色即是空・空即是色(読み)しきそくぜくうくうそくぜしき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「色即是空・空即是色」の意味・わかりやすい解説

色即是空・空即是色
しきそくぜくうくうそくぜしき

仏教用語。『般若心経(はんにゃしんぎょう)』のなかのことばとして有名。物質的なもの(色(しき))はそのまま実体性をもたず(空(くう))、また実体性をもたないままでしかも物質的なものとして存在するという意味で、これに続いて感受作用(受)、表象(想)、認識などを形成する力(行)、認識器官(識)についても同様のことが述べられる。人間を取り巻く世界と人間、考えられうるすべての存在者は、人間が想定しがちな不変で固定的な固有の性質をもって存在するのではない、換言すると空であり、しかも空でありながらいろいろの原因条件によって現象しつつある、という般若経典の基本である空の思想を表現したもの。前半は、あらゆるものを空とみることによって人間の煩悩(ぼんのう)や妄想(もうそう)を取り除くことをねらい、否定的であり、後半は、執着のない目でみたとき、あらゆるものがそれぞれの働きをもって生き生きと現象し存在していることを肯定的に表している。

[江島惠教]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「色即是空・空即是色」の意味・わかりやすい解説

色即是空空即是色
しきそくぜくうくうそくぜしき

玄奘訳『般若心経』中の文句現代語訳すると,「およそ物質的現象というものは,すべて実体がないということである。およそ実体がないということは物質的現象なのである」となる。「色即是空」が説かれるわけは,人が物質的現象に執着しがちであることを裏面から述べるものである。人は自己に執着し,自己の所有していると考えるものに執着している。ところがよくよく考えてみれば,それらにはなんら実体というものがない。自己に属していると愛着しているものを失えば,それは憂いを生じることとなる。しかし愛着することなく,執着することのない者にとっては憂いも悲しみも存在しない。「色即是空」とは,物質的現象には実体がないということを無限に観察すべきことを教えるものである。しかし一方では「実体がない」と観察しているうちに,ややもすると虚無主義に陥る危険性が生じてくるおそれがある。そこで「空即是色」と続いて説いて,虚無主義に陥るのを避けているのであろう。

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