膵がん

EBM 正しい治療がわかる本 「膵がん」の解説

膵がん

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 膵臓(すいぞう)は胃のうしろにある長さ20センチメートルほどの細長い臓器です。消化液である膵液や血糖を調節するホルモンを分泌する働きがあります。膵臓にできるがんのうち90パーセント以上は、膵液が流れる膵管の上皮細胞(じょうひさいぼう)から発生します。これをとくに膵管がんといいます。
 初期にみられる症状は、胃のあたりや背中が重苦しい、おなかの調子がよくない、食欲不振など漠然としたものです。膵がんに特有の症状ではないので、しばしば発見が遅れます。ただし、最近では超音波検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影法(ないしきょうてきぎゃっこうせいたんどうすいかんぞうえいほう)(ERCP)、超音波内視鏡検査、CT、血管造影検査などの各種画像検査で病変を早めに見つけることもあります。
 進行すると上腹部や背部に痛みを感じたり、腹部に腫瘤(しゅりゅう)ができたりします。全身の倦怠感(けんたいかん)、嘔吐(おうと)、体重減少、糖尿病の発症・悪化などがみられることもあります。がんが胆管(たんかん)に浸潤(しんじゅん)すると黄疸(おうだん)がでるので、この時点で発見されることも少なくありません。糖尿病新規発症や悪化例では膵がんを念頭におく必要があります。
 早期発見が困難であるため予後はきわめて不良で、約70パーセントが診断時にがんの切除が不可能であり、切除が可能な例でも5年生存率は約15パーセントです。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 原因はよくわかっていません。膵がんは危険因子として、肉食、喫煙、排気ガス、化学物質などがあげられますが、統計学的に明らかに関係が証明されている因子はありません。人口の高齢化とともに、わが国では急速に増加してきました。最近では人口10万人あたりの罹患率は10~20人に達しています。膵がんのリスクファクターとして、膵がんの家族歴・糖尿病・慢性膵炎・肥満・大量飲酒・膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう)があげられます。(1)

●病気の特徴
 年間死亡者数は年々増加しており、年間約29,000人が死亡し、がん死亡者数では男性で5位、女性で4位。高齢者に多く、ピークは60歳代です。
 膵がんの約8割はステージⅣのもっとも進んだ状態で見つかり、ステージⅠの状態で診断されるのは1.7パーセントです。胃がんや大腸がんではステージⅠなら治癒が期待できますが、膵がんでは、ステージⅠの状態で診断されてもその治療成績は不良です。膵がんの治療成績(5年生存率)をステージ別に示すと、ステージⅠ:58.6パーセント、ステージⅡ:51パーセント、ステージⅢ:25.9パーセント、ステージⅣa:11.9パーセント、ステージⅣb:2.8パーセントとなっています。(1)


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

■膵頭部がんに対して
[治療とケア]膵頭十二指腸切除術(すいとうじゅうにしちょうせつじょじゅつ)を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 膵臓は頭部、体部、尾部に分けられます。膵頭部がんの場合、膵臓の頭部とその周辺にある十二指腸、小腸の一部、胃の一部、胆のうをともに切除する膵頭十二指腸切除術が行われます。この手術による予後は大変厳しいものがあり、5年生存率は10~25パーセント、生存中央値(対象者を生存期間の長さで並べた場合、ちょうどまん中に位置する人の生存期間)は10~20カ月となっています。(2)(3)

■膵体尾部がんに対して
[治療とケア]膵体尾部切除術を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 膵臓の体部と尾部にがんがある膵体尾部がんの場合、総胆管を巻き込まずにがんが成長するので早期発見はまれです。症状がでにくく、知らないうちに病状が進展するため外科治療も困難なものとなります。膵頭部がんに比べ術後生存率は低く、周術期(手術中や手術前後)の死亡率も高くなります。予後も不良です。(4)~(6)

■局所進行膵がんに対して
[治療とケア]化学療法を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] GEM(ゲムシタビン塩酸塩)やテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、フルオロウラシルなどを用いた化学放射線療法が局所進行切除不能膵がんに対する標準治療と考えられていますが、化学放射線療法と化学療法単独とを比べた研究が多くの施設で行われています。(1)(7)~(15)

