美女と野獣(読み)ビジョトヤジュウ(その他表記)La belle et la bête

デジタル大辞泉 「美女と野獣」の意味・読み・例文・類語

びじょとやじゅう〔ビヂヨとヤジウ〕【美女と野獣】

《原題、〈フランスLa Belle et la Bête
童話の一。魔法で醜い野獣の姿に変えられた王子が、心優しい娘の愛によって本来の姿に戻る。18世紀のフランスの童話作家ボーモン夫人によるものが有名。
1946年公開のフランス映画コクトーの監督作品で、を脚色した幻想的な恋愛劇。同年のルイ=デュリュック賞を受賞。

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改訂新版 世界大百科事典 「美女と野獣」の意味・わかりやすい解説

美女と野獣 (びじょとやじゅう)
La belle et la bête

1946年製作のフランス映画。J.コクトー監督作品。アバン・ギャルド映画《詩人の血》(1930)をつくり,また,中世の伝説的な恋物語トリスタンイゾルデ》を現代化したジャン・ドラノア監督の《悲恋》(1943)の脚本を書いたコクトーが,同じ年にドキュメンタリータッチのレジスタンス映画《鉄路の闘い》を撮るルネ・クレマン監督を〈技術顧問〉にしてつくった作品である。

 冒頭のコクトー自筆の字幕が〈世界はいま,あらゆるものを破壊し去ろうと熱中しているが,おとぎ話が天国へ寝そべったまま連れていってくれた,あの少年時代の信頼感と素直さとを取りもどしたい〉と述べているように,ルプランス・ド・ボーモン夫人のおとぎ話をコクトー自身が脚色,《鉄路の闘い》のカメラマンでもあるアンリ・アルカン(撮影),画家でファッション・デザイナーのクリスティアン・ベラール(美術),ジョルジュ・オーリック(音楽)らの協力を得て,17世紀オランダの画家フェルメールの画をもとにしたといわれる画調で華麗かつ幻想的に描いている。ドイツの占領から解放されたフランス映画が再び外国市場への道を開くきっかけの一つとなった重要な作品である。なお,同じ題材が79年,スロバキア人のシュルレアリスト,ユライ・ヘルツによりリメークされている。
執筆者:

コクトーの脚本の原作となったのは,フランスの童話作家ルプランス・ド・ボーモンLeprince de Baumont夫人(1711-80)の代表作として知られる同名の作品。夫人が教育的目的で執筆・構成した《子どもたちの宝庫》(1757)の一編で,この作品もヨーロッパにひろく流布した昔話がもとになっている。物語は3人の息子と3人の娘をもった商人が遠出の帰路,森の野獣の御殿に迷い込み,身代りに娘をひとり差し出す約束をさせられる。気だてのよい器量よしの末娘だけが身代りになるのを承知する。娘は,王女様のようにたいせつにされ,野獣が心やさしいのを知るが,その醜い姿を見ると結婚に同意する気になれない。病気の父を見舞うため家に帰るのを許されると,美しく着飾った妹をねたんだ姉たちは約束の日がきても帰さない。ある夜,末娘は瀕死の野獣を夢に見,急いで帰り,息も絶えだえの野獣に愛の言葉をかけると,意地悪な仙女に野獣に変えられていた王子が元の美しい姿に戻る。ふたりは結婚し,幸福な生活を送る。いささか教訓的なところがあるが,幻想味豊かな作品として,現在もひろく親しまれている。
執筆者:


美女と野獣 (びじょとやじゅう)

ヨーロッパの異類婚姻譚の代表的な話型。しかしこの題名は,フランスの映画監督ジャン・コクトーの作品で有名になったもので,昔話の場合には,《太陽の東・月の西》(ノルウェー),《歌って踊るヒバリ》(《グリム童話》88番)などの題名をもつ。ヨーロッパではむしろ,〈アモールとプシヒェ型〉(ドイツ),〈キューピッドとサイキ型〉(イギリス)と呼ばれている。

 三人姉妹の末娘が,父が野獣と交わした約束に従って野獣の妻になる。野獣は夜の間だけ男の姿になる。妻は夫から言われたタブーを守って,その姿を見ないでいるが,身内の者にそそのかされて,明りで照らして見てしまう(または名前を尋ねる)。タブー違反によって夫は去り,妻は困難な探索の旅に出る。他の娘との結婚直前の夫を発見し,途中で出会った援助者からの贈物,あるいは途中で助けてやった動物の援助で,夫に自分を再認識させる。ヨーロッパでは,野獣は実は魔法をかけられた人間で,娘の力で魔法が解かれる。日本の〈猿婿〉など一群の異類婚姻譚では,異類がもともと動物である点が,ヨーロッパと異なる。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「美女と野獣」の意味・わかりやすい解説

美女と野獣
びじょとやじゅう
La Belle et la Bête

フランスの童話作家ボーモン夫人の童話集『子供たちの雑誌』Magazine des enfants(1757)中の代表童話。魔法によって野獣にされた王子が、心優しい娘の、野獣の醜さや恐ろしさをものともしない純粋至上の愛によって、呪(のろ)いが解けて元の王子に返る物語。ここには、子女教育に一生を捧(ささ)げた作者の女教師としての教育哲学が要約され、作者の生きた大革命前夜のフランス社会の混乱、モラルの低下に対する批判が反映しているとされている。しかし、この話のテーマは作者の独創ではなく、古来ヨーロッパ各地に伝承されてきた「魔法と呪い」のテーマをもつ『美女と怪物』『ヘビにされた王子』『小蛙(こがえる)姫』などの民話を洗練させたものである。また、この話は、ジャン・コクトー監督、ジャン・マレー主演で映画化(1946)された。

