フランスの作家フロベールの劇形式をとった散文作品。1874年刊。3世紀後半、北アフリカ、テーベの砂漠に庵(いおり)を結んだ実在の聖者アントワーヌを主人公とし、その眼前に一夜の間、肉欲を象徴するシバの女王をはじめ、さまざまな異端の神や偶像、異形の怪物が登場して、誘惑のことばを連ねる。最後に聖者は地上のあらゆる動植物の誕生と成育のさまを幻想に見て、歓喜の叫びをあげたおりしも、夜が明けて、差し昇る日輪のただなかにキリストの顔が輝くのを見て、十字を切り、祈りを捧(ささ)げる。作者の習作時代から27年間に三度も稿を改めたこの執念の作品は、さすがに濃縮された硬質の美に輝き、思想的にも深く窮められている。
[山田
]
『渡辺一夫訳『聖アントワヌの誘惑』(岩波文庫)』▽『『聖アントワーヌの誘惑』(渡辺一夫・平井照敏・山田九朗訳『フローベール全集 第四巻』所収・1965・筑摩書房)』
春になって暖かくなりかけた頃、急に寒さが戻って、地面などがまた凍りつく。《 季語・春 》[初出の実例]「七瀬御秡 同晦日也。〈略〉雪汁いてかへる」(出典:俳諧・誹諧初学抄(1641)初春)...