内科学 第10版 「胆道感染症」の解説
胆道感染症(胆石症および胆道感染症)
胆道感染症は,主たる感染の部位によって胆囊炎と胆管炎に分類される.いずれも器質的あるいは機能的な胆囊・胆管の閉塞性障害による胆汁うっ滞を背景に胆道内に細菌感染が起こり発症する.下部胆管に閉塞機転がある場合は,胆囊炎と胆管炎は相伴って生じることが多い.
病因・病態
細菌感染の経路としては,腸管内から十二指腸乳頭を経て逆行性感染をきたすものが最も多いが,腸管から門脈を経て胆道に至るもの,肝動脈を介する血行性感染などもある.
各種胆道感染症における胆汁中細菌はその起源を腸管内細菌叢とするものが多く,Escherichia coli,クレブシエラ,エンテロコッカス,エンテロバクターなどが高頻度で分離される.そのほかには,ストレプトコッカス,シュードモナス,プロテウスなどもみられる.また,嫌気性菌であるクロストリジウムやバクテロイデスもしばしば分離される.
1)急性胆囊炎:
急性胆囊炎は胆囊に生じた急性の炎症性疾患であり,急性腹症の3~10%を占める.急性胆囊炎の90~95%は胆囊結石の胆囊頸部嵌頓に起因するが,胆囊頸部や胆囊管に存在する腫瘍が閉塞原因となり,胆囊内感染を引き起こす場合もある.また,血行障害,化学的障害,膠原病,アレルギー反応などが発症要因となることもある.無症候性胆石患者の胆囊炎の年間発症率は1~2%とされている.
急性胆囊炎の炎症は胆囊局所にとどまることが多いが,炎症の悪化により胆囊穿孔,胆囊周囲膿瘍などをきたすと致死的な経過をたどることもある.
急性胆囊炎は重症度および病態・病理から,以下のように分類される.
a)重症度分類:
ⅰ)重症急性胆囊炎:黄疸,重篤な局所合併症(胆汁性腹膜炎,胆囊周囲膿瘍,肝膿瘍),胆囊捻転症,気腫性胆囊炎,壊疽性胆囊炎,化膿性胆囊炎のいずれかを伴い,放置すると致死的転機をたどるもの. ⅱ)中等症急性胆囊炎:高度の炎症反応,胆囊周囲液体貯留,胆囊壁の高度炎症性変化のいずれかを伴うもの. ⅲ)軽症急性胆囊炎:上記以外で,保存的加療が可能なもの.
b)病理・病態学的分類:
ⅰ)浮腫性胆囊炎:発症から2~4日.毛細血管・リンパ管のうっ滞拡張を主体とする変化. ⅱ)壊疽性胆囊炎:発症から3~5日.組織の壊死性出血. ⅲ)化膿性胆囊炎:発症から7~10日.壊死組織に白血球が浸潤し化膿したもの.
2)急性胆管炎:
急性胆管炎は何らかの原因で閉塞した胆管内に急性炎症が発生した病態であり,総胆管結石症によるものが最も多いが,近年では悪性腫瘍,硬化性胆管炎,良性胆道狭窄,術後の胆道吻合部狭窄などが増加している(悪性腫瘍の割合は約10~30%).その他,Mirizzi症候群(胆囊頸部や胆囊管結石による機械的圧迫や炎症性変化により総胆管に狭窄をきたすもの)やLemmel症候群(十二指腸傍乳頭憩室が胆管あるいは膵管を圧排し,胆道・膵管の通過障害をきたすことにより生じる一連の病態)なども原因となる.
重症例では胆管内圧の上昇に伴い細胆管が破綻し,胆汁中の細菌・エンドトキシンが類洞を介して血中へ移行(cholangio-venous reflux)する.胆管内炎症の進行とともに肝膿瘍や敗血症などの致死的な感染症に進展する.
急性胆管炎は重症度により以下のように分類される.
ⅰ)重症急性胆管炎:敗血症による全身症状をきたし,ショック,菌血症,意識障害,急性腎不全のいずれかを伴う. ⅱ)中等症急性胆管炎:全身の臓器不全には陥っていないが,その危険性があり速やかに胆道ドレナージを施行する必要のある胆管炎.黄疸,低アルブミン血症,腎機能障害,血小板数減少,39℃以上の発熱のいずれかを伴う. ⅲ)軽症急性胆管炎:保存的加療が可能なもの.