[榊原晃三]

映画

フランス映画。1946年作品。監督ジャン・コクトー。フランスの童話作家ボーモン夫人の童話を、詩、小説、絵画、演劇、映画などさまざまな芸術分野で活躍する才人コクトーが自らの脚色で映画化した代表作。野獣の館の、人の腕になっている燭台(しょくだい)や柱の動く彫像など、コクトーの出自を物語るシュルレアリスム的なオブジェをはじめとして、衣装や装置は独特の美意識に貫かれており、奇妙で幻想的な大人向けのおとぎ話の世界をつくりあげている。主演はジャン・マレー。音楽は『詩人の血』(1930)からコクトーの主要作品を担当しているジョルジュ・オーリック。撮影はルネ・クレマンの『鉄路の闘い』(1945)でも高い評価を受けたアンリ・アルカンHenri Alekan(1909―2001)。ルネ・クレマンが技術顧問として参加している。フランスの映画賞ルイ・デリュック賞受賞。

[伊津野知多]

『鈴木豊訳『美女と野獣』(角川文庫)』

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デジタル大辞泉プラス 「美女と野獣」の解説

美女と野獣〔ディズニー〕

①1991年製作のアメリカ映画。原題《Beauty and the Beast》。アニメ映画として初めてアカデミー作品賞にノミネートされた、ディズニーの長編アニメ第30作。監督:ゲイリー・トゥルースデイル、カーク・ワイズ、声の出演:ペイジ・オハラ、ロビー・ベンソン、アンジェラ・ランズベリーほか。第64回米国アカデミー賞作品賞ノミネート。同作曲賞受賞。第49回米国ゴールデングローブ賞作品賞(ミュージカル・コメディ部門)受賞。
②①の主題歌。カナダの女性シンガー、セリーヌ・ディオンと黒人男性シンガー、ピーボ・ブライソンがデュエットした。リリースは1991年。全米第1位を獲得し、1992年のゴールデングローブ賞最優秀歌曲賞、アカデミー賞最優歌曲賞を受賞。また1993年グラミー賞最優秀ポップ・パフォーマンスを獲得。原題《Beauty And The Beast》。
③①をベースとした1994年初演のミュージカル。原題《Beauty and the Beast》。作詞:ハワード・アシュマン、作曲:アラン・メンケン。ウォルト・ディズニー社初の舞台作品として製作。日本でも1995年より劇団四季によって上演された。1998年に第22回ローレンス・オリヴィエ賞(新作ミュージカル賞)を受賞。
④2017年のアメリカ映画。原題《Beauty and the Beast》。監督:ビル・コンドン、出演:エマ・ワトソン、ダン・スティーヴンス、ルーク・エヴァンスほか。①の実写化。

美女と野獣〔ドラマ〕

アメリカ制作のテレビドラマ。原題は《Beauty and the Beast》。放映はCBS局(1987~1990年)。ニューヨーク、マンハッタンの地下の洞窟に隠れ住む獅子のような容貌を持つ異形の男性と女性弁護士とのロマンスを描く。リンダ・ハミルトン、ロン・パールマン主演。

美女と野獣〔映画〕

1946年製作のフランス映画。原題《La Belle et la Bête》。監督:ジャン・コクトー、出演:ジャン・マレー、ジョゼット・デイ、マルセル・アンドレほか。

美女と野獣〔小説〕

米国の作家エド・マクベインのミステリー(1982)。原題《Beauty And the Beast》。「ホープ弁護士」シリーズ。

美女と野獣〔戯曲〕

加藤直による戯曲。初演は劇団結城座(1985年)。1986年、第30回岸田国士戯曲賞の候補作品となる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「美女と野獣」の意味・わかりやすい解説

美女と野獣
びじょとやじゅう
La Belle et la Bête

ヨーロッパの有名な伝説。父親の犠牲となってやむなく醜い怪物と結婚した娘が,愛の力によって怪物を魔術から解放し,怪物は高貴な王子の姿に戻って娘とともに幸福に暮すという物語。種々の文学作品で扱われたが,特にボーモン夫人の作品 (1757) ,コクトーの映画 (1946) が有名。

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世界大百科事典(旧版)内の美女と野獣の言及

【コクトー】より

…評論集《雄鶏とアルルカン》(1918),《阿片》(1930),《在ることの困難》(1947)などは,コクトーの芸術論であると共にその人間観を述べた好個のエッセーである。映画《詩人の血》(1931),《永劫回帰》(1945),《オルフェ》(1950)などには,おとぎ話に真実を探るこの作者らしい面がみられ,なかでも《美女と野獣》(1946)の幻想的な美しさは忘れがたい。作家ラディゲや俳優ジャン・マレーとの交友,阿片中毒,第2次大戦前の日本訪問を含む早まわり世界一周など,コクトーにまつわる逸話はおびただしい。…

※「美女と野獣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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