[治療とケア]放射線療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 放射線療法単独ではなく、化学療法と組み合わせて行うことで、生存期間の延長を認めているとの報告も多くみられます。
 高いエビデンスはありませんが、全身状態良好で照射野設定が広くならない(15×15センチメートル以下)局所進行切除不能膵がんに対して、化学放射線療法は標準治療の1つと考えられます。治療法選択の際、おもに生存期間中央値について議論されることが多いのですが、化学放射線療法を行うことにより、2年生存割合などの中長期的な生存割合の向上や局所制御による疼痛緩和が期待できることも利点です。化学療法単独も治療選択肢の1つになり得ますが、治療方針決定の際には患者さんに化学放射線療法も含めて説明する必要があります。(7)~(11)

 



[治療とケア]手術後の補助として化学療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、GEMを用いた術後化学療法が勧められます。
 とくに、GEMを含まない化学療法では除痛効果が得られなかったとの報告があります。(16)
 膵がんに対して、単剤でもっとも高い除痛効果が報告されている薬剤はGEMで、23.8パーセントに症状緩和が得られたとの報告があります。(1)(17)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗がん薬
[薬名]GEM:ジェムザール(ゲムシタビン塩酸塩)(1)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ティーエスワン(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)(1)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]GEM:ジェムザール(ゲムシタビン塩酸塩)+タルセバ(エルロチニブ塩酸塩)(1)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]GEM:ジェムザール(ゲムシタビン塩酸塩)+アブラキサン(パクリタキセル)(1)
[評価]☆☆☆☆
[薬用途]FOLFIRINOX療法
[薬名]エルプラット(オキサリプラチン)+カンプト/トポテシン(イリノテカン塩酸塩水和物)+5-FU(フルオロウラシル)+アイソボリン(レボホリナートカルシウム)(1)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 切除不能またはほかの臓器などへの転移がある膵がんでは、抗がん薬による化学療法が行われます。これらの薬を用いた治療には延命効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
膵頭部の部分切除なら、膵臓の機能もある程度残る
 膵がんでは、完全な外科的切除が唯一の効果的な治療です。多くの場合、早期に見つかるのは、がんが小さいときに胆道を閉塞(へいそく)して肝・胆汁(たんじゅう)系統の症状をおこしやすい膵頭部のがんということになります。
 膵頭部の部分切除であれば、手術後、膵臓からの消化酵素などの外分泌機能(がいぶんぴつきのう)、インスリンなどの内分泌機能(ないぶんぴつきのう)もある程度保たれますので、膵臓の全摘術に比べ、ずっと管理が容易になります。

手術以外の効果はいまひとつ
 いろいろな研究的取り組みは行われていますが、放射線療法、化学療法ともに、大きな予後改善は認められていません。

リスクのある人は定期検診を
 喫煙、慢性膵炎、糖尿病、カロリー摂取の増加などが、膵がんの発症を高めることがわかっています。これらの要因をもっている人は、そうでない人に比べて膵がんになる危険性が高いといえますから、膵臓のスクリーニング検査を定期的に受け、禁煙や摂取カロリーの適正化などにも努める必要があります。