臨床症状
発熱,悪寒,腹痛,黄疸,悪心・嘔吐,意識障害などがある.また,胆囊炎と胆管炎では胆道閉塞部位の違いにより若干症状が異なる.たとえば,胆囊頸部への結石嵌頓により生じた急性胆囊炎では一般的には黄疸はみられない.
1)急性胆囊炎:
a)自覚症状:右季肋部痛,悪心・嘔吐,発熱が主たる症状である.
b)他覚症状:Murphy徴候(炎症のある胆囊を検者の手で圧迫すると痛みにより呼吸を完全に行えない状態),反跳痛,筋性防御,腫瘤触知などがある.
2)急性胆管炎:
a)自覚症状:発熱,悪寒,腹痛,黄疸が主たる症状で,突然発症することが多い.Charcot3徴(発熱,腹痛,黄疸)をすべて満たすのは50~70%程度であり,これに意識障害とショックを加えたものがReynolds5徴である. b)他覚症状:右上腹部圧痛や筋性防御など.重症例ではショック所見が認められる.
検査成績
1)急性胆囊炎
a)血液検査:白血球数やCRPの上昇が主体で,下部胆管閉塞による胆囊炎以外では肝胆道系酵素の上昇がみられることは多くない. b)画像検査:胆囊腫大(長軸径>8 cm),胆囊壁肥厚(>4 mm),嵌頓した胆囊結石,胆囊周囲液体貯留,などが特徴的である(図9-21-3A).
気腫性胆囊炎では胆囊内にair像がみられる(図9-21-3B)
2)急性胆管炎
a)血液検査:白血球数やCRPの上昇,ALPやγ-GTPなどの胆道系酵素上昇,直接ビリルビン優位の総ビリルビン値上昇,ASTやALTの上昇がみられる.また,胆石性膵炎(胆管結石が乳頭開口部近傍の胆膵管共通管に嵌頓した場合に発症)では膵酵素も上昇する.
なお,重症例では,アルブミン低下,クレアチニン上昇・尿素窒素上昇,末梢血小板数低下(DICによる),PaO2低下が認められる. b)画像検査:肝内外の胆管拡張,胆管狭窄,胆管結石や胆管腫瘍などの閉塞機転がみられる.
診断
急性胆道炎については,胆囊炎・胆管炎ともに診断基準が示されている. 各々を表9-21-1,表9-21-2に示した.
鑑別診断
右上腹部の炎症性疾患(胃十二指腸潰瘍,結腸憩室炎,急性膵炎など),急性虫垂炎,急性肝炎などがある.その他,心疾患やFitz-Hugh-Curtis症候群,腎盂腎炎,右下葉肺炎などの他領域の疾患も念頭におく.
治療
急性胆道感染症の初期治療の原則は,全身状態の改善と胆汁移行性のよい抗菌薬の投与である.また,重症例においては,適切な臓器サポート(輸液,抗菌薬投与,DIC対策)や呼吸循環管理とともに,急性胆囊炎では緊急手術,急性胆管炎では緊急胆道ドレナージを行う.軽症例では,緊急処置は必要としないが,保存的治療に反応しない場合は手術やドレナージを検討する.
1)急性胆囊炎:
原則として胆囊摘出術を行う.黄疸例や全身状態不良例では一時的な胆囊ドレナージも考慮する.胆囊ドレナージには経皮経肝ドレナージや内視鏡的経乳頭的ドレナージがある.一般的には前者が施行される.
2)急性胆管炎:
胆管ドレナージ法には,経皮経肝的ドレナージ,内視鏡的経乳頭的ドレナージの2通りがある.可能であれば内視鏡的ドレナージを優先させる(図9-21-4).
経過・予後
1)急性胆囊炎:
胆囊摘出術を施行されずに保存的に治療された例では20%程度で再発を認める.急性胆囊炎の死亡率は0~10%と報告されている.
2)急性胆管炎:
多くはドレナージや抗菌薬投与により速やかに改善するが,重症例では非可逆性のショックに陥り多臓器不全により死に至る場合がある.死亡率は3~30%と報告されている.[入澤篤志]
■文献
急性胆道炎の診療ガイドライン作成出版委員会編:科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆囊炎の診療ガイドライン.医学図書出版,東京,2005.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報