分娩麻痺(読み)ぶんべんまひ(その他表記)birth palsy

改訂新版 世界大百科事典 「分娩麻痺」の意味・わかりやすい解説

分娩麻痺 (ぶんべんまひ)
birth palsy

分娩時に児の腕神経叢に発生する麻痺。分娩に際し,児の肩または頭が産道の狭窄部にとらえられたとき,これを解離させようとして,頸部を側屈させたり,引っ張ったりすることによってひき起こされた疾患である。骨盤位分娩や,頭位分娩でも巨大児のとき起こりやすい。巨大児では頭囲よりも肩幅のほうが大きくなるので,肩が捕捉されやすいためである。作用する力が大きくなるにつれ,腕神経叢の損傷は上位から下位に広がるが,上位の損傷度が強い傾向がある。分娩麻痺が発生すると,児は肩の挙上肘関節屈伸が不能となる。手関節の伸展が3ヵ月以内に回復するようであれば,上位の損傷もひどくなく,神経回復の予後もよくて,日常生活に支障がない程度となる。しかし,6ヵ月たっても指の屈曲しかみられない場合の予後は不良である。治療としては,回復期に拘縮予防のため他動運動と玩具その他による患肢の運動を行わせるが,遺残麻痺に対しては機能再建を行う。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「分娩麻痺」の意味・わかりやすい解説

分娩麻痺
ぶんべんまひ

分娩時に新生児が受ける分娩外傷のうち、末梢(まっしょう)神経障害性の麻痺をいい、普通は腕か顔面にみられる。

 腕の麻痺は上腕型と前腕型に分けられ、上腕型がもっとも多く、上肢弛緩(しかん)麻痺が特徴で、知覚麻痺は伴わない。新生児は肘(ひじ)を伸ばしたままで、手や指は動かすが腕を上にあげられない。放置しても治ることが多い。これに対して前腕型では、手や指が動かず握りこぶしもつくれない。また、知覚障害もみられ、上腕型より治りにくい。なお、上腕型では横隔膜麻痺を伴うことがあり、呼吸障害の原因になるが、予後はやはり良好である。

 また顔面麻痺は、鉗子(かんし)分娩のときに多くみられ、顔面部の圧迫による末梢性麻痺で、自然分娩でもみられることがある。顔面の片側におこり、眼瞼(がんけん)(まぶた)が閉じなかったり口元がゆがんだりするが、泣いたときに顕著となる。自然治癒する場合が多いが、まれに脳内出血による中枢性麻痺もあるので注意する。

 分娩麻痺は普通6か月以内に治るが、麻痺の程度がひどい場合はマッサージや電気療法などを行うこともある。

[新井正夫]

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家庭医学館 「分娩麻痺」の解説

ぶんべんまひ【分娩まひ Birth Injury to Peripheral Nervous System】

[どんな病気か]
 分娩時に産道(さんどう)で胎児(たいじ)の末梢神経(まっしょうしんけい)が圧迫されてまひがおこるものです。顔面神経まひ、横隔膜(おうかくまく)神経まひ、腕神経叢(わんしんけいそう)まひなどがあります。
[症状]
 神経の損傷が一時的な圧迫によるものであれば、症状は一過性で自然に治ります。顔面神経まひは、泣くと口がゆがんだり、眼瞼(がんけん)(まぶた)が閉じないことで気がつきますが、特別な治療は不要です。
 腕神経叢まひは、頸部(けいぶ)を通って腕に行く神経の束が、分娩時に伸びきったり圧迫されて傷ついておこります。自然に治ることが多いのですが、まひしている部分を十分に動かしたりマッサージすることが機能回復に有効です。
 横隔膜神経まひは腕神経叢まひと同様の原因で生じます。新生児は腹式呼吸を行なっており、横隔膜が動かないと呼吸がうまくできないため、適切な呼吸管理が必要になります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「分娩麻痺」の意味・わかりやすい解説

分娩麻痺
ぶんべんまひ
birth paralysis

新生児が分娩時に外傷を受けて,末梢神経障害を起したもの。おもに上腕神経叢麻痺と顔面神経麻痺をいうが,最近は顔面神経麻痺は自然治癒して後遺症が残らないので,分娩麻痺には入れず,仮性麻痺ということが多い。

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