(1)膵癌診療ガイドライン改訂委員会編. 膵癌診療ガイドライン2013年版. 日本膵臓学会. 2013.
(2)Benassai G, Mastrorilli M, Quarto G, et al. Survival after pancreaticoduodenectomy for ductal adenocarcinoma of the head of the pancreas. Chir Ital. 2000;52:263-270.
(3)Trede M, Schwall G, Saeger HD. Survival after pancreatoduodenectomy. 118 consecutive resections without an operative mortality. Ann Surg. 1990;211:447-458.
(4)Wade TP, Virgo KS, Johnson FE. Distal pancreatectomy for cancer: results in U.S. Department of Veterans Affairs hospitals, 1987-1991. Pancreas. 1995;11:341-344.
(5)Johnson CD, Schwall G, Flechtenmacher J, et al. Resection for adenocarcinoma of the body and tail of the pancreas. Br J Surg. 1993;80:1177-1179.
(6)Dalton RR, Sarr MG, van Heerden JA, et al. Carcinoma of the body and tail of the pancreas: is curative resection justified? Surgery. 1992;111:489-494.
(7)Gastrointestinal Tumor Study Group. Treatment of locally unresectable carcinoma of the pancreas: comparison of combined-modality therapy (chemotherapy plus radiotherapy) to chemotherapy alone. J Natl Cancer Inst. 1988;80:751-755.
(8)Moertel CG, Childs DS Jr, Reitemeier RJ, et al. Combined 5-fluorouracil and supervoltage radiation therapy of locally unresectable gastrointestinal cancer. Lancet. 1969;2:865-867.
(9)Moertel CG, Frytak S, Hahn RG, et al. Therapy of locally unresectable pancreatic carcinoma:a randomized comparison of high dose (6000 rads) radiation alone, moderate dose radiation (4000rads+5-fluorouracil), and high dose radiation+5-fluorouracil:The Gastrointestinal Tumor Study Group. Cancer. 1981;48:1705-1710.
(10)Shinchi H, Takao S, Noma H, et al. Length and quality of survival after external-beam radiotherapy with concurrent continuous 5-fluorouracil infusion for locally unresectable pancreatic cancer. Int J RadiatOncolBiol Phys. 2002;53:146-150.
(11)Klaassen DJ, MacIntyre JM, Catton GE, et al. Treatment of locally unresectable cancer of the stomach and pancreas:a randomized comparison of 5-fluorouracil alone with radiation plus concurrent and maintenance 5-fluorouracil-an Eastern Cooperative Oncology Group study. J ClinOncol. 1985;3:373-378.
(12)Chauffert B, Mornex F, Bonnetain F, et al. Phase III trial comparing intensive induction chemoradiotherapy(60 Gy, infusional 5-FU and intermittent cisplatin) followed by maintenance gemcitabine with gemcitabine alone for locally advanced unresectable pancreatic cancer. Definitive results of the 2000-01 FFCD/SFRO study. Ann Oncol. 2008;19:1592-1599.
(13)Huguet F, Andr T, Hammel P, et al. Impact of chemoradiotherapy after disease control with chemotherapy in locally advanced pancreatic adenocarcinoma in GERCOR phase II and III studies. J ClinOncol. 2007;25:326-331.
(14)Loehrer PJ, Powell ME, Cardenes HR, et al. A randomized phase III study of gemcitabine in combination with radiation therapy versus gemcitabine alone in patients with localized, unresectable pancreatic cancer:E4201. J ClinOncol. 2008;26:abstr 4506.
(15)Burris HA 3rd, Moore MJ, Andersen J, et al. Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer :a randomized trial. J ClinOncol. 1997;15:2403-2413.
(16)佐伯博行, 杉政征夫, 山田六平, 他. 切除不能(Stage IVb)膵癌に対する術中照射療法 (IORT). 癌と化学療法. 2002;29:2221-2223.
(17)Burris HA 3rd. Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer :a randomized trial.JClin Oncol.1997;15;2403-2413.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

家庭医学館 「膵がん」の解説

すいぞうがん【膵(臓)がん Cancer of the Pancreas】

◎自覚症状が出たときは手遅れ!
[どんな病気か]
◎腹痛持続と糖尿病の発病に注意
[症状]
◎検査は3段階に分けて行なわれる
[検査と診断]
◎手術が原則、生存率も向上
[治療]

[どんな病気か]
 膵(すい)がんは、腹部のがん、とくに消化器がんのなかでもっとも治療成績の悪いものの1つです。
 膵臓は胃の後ろに位置しており、膵がんが発生しても早い時期には症状がでにくく、自覚症状が出たときには病状が進み、すでに手遅れの状態であることがめずらしくありません。
 膵臓はなじみの少ない臓器ですが、膵がん患者の数は最近増加しています。厚労省の調査によると、膵がんの死亡率はがんのなかでは男性で第5位、女性で第6位となっており、年間約1万5000人もの人が亡くなっています(1996年「国民衛生の動向」より)。
 膵臓は消化液である膵液(すいえき)をつくる細胞(外分泌細胞(がいぶんぴつさいぼう))と、それが不足すると糖尿病になるインスリンをつくる細胞(内分泌細胞(ないぶんぴつさいぼう))との2種類の細胞からできています。
 膵がんというのは、膵臓にできる悪性腫瘍(あくせいしゅよう)の総称ですが、通常は外分泌細胞系の膵管から発生した浸潤性(しんじゅんせい)(周囲の組織に広がりやすい性質)で悪性度の高いがんを指します。
 膵がんは、それが発生する場所によって、十二指腸(じゅうにしちょう)側の膵頭部(すいとうぶ)がんと、脾臓(ひぞう)側の膵尾部(すいびぶ)がんに分かれます。悪性腫瘍の特質として、発育を続けて周囲の臓器に浸潤し、場合によっては遠隔臓器に転移します。
 膵がんの治療成績向上のポイントは、早期がんのうちに見つけ、早めに治療してしまうことです。最近は診断技術の進歩によって、従来より早い時期の膵がんが見つかるようになり、治療成績も向上しています。

