西浦田楽(読み)にしうれでんがく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「西浦田楽」の意味・わかりやすい解説

西浦田楽
にしうれでんがく

静岡県浜松市天竜区水窪(みさくぼ)町西浦(にしうれ)の観音堂に伝わる芸能。陰暦正月18日の修正会(しゅしょうえ)に行われる。三河(みかわ)(愛知県)の鳳来寺(ほうらいじ)田楽とのかかわりが指摘される。田楽と称されるようになったのは近代に入ってからで、それ以前には田遊(たあそび)とよんでいた。演者は別当はじめ地内23戸の能衆(のうしゅう)とよばれる人々で、所役は世襲である。正月7日から準備に入り、18日の宵から19日の夜明けまで、境内に大松明(たいまつ)を焚(た)いて地上で演じる大掛りな祭りと芸能である。演目は地能(じのう)33番に、はね能12番で、前者は田遊および田楽や猿楽(さるがく)などの古能、後者能楽の『高砂(たかさご)』など10曲を編曲したものである。田楽は編木(びんざさら)舞の簡略化したものだが、曲芸の一足高足(いっそくたかあし)もある。国指定重要無形民俗文化財。

[新井恒易]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「西浦田楽」の意味・わかりやすい解説

西浦田楽
にしうれでんがく

静岡県西部,浜松市天竜区水窪町の西浦観音堂で旧暦 1月18~19日に行なわれる行事。観音堂の別当家が中心になり,能衆(のうしゅう)と呼ばれる 7集落 17軒の家が,世襲で各種の役を担う。祭りの中心は地能とはね能と呼ばれる 2種類ので,地能の各演目はそれぞれ演じる家が決まっている。初日の朝,別当家で天狗祭り(非公開)があり,夕方には楽堂で神迎えの「おこない」がある。夜になると能衆が舞庭に上り,まず地能 33番を舞い,続いてはね能 12番が行なわれる。地能は「庭ならし」「獅子舞」といった神迎えの演目から始まり,猿楽とも呼ばれる「猿舞」などのあと,「麦つき」「田打ち」「水口」「種蒔」「よなぞう」「鳥追い」などの田遊びの演目となり,「田楽舞」「仏の舞」や「翁」「三番叟」で終わる。はね能は「高砂」「猩々」「鞍馬」「橋弁慶」などのの演目からなる。こののち,明け方にしずめ役がとがめを受けてあとずさって去る神送りの「しずめ」があり,「火のう」「水のう」で終わる。国指定重要無形民俗文化財。(→田楽

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世界大百科事典(旧版)内の西浦田楽の言及

【田楽】より

…広義には稲作に関する芸能の総称として用いるが,狭義には田楽躍(おどり)を本芸とする職業芸能者が演じる芸能をいう。また田植の囃しや田楽躍に用いる太鼓を称する場合もある。広義の田楽は,(1)田植を囃す楽,(2)職業芸能者である田楽法師による芸能,(3)風流(ふりゆう)田楽の三つに分けて考えるのが便利であるが,日本の民俗芸能分類の用語としての田楽には,予祝の田遊(たあそび)やその派生芸能を含めることが多い。…

【ヒエ(稗∥穇)】より

…岩手県九戸郡山形村でもかつて12月12日の山の神祭に稗粢を供えたという。また,静岡県磐田郡水窪町西浦(にしうれ)では,西浦田楽のときに稗酒や稗だんごを作った。奈良県吉野郡大塔村では稗酒はぜいたく品とされていた。…

【水窪[町]】より

…水窪ダム(1969完成),山王峡は行楽地。西浦(にしうれ)で3月9~10日に行われる西浦田楽は国の重要無形民俗文化財に指定されている。JR飯田線,国道152号線が通じる。…

【もどき】より

…たとえば御神楽(みかぐら)の人長(にんぢよう)と才男(さいのお),能の《》と《三番叟》を,神ともどきの関係としてみることができるし,舞楽の《二ノ舞》は,《安摩(あま)》の答舞の形をとって《安摩》をまねて舞われるが,これは《安摩》に対するもどきである。民俗芸能では,長野県下伊那郡阿南町新野(にいの)の雪祭に登場する〈さいほう〉という神の後に〈もどき〉という面役が〈さいほう〉の所作をおもしろおかしく演じてみせ,静岡県磐田郡水窪(みさくぼ)町の西浦(にしうれ)田楽では,《地固め》《つるぎ》《高足(たかあし)》など庭清めの演目に〈もどきの手〉があり,繰り返し前曲を演じる。もどき的性格は,芸能における役柄や演目だけでなく,祭りの行事次第にもみられる。…

※「西浦田楽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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