日本大百科全書(ニッポニカ) 「脳スキャニング」の意味・わかりやすい解説
脳スキャニング
のうすきゃにんぐ
brain scanning
ラジオ・アイソトープ(RI)を用いて行う、頭蓋(とうがい)内に局在する脳腫瘍(しゅよう)や脳血管障害の部位や病変の診断法で、単に脳スキャン、あるいは脳シンチグラフィ、脳ガンマグラフィともよばれる。脳の毛細血管には血液脳関門blood brain barrier(BBB)があって、酸素などの気体、水、グルコースなどの物質以外は脳実質内へ透過させないようになっている。しかし、病変部ではこのBBBが破壊されているので、投与されたRIは病変部に選択的に集積し、高計数域としてシンチスキャナで描画されるわけである。ガンマカメラで撮影することもある。RIとしては放射性薬剤のテクネチウム99m(99mTc)化合物がおもに使われ、静脈注射する。脳腫瘍の80~90%が検出可能であるところから注目されたが、コンピュータ断層撮影(CT)が開発されてからは、脳スキャンはほとんど診断機器としての価値がなくなってきた。
なお、CTは、1本のX線ビームを180度回転させて脳の水平断面の画像を構成し、X線の吸収率の差を利用して脳出血や脳梗塞(こうそく)などを診断するのに役だつ。たとえば、水の吸収度を0(ゼロ)、空気をマイナス500、骨をプラス500として1000段階に区分し、水平断面は目尻(めじり)と外耳孔を結ぶ線を0として3、5、7センチメートルの断面を描写する。骨は白色、髄液(脳室)は黒色に造影され、また脳出血は高吸収域で白っぽく、脳梗塞は低吸収域で黒っぽく写る。脳出血は発症後すぐに造影されるが、脳梗塞では半日から1日かかる。また、くも膜下出血は動脈瘤(りゅう)が2、3センチメートル以上あれば造影されることもあるが、発見できなくても、血液が髄液に入るので、くも膜下腔(くう)、脳室、脳槽内に高吸収域がみられることもあり、外側溝に血腫形成をみることもある。さらに脳浮腫の存在をはじめ、脳腫瘍、硬膜下血腫、脳室拡大、脳萎縮(いしゅく)の診断にも役だつ。
[荒木五郎]