電話のような人間と人間との声による通信に対して,コンピューターと端末装置,コンピューター相互間などの機械と機械の間の通信を一般にデータ通信と呼んでいる。
狭義のデータ通信は通信回線を通して音声以外の信号を伝送する技術を指す。とくにアナログ通信網は音声をつごうよく伝送するように設計されているため,これを通してデータを伝送するためには各種の変調方式がくふうされている。アナログ電話回線を通してデータを伝送する場合には300~3400Hzのアナログ電話帯域でデータを伝送するために,1200ビット/s以下の低速の場合には周波数変調方式が使用され,それ以上の高速の場合には多相位相変調,残留側波帯多値振幅変調が用いられる。これらの方式によって9600ビット/s,あるいは1万4400ビット/sのデータ伝送を電話回線を使用して伝送する方式が確立していて,利用される変復調装置はモデムmodemと呼ばれる。
データ伝送で双方向通信を行うときに1対の線を時間により切り替えて使う方式と,2対の線を用いる方式がある。前者は2線式,後者は4線式と呼ぶ。
ディジタル回線によりデータを伝送する場合には,ディジタル回線はあらかじめ定められたクロックでデータを伝送するため,回線のクロックに合わせて端末から回線に対してデータを送出しなければならない。ディジタル回線では通常の音声伝送に64キロビット/sの高速伝送を行うから,アナログ回線を使った場合に比べてはるかに高速の伝送を行うことができる。
このようなデータ通信回線は,利用者の端末あるいはコンピューターを接続するために,それぞれの設置場所間に専用に設定できる。このようなデータ通信回線はデータ専用回線で,特定通信回線と呼ばれることもある。このような回線は固定的であるから,伝送特性を適切に調整して高品質のデータを伝送できる。
データ通信で誤りが発生して,送出されたデータと異なるデータが受信されると,端末,コンピューターに誤動作を生ずるから,これを検出,訂正する必要がある。これには誤りを検出して再送する方法と誤り訂正符号を用いて訂正する方法とがある。
電話交換網を利用して電話の代りにデータを伝送することができる。この場合には回線を帯域で分割して4線式を実現できる。回線と端末の接続方式としては電気的に直結する方式と,送受話器を介して音響的に結合する音響結合方式とがある。
データ通信のために作られたデータ交換網には,回線交換網とパケット交換網とがある。前者では電話交換網と同様に通信する両地点間に回線接続を設定してから通信を行う。後者では送信側でパケットpacketと称する1000~2000ビット程度のデータのブロックを形成し,これにあて先を識別するヘッダーと称する情報を付加して交換網に与える。パケット交換機はヘッダーを解読して,パケットごとにこれを指定されたあて先に送達する。
データ通信回線のみならず,コンピューターによる情報処理を含めてデータ通信サービスと呼ぶこともあり,このための設備はデータ通信設備と呼ばれる。これが広義のデータ通信であり,この概念にはオンラインシステム,タイムシェアリングシステムが含まれる。
オンラインシステムの歴史はアメリカ空軍の防空システムSAGE(セージ)(semi automatic ground environmentの略)に始まる。このシステムは,航空機による侵入を検知するレーダー網からの情報をコンピューターで即時に処理して,防空戦闘機による迎撃を指示するシステムである。各地に展開されたレーダー網からの情報を伝送する通信回線とコンピューター,それに指令用のデータを送信する回線網と基地および迎撃機の受令装置からなっていた。
データ通信システムが商用として使用されるようになったのは列車,航空機の予約の分野からである。アメリカにおいては,1964年からSABRE(semi-automatic business research environmentの略)と呼ばれる航空旅客予約システムがアメリカン・エアライン社によって開発され,これがその後の航空予約システムの原型となった。日本においてはJRの座席予約システムのMARS(マルス)-1が1960年から使用されている。銀行の預金の帳簿を,銀行ごとに集中して設けられたコンピューターで管理することによって,どの支店からでも預金の入出ができるようにするバンキングシステムもデータ通信の初期の代表的な応用である。普通預金などの預金種別ごとのオンライン化は第1次オンラインと呼ばれる。第2次オンラインでは普通預金,定期預金などの口座が名義人ごとに一括管理できるようになり,いわゆる総合口座サービスが行われるようになった。
データ通信のコストの低下とともにこのようなシステムは広い範囲に応用されるようになっている。生産管理システムにおいては,設計,製造,試験のおのおのの段階でコンピューターが用いられているが,各コンピューターはデータ通信で接続されており,設計の段階でシステムに読み込んだデータが自動的にそれぞれのコンピューターに伝達され,製造,試験が行われる。
