虫垂は細い管腔をもっているが,この管腔がなんらかの原因で閉塞すると炎症が起こってくる。これが虫垂炎であるが,盲腸炎とも俗称される。炎症を起こすものは各種の腸内細菌で一定していない。虫垂炎の原因については腸内感染説のほか,血行感染説,アレルギー説や食事に関係があるとする説などいろいろで,決定的なものはない。10~20歳代に最も多く起こる。
症状は便通異常(便秘あるいは下痢),食思不振,悪心などのあとに右下腹部に疼痛が起こってくる。この疼痛も初めは上腹部痛で,しだいに右下腹部に限局してくることが多い。全身的には軽度の体温上昇(37℃台)と白血球数の増加がある。炎症の程度によっては腹部の圧痛に軽重があるが,腹膜炎の徴候や虫垂の炎症が腹膜に及ぶと反射性に腹壁緊張が起こって硬く触れる。これを筋性防御defense musculaireと呼び,外科治療の適応となる。
治療には保存療法と外科療法があるが,保存療法は内科的に局所の安静と冷罨法(れいあんぽう)を行うとともに抗生物質の内服である。炎症がおさまらずに病状が進行する場合や初めから病状が強く腹膜刺激症状のある場合は外科治療の適応である。手術は右下腹部を切開して,化膿した虫垂を切除する虫垂切除術である。
特殊な虫垂炎として注意しなければならないものは,小児や老人の場合と女性の妊娠時の虫垂炎である。小児では訴えが不定であり,診察も思うにまかせず,老人では症状が自覚的にも他覚的にもはっきり出現してこないことが多いので,その診断がむずかしい。また妊娠時の虫垂炎は,妊娠子宮により虫垂の位置が移動するため診断がむずかしい。かつ増大する妊娠子宮により虫垂炎が悪化する傾向が強いので,早期に手術を行うほうがよい。もちろん,流・早産に対する配慮が必要である。なお虫垂炎は霊長類や齧歯(げつし)類にもみられる。
執筆者:立川 勲
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虫垂の炎症で、もっとも頻度の高い腹部急性の外科疾患。一般には盲腸炎ともよばれ、虫様突起炎とよんだこともあったが、1939年(昭和14)に虫垂炎という名称に統一され現在に至っている。原因については古くから種々の説があって、まだ決定的なものはない。すなわち、虫垂内容の停滞など、ある一定の条件下で腸内細菌が虫垂粘膜に炎症をおこすとする腸内細菌説や、扁桃(へんとう)炎の溶血性連鎖球菌など細菌が血流に入って虫垂に定着し炎症をおこすとする血行感染説のほか、食事性酵素説、アレルギー説、自律神経説、糞石(ふんせき)説、異物説、寄生虫説、ウイルス説、外傷説などがある。誘因としては、暴飲暴食、感冒、胃腸炎、便秘、過労などがあげられる。また、発症は乳幼児や高齢者に少なく、10~30歳に多い。かつては男性に多くみられたが、最近は頻度の男女差がなくなってきたほか、一般に菜食者よりも肉食者、農村よりも都会に多く、同一家族に発病率が高い。
症状は、前駆症状として食欲不振、悪心(おしん)や嘔吐(おうと)、下痢や便秘などがみられることもあるが、突然に腹痛や悪心で発症することが多い。まず上腹部痛に始まり、しだいに右下腹部に限局するようになる。最初は間欠性の仙痛様の疼痛(とうつう)であるが、やがて回盲部に限局した持続性の痛みとなる。発熱は37~38℃程度のものが多く、39℃を超えたり、直腸内体温が腋窩(えきか)体温より著しく高くなる場合(腹膜炎)は進行したもので、初期にはみられない。なお、他覚症状としては診断に役だつ圧痛点がいろいろあるが、回盲部の圧痛は大半のものにみられる。
治療は、外科的に虫垂切除を行うことが原則とされているが、内科的に局所の安静と冷罨法(あんぽう)を行うとともに、強力な抗生物質を投与する保存療法も行われる。これによっても再発を繰り返したり、炎症が持続・進行し続ける場合、あるいは初めから腹膜刺激症状のある場合は、外科療法の適応となる。
なお、慢性虫垂炎(俗に慢性盲腸)とよばれるものは「いわゆる慢性虫垂炎」という程度の意味で、定義は不明確である。普通は虫垂自体の病変ばかりでなく、虫垂炎経過後の周辺臓器の癒着、これに基づく腸管の通過障害や機能障害による症状も含まれている。
[岡島邦雄]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…虫垂の管腔がなんらかの原因で閉塞すると,炎症が起こる。これが虫垂炎(俗に盲腸炎)である。盲腸【立川 勲】。…
…老人におけるイレウスは比較的症状が軽いことが多いから手遅れにならないようにしなければならない。イレウス
[虫垂炎]
俗にいう盲腸炎である。これは下腹部の腹痛のなかでも多いものである。…
※「虫垂炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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