舞台芸術を構成する一要素で、聴覚および視覚に訴え、その舞台表現を助けることをいう。ステージ・エフェクトstage effectの訳語で、1924年(大正13)築地(つきじ)小劇場で初めてこの名称が使われた。略して効果ともいい、音だけの場合を音響効果ともいう。この仕事の先駆者として、和田精(せい)、園田芳龍(ほうりゅう)などがいる。演劇、映画、ラジオ、テレビなどにおいて劇の進行を盛り上げ、情趣を加えるためのたいせつな役割を果たす分野である。(1)聴覚効果 時間を表す音(時計、鐘の音など)。天候を表す音(雨、風、雷など)。場所を表す音(街の騒音、波音、牛・馬・犬・鳥などの声)。乗り物の音(馬車、電車、車、汽笛、飛行機など)。雰囲気を表す音(情景にあった音楽、不安・恐怖・緊張感を感じさせる音、銃声、ドアのきしむ音、爆弾の炸裂(さくれつ)音など)。(2)視覚効果 雲、波のうねり、炎、煙、降雪、星、蛍などを表すが、これらは照明や大道具・小道具との共同作業になることが多い。またスライドを使用することもある。雪は、籠(かご)に紙または発泡スチロール材を入れ、舞台の上方から降らす。雨は本水またはプラスチック素材のものを降らすこともあるが、ほとんど照明で表現する。煙は、薬品を使ったフォグマシーンやドライアイスを使用する。暖炉の火や火事の炎は照明によるものが多い。
音響効果の歴史については、日本の歌舞伎(かぶき)などでは楽器(三味線、鼓、太鼓、鈴、柝(き)その他の鳴物(なりもの))を使って囃子(はやし)方が受け持って抽象的に情景描写を表現したが、その後写実的効果が求められてきたため、種々のなま音(おと)を出す道具(擬音(ぎおん)器具)がつくられた。たとえば浪籠(なみかご)、雨団扇(あめうちわ)、小鳥笛、虫笛、赤子笛など。外国では16世紀のシェークスピア台本には音の指定はないが、19世紀になるとイプセンの戯曲に音のト書(がき)がみられる。チェーホフの『桜の園』(1904)には、数々の音の指示があり、出演者たちが音響係を受け持った。日本の新劇などにおいては、アメリカから音響効果のレコードが輸入(1930)されてからレコードによる時代が続くが、テープレコーダーの出現(1950ころ)以来、録音機の進歩によってこの分野は一大変革を遂げた。ヨーロッパでは伝統的になま音(楽器、擬音)を使用することが多く、最近多少、電気音響機器を使うようになったとはいえ、日本の比ではない。イギリスでは、現在でも音楽のなま演奏が行われている。
現代では質の高い音響設計が各劇場に施されているためもあって、音響効果の進歩は著しい。日本で現在一般的に行われている方法は、なま音と録音テープによる電気音響の併用であるが、舞台の天井や壁、足元などに仕込んだスピーカーによって、立体的な音を自由に操作することができる。新しい感覚の音としては、シンセサイザー、エコーマシーン、コンピュータなどの電子音響機器が取り入れられ、無限の可能性が期待される。舞台効果という仕事は、単なる写実や高度な技術にとどまらず、心理的表現やデフォルメを必要とするうえにおいて、創造性、芸術性がたいせつな要素となる。
[山本泰敬]
『園田芳龍著『舞台効果の仕事』(1954・未来社)』▽『岩淵東洋男著『わたしの音響史』(1981・社会思想社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…演劇・映画・ラジオ・テレビなどにおいて,劇の進行上必要な音(擬音)を創造・表現して,劇の進展を助け雰囲気を盛り上げる舞台効果の一つ。各分野でその内容は異なるが,大要は同じなので,ここでは演劇の音響効果について記す。…
※「舞台効果」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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