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花村萬月 はなむら まんげつ

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デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説

花村萬月 はなむら-まんげつ

1955- 平成時代の小説家。
昭和30年2月5日生まれ。中学を卒業後,全国を放浪し,無頼と放蕩(ほうとう)の生活をおくる。旅行記の執筆を機に創作活動にはいり,平成元年「ゴッド・ブレイス物語」で小説すばる新人賞をうけ,エンターテインメント作家としてたつ。10年「皆月」で吉川英治文学新人賞,「ゲルマニウムの夜」で芥川賞。東京出身。本名は吉川一郎。著作はほかに「少年曲馬団」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

花村萬月
はなむらまんげつ
(1955― )

小説家。東京都生まれ。本名吉川一郎。小学校3年生のときに父親が死亡。作者自身のエッセイなどによると、そのころからすさんだ生活を送り小学校5年生のときに児童相談所に連れていかれそのまま福祉施設に送られる。その施設で中学卒業まで過ごし、高校に入学するが、ほどなくして中退。以後は放蕩三昧(ざんまい)を繰り返し全国を放浪する。
 作家デビューのきっかけをつかんだのは30歳をすぎてからだった。真冬の北海道を旅行していたとき、列車の待ち時間などを利用して旅日記をつけていたところ、友人が旅行雑誌にその紀行文を応募、見事に入選して10万円をもらったのである。賞金を手にしたときの感想は「こんなんで金になるのか」というものだったという。「そのあと、これで金が稼げるのならダラダラやってもしょうがないから、とりあえず3年やって、駄目だったら次の仕事をさがそうと思った」(『鳩よ!』1997年11月号)との決意のもと、大量に原稿用紙を買い求めて書き始める。また有名作家の作品の冒頭部分を書き写し、半村良の導入部の書き方や、山田詠美の句読点の打ち方などを参考にした。そうした努力を重ねながら、およそ3か月で1500枚あまりを執筆、書くことへの自信を深める。
 書き上げた原稿は、各種文学新人賞へ次々と応募。そのなかの一作『ゴッド・ブレイス物語』が、1989年(平成1)『小説すばる』新人賞を受賞する。ブルース・バンドの若者たちが旅の途中でさまざな冒険や挫折と出会うこの物語は、放浪中の作者の体験を描いたものだという。続く『眠り猫』『重金属青年団』(ともに1990)も、無数に書いていた当時の原稿に加筆訂正した作品だったが、このころからリアルな暴力描写や、濃密な性描写、登場人物たちが「疑似家族」を構成するといったモチーフが色濃く出ていた。これらの特質が緊密に結びつき、融和した傑作が『ブルース』(1992)である。挫折したブルース・ギタリスト、天性の才能を秘めた美少女ボーカリスト、同性愛者のやくざという3人の主要キャラクターを配した同作は「究極のコミュニケーション」とは暴力とセックスにほかならないとして、その両者をすさまじいほどの過激さで描いている。『真夜中の犬』『笑う山崎』(ともに1994)、『皆月(みなづき)』(1997。吉川英治文学新人賞)は、それらの延長線上にある。
 ところが、その後は『鬱』(1997)、 『ぢん・ぢん・ぢん』(1998)といった作品に代表されるように、起承転結や登場人物の行動理由を度外視した、物語性の希薄な小説を相次いで発表してゆく。この点について花村は、殺人を犯すのに背景や動機、理由をつけないと許されない小説、あるいは屁理屈でもオチをつけないと納得してもらえない小説はもう書く気がなくなった、とインタビュー等で語っている。小説のなかだけで新しい倫理をつくりたい、それが根本的な部分で、今後目指す道だという。その第一歩として、それまでの作品の中核となってきた性と暴力および人間がもつ陋劣(ろうれつ)さを昇華させるべく一大シリーズにとりかかる。その第一作である『ゲルマニウムの夜――王国記1』(1998)は、神の存在と宗教倫理に真正面から取り組んだ意欲作で、第119回芥川賞を受賞する。
 既存の小説観を破壊し、新しい倫理を築き上げようとする花村の試みは、文学の新しい可能性を探る行動として大いに注目される。[関口苑生]
『『ゴッド・ブレイス物語』(集英社文庫) ▽『眠り猫』(徳間文庫) ▽『重金属青年団』『ブルース』(角川文庫) ▽『真夜中の犬』(光文社文庫) ▽『笑う山崎』(祥伝社・ノン・ポシェット) ▽『皆月』(講談社文庫) ▽『鬱』(双葉文庫) ▽『ぢん・ぢん・ぢん』(祥伝社文庫) ▽『ゲルマニウムの夜――王国記1』(文春文庫)』

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