山田詠美(読み)ヤマダエイミ

デジタル大辞泉 「山田詠美」の意味・読み・例文・類語

やまだ‐えいみ【山田詠美】

[1959~ ]小説家東京の生まれ。本名双葉ふたば。大胆な描写で男女関係の深部をえぐる恋愛小説を執筆し、話題を呼ぶ。「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」で直木賞受賞。他に「ベッドタイムアイズ」「アニマル・ロジック」「風味絶佳」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「山田詠美」の意味・わかりやすい解説

山田詠美
やまだえいみ
(1959― )

小説家。東京都生まれ。本名山田双葉。明治大学文学部日本文学科中退。会社員の父親の転勤にともなって、中学校まで転校を繰り返す。読書好きの母親の影響で、小学校から高校にかけて、漱石石坂洋次郎からサガンボールドウィンといった作家までを耽読したという。漫画研究会に所属していた大学在学中より、本名でマンガを発表。やがて執筆で忙しく大学を中退することとなった。中退後もマンガ家として活躍し、単行本化もされていたが、自己表現のメディアとしてのマンガに限界を感じ、クラブのホステス、ヌード・モデルなどのアルバイトで生活する。

 1985年(昭和60)初めて書いた小説『ベッドタイムアイズ』で『文芸』賞を受賞。米軍基地内のクラブ歌手と、基地から脱走した黒人GIとの短い性愛関係を描いたものだったが、作者が若い女性だったこと、実際に黒人の恋人と生活していたことなど実生活との関係が話題を呼んだ。87年、ソウル・ミュージックのナンバーと恋する男女の一瞬の心の揺れをからめて描いた短編連作『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞。「私の心はいつだって黒人女(シスター)だよ。日本語を綺麗に扱える黒人女(シスター)は世の中で私だけなんだ」と作家本人が後書きで書くように、この頃の作品には、共同体的な日本社会への違和感と、規範にとらわれず自在に振舞う個人への憧れが強く、その憧れが黒人へと仮託される。この後も、若い男女が恋愛と性的な関係を契機に成長していくさまを主題にした作品は『カンヴァスの柩(ひつぎ)』(1987)、『トラッシュ』(1991)と書き継がれていく。これまで山田は、その「大胆な性描写」などが話題になることが多かったが、実際には特にかわったことが書かれているわけではない。それ以上に、彼女の作品の特徴は、性愛に過大な意味が与えられず、感覚的で情緒的な一瞬のできごととして描かれているところにある。そこで性行為は、人種国籍とはかかわりのない自由な個人が、対人技術を駆使して行うコミュニケーションであり、自己解放のための契機である。

 一方で山田は、『風葬の教室』(1988)、『晩年の子供』(1991)といった思春期前後の少年少女を描いた作品系列をもっている。鋭敏な自意識を抱えた子供が、大人周囲の子供たちにとっての常識に違和感を感じながら自分なりの生き方を模索していくさまが描写される。その他の主な作品に、新人賞作家となったSMクラブの女王様と周囲の人間の関わりを描いた『ひざまずいて足をお舐(な)め』(1988)、自分だけの価値観をもってたくましく生き抜こうとする高校生を主人公とした『僕は勉強ができない』(1993)、エッセイ集『熱血ポンちゃんが行く!』(1990)など。

[倉数茂]

『『ベッドタイムアイズ』『風葬の教室』(河出文庫)』『『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』(幻冬舎文庫)』『『カンヴァスの柩』『ひざまずいて足をお舐め』『僕は勉強ができない』(新潮文庫)』『『トラッシュ』(文春文庫)』『『晩年の子供』『熱血ポンちゃんが行く!』(講談社文庫)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「山田詠美」の解説

山田詠美 やまだ-えいみ

1959- 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和34年2月8日生まれ。漫画から小説に転じ,昭和60年「ベッドタイムアイズ」で文芸賞。男女の性愛,少年や少女の心理を大胆かつ繊細にえがき,62年「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」で直木賞。平成3年「トラッシュ」で女流文学賞,8年「アニマル・ロジック」で泉鏡花文学賞,13年「A2Z」で読売文学賞,17年「風味絶佳」で谷崎潤一郎賞。23年文芸評論家の可能涼介と結婚。24年「ジェントルマン」で野間文芸賞。東京出身。明大中退。本名は双葉。

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