすいそくせんしょう【羊水塞栓(症)】

 肺塞栓症(はいそくせんしょう)(コラム「肺塞栓症」)の特殊な型と考えられます。
 妊娠に関連して、子宮内(しきゅうない)胎児死亡(たいじしぼう)(「胎児死亡」)、稽留流産(けいりゅうりゅうざん)(「稽留流産」)、常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)(「常位胎盤早期剥離(早剥)」)、前期破水(ぜんきはすい)(「前期破水」)などが基礎疾患となり、胎脂(たいし)(胎児の皮脂)や胎児の皮膚細胞などの胎児成分母親の血管内に流入し、肺の微小血管につまることにより生じるという説と、羊水ようすい)中のある種の化学活性物質が原因という説があります。
 羊水塞栓は急激に発症することが多く、症状胸部苦悶(くもん)(胸苦しさ)、チアノーゼ、せき、頻脈(ひんみゃく)、血圧低下、出血傾向などがみられます。激症型では、瞬時に死亡することもあります。
 肺塞栓が軽度の場合には、播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)(DIC(「播種性血管内凝固症候群(DIC)」))を続発し、著しく出血します。分娩ぶんべん)中におこった場合などは、胎盤(たいばん)の剥離面から大出血をおこすこともあります。
 治療は、急性ショックに対する救急処置、DICに対する薬物療法主体となります。
 確定診断にはバフィーコート法といって、母親の心臓の右心系の血液を採取して、胎児の皮膚や胎脂に由来する成分が含まれていないか調べる方法が用いられることもありますが、一般的には、その特徴的な症状から推定して診断されます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「羊水塞栓」の解説

羊水塞栓
(女性の病気と妊娠・出産)

 羊水塞栓はお産の最中または出産の直後に、突然の呼吸困難、胸部の苦悶(くもん)感が生じ、不穏状態、けいれん、ショック状態、呼吸停止、DIC播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群)、心停止を起こして死亡する、お産の合併症としては最も重症で予後の悪い(死亡率は60~70%といわれている)疾患です。

 2~3万分娩に1例と発生はまれですが、予測が事実上不可能で、ひとたび発症すると急速に進行するため、診断がつかないまま死亡する例も多く、亡くなったあとの解剖所見で初めて診断がつくこともあります。

 羊水とそれに含まれている胎児の成分(胎脂、胎便、胎児の皮膚細胞など)が、子宮から母体の血管に流れ込んで、主に肺の血管に詰まるとともに、全身性のアレルギー反応(アナフィラキシー反応)を起こすと考えられています。呼吸循環障害とともに大量の出血を伴うことも多く、現代の最新医療技術を用いても依然として救命が難しい疾患です。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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