歴史は古く,すでに古代文明において神殿の宝庫という形で存在したが,この場合には芸術的価値よりも宗教的価値が優先した。個人による収集が行われるようになるのはヘレニズム時代からで,ペルガモンの王アタルス2世の絵画コレクションがその最初の例の一つ。ローマ時代にはカエサル,ネロ,ハドリアヌスなどの皇帝や貴族たちによってギリシアの美術品の収集が行われ,ときには公開された。初期キリスト教時代および中世では,寺院がその役割を果すようになり,また彫刻や絵画だけでなく写本,聖器類,宝石,貴金属,象牙なども収集保存された。ルネサンス期にいたって,再び個人による収集が盛んになり,イタリアのメディチ家,エステ家,ゴンツァガ家などが古典古代の遺品を大量に収集し,アルプス以北では神聖ローマ皇帝ルドルフ2世が多種多様の貴重品の大収集を行なった。以後個人コレクションは質量ともに増大し,また収集家の数も増加するが,18世紀中頃から主要な個人コレクションは一般に公開されるようになる。 1743年メディチ家のコレクションが A. M.ルドビカによって,同じ頃ウィーンの王室コレクションが皇后マリア・テレジアによって一般公開された。 19世紀に入るとこれらの主要なコレクションは国家の管理に移され,美術館,博物館が生れた。なお,中国では西洋よりも早く美術品の収集が行われていたといわれ,また日本でも奈良の正倉院が示すように美術品収集の歴史はきわめて古い。