腕神経叢障害

内科学 第10版 「腕神経叢障害」の解説

腕神経叢障害(神経叢障害)

(1)腕神経叢障害(brachial plexopathy)
 腕神経叢はC5〜T1の神経根から構成され,外傷分娩,炎症(腕神経叢炎),圧迫リュックサック麻痺),腫瘍,肩関節脱臼,手術などさまざまな原因により障害される.解剖学的な損傷範囲から上位型,下位型,全体型に分類される.特殊型として神経痛性筋萎縮症と胸郭出口症候群があげられる.
a.上位型
 腕神経叢の上部でC57からの成分が障害され,Duchenne-Erb型とも称される.三角筋,上腕二頭筋,腕橈骨筋の麻痺による上肢挙上・肘関節屈曲が困難となり,上腕外側に感覚障害を伴う.分娩麻痺や圧迫(リュックサック麻痺)では上位型をとることが多い.
b.下位型
 C8〜T1からの成分が障害されDejerine-Klumpke型ともよばれる.前腕から手内筋の麻痺と前腕から手にかけて尺側の感覚障害が認められる.Pancoast腫瘍,胸郭手術や後述の胸郭出口症候群などにより起こる.
c.全体型
 交通外傷(オートバイ事故)で上腕が強く牽引・伸展される場合には腕神経叢全体が障害され,さらに神経根の引き抜き損傷を合併して広範な上肢麻痺が生じる.また腕神経叢炎の重症型でも全体型を呈する.
d.特殊な腕神経叢障害
ⅰ)神経痛性筋萎縮症(neuralgic amyotrophy)
 肩周囲,上腕の急性激痛に引き続いて,上肢の筋萎縮をきたす疾患の総称である.先行感染,ワクチン接種などが誘因になることがあり,原因としては自己免疫性炎症,血管炎による虚血などが推定されている.副腎皮質ステロイド,免疫グロブリン療法などが有効性なことがあり,軸索変性が進展する前の発症早期に治療を行うことが重要である.
ⅱ)胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome)
 胸郭出口付近で腕神経叢,鎖骨下動脈鎖骨静脈が圧迫されることにより上肢の運動・感覚障害をきたす疾患の総称である.原因としては頸肋,肋鎖(第1肋骨と鎖骨の間),前・中斜角筋,小胸筋付着部による圧迫が多い.血管(鎖骨下動静脈)圧迫による虚血・循環障害によることが圧倒的に多く,神経叢の直接的圧迫によるものはまれである.なで肩の若年女性に多いが,斜角筋,小胸筋の発達した男性例がしばしば存在する.症状は上肢の特定の姿位(過外転など)によって誘発されるしびれ感,だるさのことが多く,神経圧迫による場合を除けば筋萎縮・感覚低下に至ることは少ない.[桑原 聡]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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