改訂新版 世界大百科事典 「脱進機」の意味・わかりやすい解説
脱進機 (だっしんき)
escapement
時計機構において,てんぷ,振子などの振動体の振動が持続するように,それらの振動体に間欠的に力を与える装置。振動体と脱進機の働きにより時計の歯車が規則正しく回って指針が正確な時刻を示す。脱進機はできるだけ振動体の周期性を損なわないよう効果的に力を与えることが必要である。初期の機械時計には図のaのような冠型がんぎ車とこれとかみ合って往復運動をする棒てんぷで構成されるバージ脱進機が用いられた。棒てんぷの軸には互いに約90度をなす2個の凸起がある。13枚,または15枚の歯をもつがんぎ車が回転するに従い,歯が上と下の凸起に交互に衝突し,押しのけながら進むので,棒てんぷは左右に振れる。棒てんぷには時間調整用の2個のおもりがつるされている。この脱進機は14~19世紀にわたり塔時計から懐中時計に至るまで広く利用された。17~18世紀には優れた科学者や時計師が競って時計機構の発明,改良に心血を注ぎ,航海用高精度時計(クロノメーター)用や小型時計用にも適用できるものなど多種の脱進機が考案された。図のb,cには現在まで広く用いられている振子時計用の退却型脱進機と携帯時計用のレバー脱進機とを例示した。どちらも振子またはてんぷの振動に伴い,アンクルの二つのつめが左右交互にがんぎ車とかみ合って,がんぎ車の回転力が振子やてんぷに伝達される。レバー脱進機ではてんぷにつけられた振石がアンクルに押されることによって力が伝えられる。
執筆者:小野 茂
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報