[症状]
 膵がんに特徴的な症状はないとされています。とくに早期では無症状のことも多く、せいぜい心窩部(しんかぶ)(みぞおち)の不快感、痛み、食欲不振など、腹部の不定愁訴(ふていしゅうそ)程度です。
 病気が進むと、膵頭部がんでは閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)(総胆管(そうたんかん)が閉塞されて胆汁(たんじゅう)が十二指腸へ排出されずにおこる黄疸)が、膵尾部がんでは背部痛がみられ、体重が減少します。
 膵がんになりやすい条件をもつグループを設定しようとする試みがいくつかなされましたが、まだ明確な因子は決まっていません。ただし、短期間で治らない腹痛などの腹部症状、糖尿病の急な発病などには注意が必要です。

[検査と診断]
 膵臓は、体内の存在位置からして、診断のための情報が得にくい臓器です。しかし、最近の画像診断技術の進歩によって、かなりのところまで診断できるようになってきました。
 膵がんが疑われた場合、まず血液検査と合わせて、侵襲(しんしゅう)(身体的負担)の少ない検査が行なわれます。通常は腹部超音波検査です。これは腹部エコー検査またはUS検査と呼ばれ、超音波を使って内臓の断面像を映しだし、腫瘍そのもの(直接所見)、あるいは腫瘍のために拡張した膵管(すいかん)(間接所見)を探します。
 つぎに行なうのが、胴体(どうたい)の断面像をみるCTやMRI検査です。どちらもトンネル状の装置に患者さんが入りますが、CTはX線が、MRIは磁気共鳴によるエネルギーが使用されます。この検査で疑わしい部分(腫瘍の有無や進展、膵管の拡張状況)を確認します。
 さらに正確にがんを確認するためには、内視鏡を十二指腸まで入れ、膵管を造影(ぞうえい)(薬品によって内部を映し出す方法)する内視鏡的逆行性膵管造影(ないしきょうてきぎゃっこうせいすいかんぞうえい)が行なわれます。また、足のつけ根の大腿動脈(だいたいどうみゃく)からカテーテルを入れて、膵臓の動脈や静脈の変化をみる血管造影検査もあります。どちらの造影検査も入院してから行なわれます。
 膵頭部がんで閉塞性黄疸がある場合は、黄疸を軽減する処置がまず行なわれます。これは、肝臓内の拡張した肝管にチューブを入れ、たまった胆汁を体外に排出する方法がとられます。
 血液の中に含まれる膵がんが出す物質(腫瘍(しゅよう)マーカーという)を測定できるようになりましたが、早期がんの場合は異常値を示すことが少ないため、最近では分子生物学的検査法をとりいれ、血液や膵液中にあるがん遺伝子の一種であるK‐rasの点突然変異(正常遺伝子ががん遺伝子に変化する過程で起こる変化のひとつ)を見つけ、膵がんの診断に役立てようとする試みもなされています。
 以上のように、膵がんが疑われる患者さんにはまず腹部超音波検査が行なわれ、直接所見や間接所見の有無を調べます。つぎにCTやMRI、内視鏡的逆行性膵管造影や超音波内視鏡、膵管内超音波内視鏡、血管造影などを実施し、正確ながんの場所と性質がつきとめられ、治療方針が決定されます。
 なお、膵がんは、胃がんや大腸がんのように内視鏡で病変部の組織をとって調べる検査(生検(せいけん))を行なって術前に病理診断を下すことができません。超音波検査装置によって体内をモニターしながら、体外から生検針を膵がんに誘導して組織を採取することは可能ですが、がんを広げる危険性があるため、一般的な方法にはなっていません。

