腸管内条虫症

  • 腸管内条虫症(条虫症)

内科学 第10版の解説

概念
 わが国では以前から日本海裂頭条虫(Diphyllobothrium nihonkaiense),無鉤条虫(Taenia saginata)そして有鉤条虫(Taenia solium)が知られていた.ところが,日本には本来土着しないと考えられていたアジア条虫(Tania asiatica)が,関東を中心とした地域で海外渡航歴のない患者に散発性に発生しており,新たな食品由来の条虫感染症として警戒されている.臨床的には虫種によって病状が異なり,子宮孔の有無をもとに分類するのが理解しやすい.裂頭条虫目条虫(日本海裂頭条虫)は子宮孔をもち,成虫は腸管内で子宮孔から排卵できるため,できるだけ腸管内にとどまるよう適応しており,虫の体節が切れないよう丈夫に連結している.一方,円葉目条虫(無鉤条虫,アジア条虫,有鉤条虫)は子宮孔をもたないため成虫は排卵できず,その結果,宿主の体外へと片節を分断させて排泄するよう適応している.また,一般的には検便にて虫卵が検出できないのもこの種の特徴である.
病因・感染経路
1)裂頭条虫目条虫:
終宿主であるヒトを含む哺乳動物の糞便中に含まれる虫卵が外界で発育し,コラシジウムという幼虫を生じる.虫卵はやがて孵化して第一中間宿主であるケンミジンコに取り込まれ,そこでプロセルコイドという幼虫へと成長する.この幼虫は第二中間宿主であるサクラマス,カラフトマスなどに取り込まれて,最終的にプレロセルコイドとなり筋肉内で被囊し,終宿主への感染源となる.なお,プレロセルコイドを含む魚を生食することで感染が成立し,成虫となって小腸内に寄生して,長いものでは10 mをこえるまでに発育する.
2)円葉目条虫:
ヒトを固有宿主とし,それぞれ中間宿主が異なる.ヒトの糞便中に排泄された虫卵を中間宿主が摂取すると,虫卵は小腸で孵化して幼虫となり,中間宿主の全身の筋肉や臓器に到達し囊虫を形成する.終宿主はこの囊虫を生食することで感染が成立する.
3)無鉤条虫:
ウシの筋肉内に存在する囊虫を経口摂取することにより感染する.成虫は小腸内に寄生し,肛門から這い出た運動性のある片節が体外で崩壊して虫卵が外界に排出され,それをウシが摂取することにより生活環は完結する.ヒトは中間宿主にならないため,虫卵を摂取してもヒトには感染しない.
4)アジア条虫:
形態的には無鉤条虫と区別が困難である.ブタの肝臓などに存在する囊虫の摂取で感染し,調理不十分なブタレバーなどが感染源と考えられる.生活環は,ブタを中間宿主とすることを除けば無鉤条虫と同様であり,本来は日本を除く極東,アジアに広く分布すると考えられていた.
5)有鉤条虫:
ブタの筋肉に存在する囊虫を摂取することで感染し,糞便中に片節が排泄される.また,有鉤条虫はほかの条虫と異なり,ヒトは中間宿主になりうる.したがって,脆弱な片節が腸管内で崩壊し,虫卵から発育した幼虫が腸管から全身に播種されて人体有鉤囊虫症を引き起こす(自家感染).虫卵を経口摂取した際にも同様に人体有鉤囊虫症を引き起こす.
臨床症状
1)裂頭条虫目条虫:
排便時に虫体の懸垂を自覚し,数mの虫体を引きずり出したという訴えもときにみられる.ときに間欠的な腹痛や下痢などを自覚することもある.北欧の広節裂頭条虫(Diphyllobothrium latum)でみられるビタミンB12欠乏に伴う巨赤芽球性貧血などは,わが国ではみられない.
2)円葉目条虫:
無鉤条虫およびアジア条虫: 片節が切れやすい本症では,下着のなかに運動性のある片節の排泄を習慣的に自覚していることが多い.ときに,腹痛および下痢などの症状を訴えることがある.
3)有鉤条虫:
片節は脆弱で運動性が低く,排泄を自覚しないこともある.
診断・治療
 裂頭条虫目の条虫では糞便から虫卵を検出することで診断する.円葉目の条虫では糞便中には虫卵は排泄されないが,肛門周囲に虫卵が付着していることがあり,肛囲テープ法で検出を試みる.また,排泄した虫体を持参した場合には形態的診断が可能であるが,アジア条虫については無鉤条虫と形態学的に区別が困難であり,遺伝子学的同定を要する(図4-18-1).
 治療の基本はプラジカンテルの投与である.治療前日より緩下剤を投与し,当日の朝にプラジカンテルを投与し,2時間後に塩類下剤を内服させ,便意を我慢させて一気に排便させる(図4-18-2).駆虫された虫体に頭節がなければ,約1~2カ月後に検便を行い虫卵の有無を確認する.[前田卓哉]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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