聞こえさす(読み)キコエサス

デジタル大辞泉 「聞こえさす」の意味・読み・例文・類語

きこえ‐さ・す【聞こえさす】

[動サ下二]《「言う」の謙譲語「聞こゆ」に使役助動詞「さす」が付いて、その謙譲の度合いを強めた語》
申し上げる。
「せちに―・すべき事なむある」〈大和・一五五〉
手紙を差し上げる。
「人てならで―・せむ」〈紅葉賀
補助動詞動詞連用形に付いて、謙譲の意を表す。…申し上げる。
「いつしか出でさせ給はなむと待ち―・するに、いとひさし」〈・二七八〉
[補説]直接ではなく、人を介して申し上げるという形式をとることによって、その相手と距離を置き、へりくだる気持ちを強めた語。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「聞こえさす」の意味・読み・例文・類語

きこえ‐さ・す【聞さす】

  1. 〘 他動詞 サ行下二段活用 〙 ( 「きこえる(聞)」の未然形「きこえ」に、使役の助動詞「さす」が付いて一語化したもの。この場合、「さす」は謙譲の意を強めるはたらきをする )
  2. [ 一 ] 「きこえる(聞)[ 二 ][ 一 ]」の、対象を敬う度合を一層強めた謙譲語。
    1. 「言う」の謙譲語。申しあげる。お耳にお入れ申しあげる。
      1. [初出の実例]「いと切にきこえさすべきことありて、殿より人なむ参りたると聞こえ給へ」(出典:大和物語(947‐957頃)一七一)
      2. 「きこえさせつるやうに、かたちなど、いとまほにも侍らざりしかば」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
    2. 文通音信などをする意の謙譲語。(手紙などを)さしあげる。また、手紙など人づてで、申しあげる。
      1. [初出の実例]「まかでんことはいつとも思う給へわかれねば、きこえさせん方なく」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
    3. 「願う」「懇望する」の意の謙譲語。お願い申しあげる。
      1. [初出の実例]「いと嬉しう、聞えさせたりし物を賜はせたりしなん、よろこび聞えさする」(出典:落窪物語(10C後)一)
    4. ある人のことを「世間の人が…という」の意で、呼ばれる人を敬っていう。(名を)…とお呼び申しあげる。
      1. [初出の実例]「このおとど、これ大入道殿の御三郎、粟田殿とこそはきこえさすめりしか」(出典:大鏡(12C前)四)
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いる。「きこえる(聞)[ 二 ][ 二 ]」の用法と同じであるが、動作の対象を敬う度合が強い。他の動詞に付いて、その動詞の表わす動作の対象を敬う謙譲語。…申しあげる。
    1. [初出の実例]「いつもおろかに思ひきこえさせざりし御すまひなれど」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
    2. 「なほさて待ちつけきこえさせむ事のまばゆければ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)

聞こえさすの補助注記

( 1 )「聞こゆ」よりも謙譲の意が強い。平安時代末になると、「聞こゆ」と敬意は同等近くになると同時に、急速に衰え、補助動詞には「参らす」が用いられるようになってくる。
( 2 )「聞こえさす」の「さす」は「聞こえさせ給ふ」などのように尊敬の用法もあるので、注意を要する。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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