[治療]
 膵がんの治療成績は、他の消化器がんと比べると必ずしもよいとはいえません。それでも手術が今のところ最良の方法で、病変部を切除する以外に長期生存は望めません。
 膵がんの手術は、単に病変を切除するだけではなく、周囲のリンパ節、神経、結合組織を含めて大きく切除しなければなりません。
 進行した膵がんで近くの血管に浸潤がある場合は、肝臓への転移や腹膜への播種(はしゅ)(種をばらまいたような転移)がなければ、それらの血管を合併切除することもあります。
 膵頭部(すいとうぶ)がんには膵頭十二指腸切除術が行なわれるのがふつうです。切除範囲が広く再建も複雑で、腹部外科ではもっとも大がかりな手術の1つです。
 最近では、胃を切除せず全部残して行なう、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(ゆうもんりんおんぞんすいとうじゅうにしちょうせつじょじゅつ)も施行され、術後のQOL(生命・生活の質)を少しでも高めるよう工夫されています。また、病変が広く尾側にまでおよんでいる場合には膵全摘術(すいぜんてきじゅつ)も行なわれます。なお、膵全摘術が行なわれた場合は、終生インスリン注射が必要となります。
 膵体尾部がんには、尾側を切除する膵体尾部切除術が行なわれます。手術を行なうと血液が行かなくなるので、膵尾部に続く脾臓も切除されますが、その影響は一般にないとされています。
 手術後に再び同じ病変がおこることを再発といいますが、膵がんの再発で多いのは、局所再発と肝転移です。
 局所再発とは、病変部を切除したすぐ近くに再びがんができることで、手術で病変部を完全に取り切れなかったことを意味します。広く切除した場合でも局所再発はしばしばおこります。ここに膵がん治療の難しさがあります。
 そこで、膵がんに対しては、手術にとどまらず、放射線療法や抗がん剤を併用した集学的(しゅうがくてき)治療が行なわれるようになってきています。医療機関によって方法はさまざまですが、放射線療法では、術中照射や術後体外照射が行なわれ、抗がん剤も、肝転移に対しては動脈や静脈経由で直接患部に届くように使用されます。
 手術で腹部を開いてみても、膵がんが非常に進行していて、不幸にも切除できなかった場合には、つぎのようなバイパス手術が行なわれます。
 黄疸があるときには胆管と腸が、食物の通過障害があるときには胃と腸が吻合(ふんごう)(管腔をつなぎ合わせる)され、残された生存期間におけるQOLの向上がはかられます。
 膵がんの治療に力を入れている施設では、その切除率は約40~60%に達します。
 また、手術死亡率(手術をして1か月以内に死亡する割合)はほとんど0%で、在院死亡率(術後、一度も退院することなく死亡する割合)も5%以下となっています。
 手術をした場合の成績は、50%生存期間(手術した人のうち、半数の人が生きている期間)は約12か月、5年生存率は約15%になっています。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「膵がん」の解説

膵がん
すいがん
Pancreatic cancer
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

どんな病気か

 膵がんは、消化器がんのなかで最も予後不良のがんです。日本のがんにおける死因としては、男性では第5位、女性では第6位(平成18年人口動態統計)で、60歳以上(70代がピーク)の男性にやや多い傾向にあります。

 膵臓(すいぞう)は胃の裏側(背側)に位置し、十二指腸とくっついていて、脾臓(ひぞう)まで横に細長くなっている後腹膜(こうふくまく)の臓器です。ちょうど3等分して、右側(十二指腸側)を頭部、左側(脾臓側)を尾部(びぶ)、中央を体部と呼びます。

 予後不良の原因としては、後腹膜臓器であるために早期発見が困難であり、また極めて悪性度が高く、たとえば2㎝以下の小さながんであっても、すぐに周囲(血管、胆管、神経)への浸潤や、近くのリンパ節への転移、肝臓などへの遠隔転移を伴うことが多いからです。

 膵がんは、十二指腸への膵液の通り道(膵管(すいかん))から発生したがんが90%以上を占め、ランゲルハンス島(膵島(すいとう))から発生したがんはまれです。3分の2以上は膵頭部に発生します。

