脚の脛(すね)に巻きつける服装品の一種。虫やいばら(茨,棘)の類から脚を保護し,雨雪をはじき防寒にもなるほか,足のしまりをよくして疲労を軽くするなど歩行時の動作をしやすくするために用いる。脛巾はガマ(蒲),イグサ(藺草),イチイ,稲わらのぬきなど植物の茎や葉を用いて,四角形または扇形に編み,上下にひもをつけ,これを足に巻いて固定する。かつては農作業や山仕事のほか,一般に旅行,外出,雪中や雨中の歩行にも用いられた。近年ではわずかに農作業や山仕事で用いられている。〈はばき〉の語は古く養老令の衣服令にあらわれており,武官の朝服に赤や白の脛巾が定められている。また《延喜式》では蒲脛巾あるいは脚纏,緋脛巾の類が近衛府の武官に用いられていたようである。室町時代から脚絆(きやはん)の語があらわれ,江戸時代に入ると脛巾と脚絆が併用され,あるときは混同されていたようである。江戸時代の《和漢三才図会》や《嬉遊笑覧》には脛巾の確たる説明がなく,脚絆のみ見られる。《守貞漫稿》には〈脚絆,古は幅キと云〉〈尾張人はハバキと云〉と述べてある。しかし同時代の農学書《耕稼春秋》には〈はばきは藁のぬい(き)穂,蒲などにて編む〉とある。菅江真澄の《遊覧記》には〈男女が蒲のはばきをつけて〉,あるいは〈わらの脛巻をつける〉などとあるが,一方,〈蒲の脚絆をつけた足を〉などの語も見られ,混用しているのがわかる。《北越雪譜》では雪中歩行の用具として,〈わらのぬき,あるいは蒲にて作るハツハキというもの,これは俚俗のとなえにてすなわち裹脚なり。やすくいえばわらのきゃはんなり〉と述べている。東北地方では,植物性のものを〈はばき〉と呼び,布製のものを〈きゃはん〉と呼んでいる。秋田県では最近まで稲わらで作った脛巾が用いられていた。
執筆者:日浅 治枝子
脛巾は旅行者の装束でもあったから,脛巾を脱ぐのは長い旅からの帰着や村への定着を意味した。長野県北安曇(きたあずみ)郡では他所者が村入りする場合に頼むオヤを〈ハバキオヤ〉と称する所がある。また,東北地方では一般に長い旅行から帰ったときの祝いを〈ハバキヌギ〉といい,岐阜県揖斐(いび)郡徳山村(現,揖斐川町)では伊勢参りの坂迎えに,家から峠まで持っていく酒を〈ハバキザケ〉という。旅帰りの祝宴のほか,新潟県村上市では旧暦7月8日の羽黒神社大祭の翌日を〈ハバキヌギ〉という。また石川県鹿島郡では,嫁の荷物の受渡しを婚家で行う際につく餅を〈はばき餅〉といい,本膳の前に別室で人足たちにふるまったという。
執筆者:村下 重夫
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