図には代表的なデータ通信システムの構成を示す。コンピューター本体の処理装置はチャンネルを通して,通信制御手順を実現する通信制御装置CCU(communication control unitの略)に接続される。CCUは各種の通信回線を通して端末装置に接続されている。通信回線がアナログ専用回線であるときには変復調器(モデム)を通して通信回線への接続が行われ,ディジタル専用回線であるときにはディジタルサービス装置DSU(digital service unitの略)を通して接続が行われる。さらに電話交換回線を使用するときには,ダイヤルの発信,呼出し信号に対する応答などを知る目的でネットワーク制御ユニットNCU(network control unitの略)が設けられる。
データ通信システムには企業などが自社内で使用することを目的として形成する本人使用システム,異なる企業にあるコンピューターもしくは端末を相互に接続する共同使用システム,および第3者に対してタイムシェアリングシステムなどのサービスを提供する目的で形成される他人使用システムとがある。
電話に代表されるシステムは伝統的に通信主管庁によって独占的に運営され,全国的に均一のサービスを提供している。データ通信サービスのあるものはこのような電信・電話的サービスの独占体制を侵し,その経営を弱体化して,全国均一サービスを困難にする可能性があるため,データ通信の初期には共同使用形および他人使用形のデータ通信サービスには制約が加えられた。日本においては1971年まではデータ通信システムは電電公社のみができるサービスであり,71年の公衆電気通信法の改正によってはじめて一般企業によるデータ通信システムが作れるようになった。しかし自由にシステムを形成できるのは本人使用形のもののみであって,他人使用形,共同使用形のものについては,システムを通して情報が処理されることなく通りぬけるいわゆるメッセージ交換が行われないように各種の制約が加えられていた。82年の公衆電気通信法によってこの制約は大幅にゆるめられ,84年の電気通信事業法によってほぼ全面的な自由化が行われた。しかしデータ通信システムは一度利用者がそれに加入したあとでは,そのシステムの使用を止めるなどの変更が困難であること,一度全国的なサービスが始まると,それに対抗する新規参入は容易でないなどの自然独占性があるため,とくに他人使用形のメッセージ交換サービスには最低限の国家による規制が必要であるとされている。
執筆者:斉藤 忠夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
音声信号のかわりにパルス列でデジタル化された信号を通信すること。また、そのためのシステム全般をさす。とくに、遠隔地の端末機とコンピュータ、コンピュータどうしの間でデータの交換を行う場面をさすことが多い。データ通信のハードウェアは、通信制御装置(回線の接続、送信・受信の制御、制御信号の解読・編集などを行う)と、変復調装置(端末機またはコンピュータ内で取り扱われるデジタル信号を通信回線の仕様に適合したパルス列に変換し、受信の場合はその逆を行う)、それに通信回線からなる。通信回線は、もっとも簡単なシステムではアナログの公衆電話回線であった。電話会社または通信業者では、デジタル・データ通信に適合した回線のサービスを行っている。通信業者が提供している回線サービスは、専用線を利用する特定回線と、デジタル公衆通信回線とがある。これらは交換局を通して全国に回線をつなぐことができる。さらに、ネットワーク・プロバイダーとよぶインターネット接続業者までの通信に公衆通信回線を用いることもできる。LAN(ラン)(ローカル・エリア・ネットワーク)のように、限られた範囲内でのデータ通信を行うには、通信業者のサービスに依存しなくても独自にローカルな回線を引くことができる。同軸ケーブルだけでなく、光ファイバー、無線などが利用されており、世界的な規模での通信衛星を使ったデータ通信網も計画されている。
回線の性能は伝送率(毎秒最大いくつのパルスまで送ることができるか)で示され、ビット毎秒(bps)、またはほぼ等価的にボー(baud)という単位で表される。伝送率が高いほど、回線の周波数帯域を広くとる必要がある。
データ通信を行うには、送信側と受信側で、ある決まった約束に従った信号のやりとりによって、相手の確認、送信要求、送信開始・終了、受信の確認などの手順を経ながらデータの伝送を行う。また送信するデータの内容も、データの種類や使用目的などを、送信側と受信側で確かめ合いながら受け渡しを行う。このために送信側と受信側で手順を示すための合いことばに相当する特殊な記号や符丁を決める必要がある。これをプロトコルという。プロトコルは、通信回線の運用に関係したハードウェアレベルの規約からデータの内容に関係したアプリケーションレベルの規約まで、いくつかの階層に分けて用意され、国際標準化が進められている。
[小野勝章・山本喜一]
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