日本大百科全書(ニッポニカ) 「能郷の能・狂言」の意味・わかりやすい解説
能郷の能・狂言
のうごうののうきょうげん
岐阜県の白山(はくさん)神社(本巣(もとす)市根尾能郷(ねおのうごう))の例祭(4月13日)に奉納される能と狂言。地元では「猿楽(さるがく)」という古称でよんでいる。東北地方の山伏神楽(やまぶしかぐら)や番楽(ばんがく)、静岡県下の西浦田楽(にしうれでんがく)のはね能などのような能風のものと芸態のうえで一部類似したところをもち、今日の五流能より一段と古い猿楽能の形態を残しているとみられている。能狂言を伝える家は能の家10戸(囃子(はやし)方を含む)、狂言の家6戸の16戸が世襲で定まっている。今日演ずることのできる曲目は、能に『露払(つゆはらい)』『翁(おきな)』『三番叟(さんばそう)』をはじめ、『田村』『難波(なにわ)』『高砂(たかさご)』『八島(やしま)』『羅生門(らしょうもん)』があり、狂言には『百姓狂言』『烏帽子折(えぼしおり)』『二人大名』『塩売山伏』『鐘引』『夷毘沙門(えびすびしゃもん)』『鎮西(ちんぜい)八郎為朝(ためとも)』『粟田口(あわたぐち)』などがある。能郷には1598年(慶長3)書写の狂言間語(あいがたり)台本が伝わり、面は20面が残存する。能郷の能・狂言の系譜は記録がなく明らかではないが、中世の加賀(石川県)白山神社の猿楽の系統を引くものともいわれている。なお、大正初期までは夜間の演能であったという。国の重要無形民俗文化財(1976年指定)。
[高山 茂]