脚絆(読み)キャハン

デジタル大辞泉 「脚絆」の意味・読み・例文・類語

きゃ‐はん【脚×絆/脚半】

旅行作業などのときに、すねに着けて足ごしらえとした紺木綿などの布。はばき。「手甲てっこう―」
巻き脚絆」に同じ。
[類語]ゲートル

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「脚絆」の意味・わかりやすい解説

脚絆 (きゃはん)

労働や歩行の際,脛(すね)を保護し,動きやすくするためにつける服装品の一つで,広狭2義ある。古く平安時代には脛につける服装品の総称として〈はばき(脛巾)〉という語が行われていたが,室町時代になると〈きゃはん(脚巾,脚絆,脚半)〉という語があらわれ,江戸時代以降は脚絆が総称として用いられるようになった。脛巾と脚絆の区別は,一般的には,脛巾は稲わら,ガマ,イグサなどでつくられたもの,脚絆は主として布製のものとされるが,現在では地域によっては脛巾と脚絆の両方の語が用いられ,現物も混同しているようである。平型と筒型があり,平型には扇形の布の上下に紐をつけて脛に巻く大津脚絆と,脛の太さに応じた〈まち〉を入れて扇形とし,これを巻いて上から下までこはぜでとめる江戸脚絆とがある。筒型のものは筒脚絆ともいい,脛の太さに合わせて円筒形につくり,上下に紐をつけて結ぶ。材料は大半が紺木綿を用い,裏に同色または浅葱木綿をつけて袷(あわせ)仕立てとする。現代では農林業,土木,建築などの作業に使われる。珍しい脚絆として水田作業用にゴム製の長い円筒形のものがある。これらの脚絆とは別に,明治以降第2次大戦まで軍隊中心に用いられた巻脚絆ゲートル)がある。また19世紀から20世紀にかけてヨーロッパで男女間に流行したスパッツspatsは,ゲートルの一種で,ラシャ地などでつくられ,ボタンバックルで留める。現在も同様のものが毛糸などでつくられ,防寒や保護のために用いられる。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「脚絆」の意味・わかりやすい解説

脚絆
きゃはん

労働、旅、防寒のために脛(けい)部にあてて用いるもの。紺木綿でつくられる。女性が四国巡礼などに出向くおりは、白木綿が用いられる。男性も山岳信仰の場合は清浄を重んじて白である。室町時代の絵巻『慕帰絵詞(ぼきえことば)』のなかで、小者(こもの)が着装している図が古い例であろう。江戸時代には、大津脚絆、江戸脚絆、筒脚絆の3種があった。大津脚絆は脛巾(はばき)のようにつくり、脚絆の上部と下部に絎(く)け紐(ひも)をつけて結ぶ。江戸脚絆は布を脛部に当てて裁断し、留め具は上部を絎け紐、ふくらはぎをこはぜ掛けとしたものである。筒脚絆は、京都のほか修験道(しゅげんどう)、狂言などに用いられ、円筒形に仕立てて、上部、下部を絎け紐としたものである。脚絆は長い旅で、脚が疲れるのを防ぐ意味をもっており、明治以降も旧陸軍では革脚絆がつくられ、学生の間でも通学や修学旅行に用いたところもある。

[遠藤 武]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「脚絆」の意味・わかりやすい解説

脚絆
きゃはん

長時間の歩行,労働,防寒,保護などのためにすねに着ける脚衣。別名脛巾 (はばき) ともいい,脛穿 (はぎはき) の略である。大津脚絆,江戸脚絆,筒脚絆などがある。『貞丈雑記』に「大口,ひたたれなど着する時はきゃはんをはくべし,赤ずねの見ゆるに尾籠なる由条々聞書に見えたり,四幅袴の時は,なお以てきゃはんをはく也,ひたたれの時はしゅのきゃはん用ふる由,走衆故実に見えたり」とある。また『和名抄』の行旅具の条にいちび脛巾の名がある。これは『太平記』巻 13に「いちびはばきに乱れ緒をはいて」とみえるもので,イチビの皮でつくった脚絆であり,従者らが用いた。軍装用にも用いられたことは『軍用記』に「臑当の下にはくなり,地は繻子なり,…裏は絹にても布にても縫ふべし,…緒は長さ二尺六寸許,人のすねの大小によるべし」とある。日本の軍隊で用いられたゲートルも,脚絆,巻脚絆と呼ばれた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「脚絆」の意味・わかりやすい解説

脚絆【きゃはん】

防寒,保護または活動を便利にするためすねにつけるもので,脛巾(はばき)に代わって室町時代からこの語が用いられ,もっぱら布製のものをさすようになった。紺木綿に浅黄裏をつけたものが多く,方形または扇形の布の上下にひもをつけた大津脚絆,すねに合わせて裁ち,上部にひも,背部にこはぜをつけた江戸脚絆,円筒形で上部にひもをつけた筒脚絆などがある。→ゲートル

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の脚絆の言及

【脛巾】より

…また《延喜式》では蒲脛巾あるいは脚纏,緋脛巾の類が近衛府の武官に用いられていたようである。室町時代から脚絆(きやはん)の語があらわれ,江戸時代に入ると脛巾と脚絆が併用され,あるときは混同されていたようである。江戸時代の《和漢三才図会》や《嬉遊笑覧》には脛巾の確たる説明がなく,脚絆のみ見られる。…

※「脚絆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android