原因は何か

 原因は明らかではありませんが、喫煙、慢性膵炎(まんせいすいえん)糖尿病、肥満との関係が報告されています。

症状の現れ方

 食欲不振、体重減少、腹痛(上腹部痛、腰背部痛)などの症状以外に、膵頭部がんでは、閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)、灰白色便(無胆汁性)が特徴のある症状です。

 肝臓で作られた胆汁は、胆管を通って十二指腸へ排出されますが、胆管は膵頭部のなかを走行するため、膵頭部にがんができると胆管を圧迫したり閉塞したりして、胆汁の通過障害を起こし、閉塞性黄疸が現れます。

 また、膵管も胆管と同様に閉塞して二次性膵炎を起こし、耐糖能異常すなわち糖尿病になったり悪化することがあります。さらに進行すると十二指腸や小腸に浸潤し、狭窄(きょうさく)・閉塞を来し通過障害が起こります。

 一方、膵体部や尾部に発生したがんは症状があまり現れず、腹痛が現れるまでにはかなり進行していることが少なくありません。

検査と診断

 早期診断は非常に困難です。血液検査では、閉塞性黄疸に伴う肝機能異常や、アミラーゼ値の異常、血糖異常が認められることが多くあります。

 腫瘍マーカーとしては、CA19­9、DUPAN2、SPAN1、CEAなどが異常(高値)を示します。しかし、ある程度の腫瘍サイズになるまでは産生量が少ないため、それほど高値にはならず、いずれも早期診断にはあまり役立ちません。

 スクリーニング検査(ふるい分け)としては、腹部超音波(エコー)、CT、磁気共鳴画像(MRI、MRCP)、内視鏡的逆行性膵管造影(ERCP)、内視鏡的超音波(EUS)、ポジトロン放射断層撮影(PET)などがあります。とくに閉塞性黄疸がある場合は、黄疸を減らす治療のために経皮経肝胆管ドレナージ(PTBD)、内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)をすることにより、診断も可能です。

 区別すべき病気としては、粘液産生(ねんえきさんせい)膵腫瘍(すいしゅよう)や黄疸の出現する病気(肝炎、胆石症胆管炎、胆管腫瘍、十二指腸乳頭部がん、腫瘤(しゅりゅう)形成性慢性膵炎自己免疫性膵炎など)があげられます。

治療の方法

 膵がんの根治を目指して、外科的切除術、放射線治療および化学療法(抗がん薬)が実施されています。現在、根治性が最も期待される治療は外科的切除術(膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術)であり、可能なかぎり積極的に病巣だけでなく、その周囲も取り除く拡大手術が行われています。しかし、発見された時には、すでに進行していることが多く、切除可能なのは40%前後です。

 全切除後の5年生存率は10%ですが、ステージ別(がんの進行度を表す)では、表17のようになっています。いかに早期に発見して診断するかが、予後の改善につながります。

 切除が不能な場合は、放射線・化学療法を行う場合が多いのですが、生存中央値は4~6カ月です。膵がんに対して、2001年に塩酸ゲムシタビン(ジェムザール)、2006年にティーエスワンが保険適応承認されたため、これらの抗がん薬を用いた化学療法が行われています。

病気に気づいたらどうする

 病気に気づいた時には、すでに進行していることが多いので、好発年齢(60歳以上)を過ぎたら定期的な検診をすすめます。

 早期発見が何よりも大切なので、①40歳以上で胃腸や胆道系の病変がなく、上腹部のもたれや痛みがある人、②やせてきて背部痛・腰痛のある人、③中年以後に糖尿病が現れた人や、糖尿病のコントロールが難しくなった人は、できるだけ早期にスクリーニング検査を受けてください。

竹田 伸, 中尾 昭公


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

知恵蔵 「膵がん」の解説

膵がん

膵臓は、消化酵素と血糖調節ホルモン(インスリンなど)分泌の役割を持つ臓器で、膵がんの大部分は消化酵素を排出する管(膵管)にできる。最も治療成績の悪いがんで、危険因子はまだ分かっていない。膵臓の頭の部分にできた場合は、膵臓の中を走る胆管を閉鎖するため、最初に黄疸(おうだん)で異常に気がつくことが多い。尾部にできた膵がんは後ろの神経に浸潤するため、疼痛が初発症状として現れる。一般に、体重減少が著しい。治療としては手術でがんを摘出するが、症状が現れて発見された時には治癒が困難なことが多い。

(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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