肝膿瘍とは、肝臓外から発生原因となる細菌や原虫などが肝組織内に進入・増殖し、肝内に膿瘍(うみが貯留した袋)を形成する病気の総称です。
病原体により、細菌性(化膿性)、アメーバ性に分けられ、発症の背景、臨床像、治療法は異なっています。また、近年、肝臓や胆道の病気を治療したあとや、抗がん薬治療後に発症する肝膿瘍が報告されています。
細菌性肝膿瘍の原因として、
①
②
③急性
④外傷による肝損傷部に感染を起こし生じる場合
⑤切除不能の膵胆道系悪性腫瘍や肝がんに対する治療後に発症する場合
などがあります。
アメーバ性肝膿瘍は、
発熱、全身
アメーバ性肝膿瘍では、前述の症状に加え、血性下痢が認められます。
血液検査では、白血球の増加、CRPの高値、胆道系酵素(アルカリホスファターゼなど)の上昇などが認められます。超音波検査、CT、MRIなどで、膿瘍の存在の有無、大きさ、数、周囲臓器への影響などを調べます。
細菌性肝膿瘍は、早期に診断し治療を開始しなければ、
また、体外にうみを誘導するために経皮的に膿瘍
アメーバ性肝膿瘍では、メトロニダゾール(フラジール)を投与します。
上腹部痛を伴う急性の発熱があった場合は、消化器内科を受診します。肝胆道系の治療を受けたことがある場合は、担当医から肝膿瘍を合併する可能性が説明されていると思われますので、その指示に従いましょう。
胆石症、肝内結石、胆道感染症、肝細胞がん、胆管細胞がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん
葛西 眞一, 紀野 修一
肝膿瘍とは、肝臓のなかに細菌やアメーバの感染によって化膿した部分(膿瘍)ができる病気です。
多くはおなかのなかに何らかの炎症がみられたのち、それに引き続いて起こるのが普通です。たとえば、細菌によるものでは
アメーバ性の多くは、東南アジアや衛生状態の悪い地域に行って、食べ物や飲料水から
寒気や震えとともに高熱が出て、汗をかいて熱が下がるという状態を繰り返します。右肋骨の下あたりに重苦しい痛みがあり、その部位を押すとさらに痛みを強く感じます。このような状態が続くと、
診察をすると、肝臓がはれて押すと痛みがあることがわかります。血液検査では炎症により白血球数が増え、AST(GOT)、ALT(GPT)、ALPなど肝機能の数値も上昇します。アメーバの多くは抗体反応が陽性に出ます。腹部エコー(超音波)やCT検査を行うことにより、肝臓のなかに化膿した部分(膿瘍)を見つけることができます。
最終的には、超音波検査で膿瘍を見ながらそこに針を刺し、膿を採取して培養を行い、顕微鏡で見ることによって、細菌や赤痢アメーバを確認します。
細菌性では抗生剤を点滴します。アメーバ性ではメトロニダゾールという薬をのむことになります。これらの薬が効かない時、または最初から化膿した部分が大きい場合には、ドレナージを行います。これは、検査で膿を採取した時と同じように外から肝臓に管を刺し、なかの膿を吸引して治療を行う方法です。
それでも治りが悪い場合や緊急時には、外科手術により膿瘍を切除することもあります。
肝臓に膿瘍ができるのは、体の抵抗力が低下している状態なので、入院して治療しなければならない病気です。前述の症状がみられる場合は、早めに受診してください。
斎藤 明子
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
肝臓内に化膿性炎症をおこし限局性に膿(うみ)がたまる疾患であり、病因によって細菌性肝膿瘍とアメーバ性肝膿瘍に分けられる。
[菅原克彦]
胆管結石や胆道悪性腫瘍(しゅよう)による胆道閉塞(へいそく)が原因となる上行性感染、虫垂炎や憩室炎のような腹腔(ふくくう)内感染症による門脈性血行性感染、細菌性心内膜炎のような全身感染症時の肝動脈性血行性感染、まれには腹膜炎や胆嚢(たんのう)炎から炎症が直接波及したり、肝外傷が原因で発症することがある。膿瘍は単発することが多く、大きさは多様である。ときに肺と交通したり、横隔膜下に膿瘍をつくることがある。起炎菌でもっとも多いのは大腸菌、ついでブドウ球菌であるが、まれに嫌気性菌がみられることもある。
症状は、悪寒を伴う発熱、右上腹部痛、食欲不振などで、肝腫大と圧痛がみられ、肺と肝臓の境界が上昇し、胸水貯留や黄疸(おうだん)などを伴うことがある。検査所見では白血球の増加、アルカリフォスファターゼ値の上昇などがみられ、単純X線像で横隔膜の偏側が挙上し、可動性を失っているのが特徴である。また超音波エコーグラムなどによる画像では、限局性疾患として認められる。治療は、強力な化学療法によるが、無効なときは切開して排膿する。
[菅原克彦]
アメーバ赤痢の患者の大腸病巣から赤痢アメーバEntamoeba histolyticaが門脈を介して肝臓に至り、膿瘍を形成する。孤立性で肝臓の右葉に多く、内容はペースト様である。右季肋(きろく)部(みぞおち)痛、発熱のほか、肝腫大がみられる。糞便(ふんべん)からの赤痢アメーバの検出率は低いが、間接的な赤血球凝集試験などの血清学的検査は陽性である。治療には抗アメーバ剤が有効で、膿瘍が消失しないときは穿刺(せんし)吸引療法などが行われる。
[菅原克彦]
肝臓内に細菌または赤痢アメーバが感染して囊状にふくらんだ病巣部に,膿汁がたまる状態である。細菌性のものでは,胆道感染が肝臓に波及して生じることが最も多いが,虫垂炎などによって細菌が門脈血中に入り,肝臓に病巣を作ることもある。原因菌としては,大腸菌が最も多い。39℃を超える高熱,悪寒・戦慄,持続性の上腹部痛が生じる。肝臓は著しくはれ,強い圧迫痛がみられる。血液中の白血球数も著しい増加を示す。放置すると敗血症を生じ,死亡することも多い。きわめて重篤な病態で,大量の抗生物質投与,外科的排膿,胆汁排出などによって治療を行う。アメーバ性のものは,大腸に感染した赤痢アメーバが,粘膜から門脈血中に入り,肝臓に至って病巣を形成するもので,右葉に多い。囊状の病巣内には,肝臓組織の融解物であるチョコレート様の内容物を含むことが特徴的である。抗原虫剤投与により治療する。
執筆者:松崎 松平
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