花粉症・アレルギー性鼻炎

内科学 第10版 の解説

花粉症・アレルギー性鼻炎(アレルギー性疾患)

定義
 アレルギー性鼻炎は「鼻粘膜のⅠ型アレルギー疾患で,原則的には発作性反復性のくしゃみ,水様性鼻漏,鼻閉を3主徴とする疾患」と定義される.しかし,患者の大多数で原因抗原の同定が可能であり,この点で喘息やアトピー性皮膚炎とは,Ⅰ型アレルギー反応の占める重みは異なる.
分類
 原因抗原,好発時期,重症度から分類される.原因抗原からは吸入性,経口性に大別され,前者が圧倒的に多い.好発時期からは,通年性アレルギー性鼻炎(perennial allergic rhinitis)と季節性アレルギー性鼻炎(花粉症:seasonal allergic rhinitis)に大別される.
原因・病因
 発症には遺伝因子と環境因子が関与する.遺伝因子として,家族や一卵性双生児での花粉症発症の高い一致率,HLA型特異性からは,ブタクサ花粉症とHLA-DR2/DW2,DR5,スギ花粉症とHLA-DQW3の関連が指摘されている.さらに,最近はサイトカインやその受容体の遺伝子多型との関連も検討されているが,結果は一定していない.
 一方,環境因子としては,まず,第一に原因抗原があげられる.通年性ではダニ,季節性ではスギが圧倒的に多いが,その他,イネ科キク科などの花粉,イヌ,ネコといったペットなどがおもな原因抗原を占める.真菌は比較的少ない.抗原の種類には地域差が大きい.環境因子としては,抗原以外にディーゼル排出粒子,窒素酸化物などの大気汚染,喫煙,居住環境の変化,高蛋白・高脂肪食といった食生活の変化,腸内細菌叢の変化,結核や寄生虫といった感染症の罹患減少との関連(衛生説といわれる)が指摘されているが,必ずしも結論は明らかにはなっていない.
疫学
 わが国におけるアレルギー性鼻炎の特徴は,スギ花粉症の占める割合が高いことである.戦後,建築資材用としてスギの植林が盛んに行われたが,その結果20~30年が経過した1970年代,80年代からスギ花粉の大量飛散が始まった.飛散距離の短い草本類と異なり,スギ花粉では数十km以上の飛散が珍しくない.1964年にスギ花粉症がはじめて報告されて以来,患者数は増加の一途をたどっている.スギ植生のほとんどない北海道,沖縄を除いて,地域差はあるが全国民の16%以上が罹患しているとされている.花粉症は従来若い成人に発症が多く,小児では少ないとされていたが,小児での発症の増加も近年著しい.一方,ヒノキ花粉は,主抗原のCho-1が,スギ花粉の主抗原であるCryj 1と80%近い相同性をもつことが明らかにされている.ヒノキの分布は関東以西に多く,ヒノキ花粉飛散開始は,スギ花粉飛散の開始に遅れる.ほかの花粉症については,地域差が大きい.
病態(図10-24-1)
 抗原呈示細胞から抗原刺激を受けるとナイーブT細胞はTh1細胞とTh2細胞に分化するが,アレルギー性鼻炎ではアンバランスが生じTh2細胞およびTh2サイトカイン産生が優位となっている.背景には制御性T細胞の関与が考えられている.このような環境下で,スギ花粉など抗原の暴露・侵入により,抗原特異的Th2細胞が誘導され,鼻粘膜局所あるいは頸部リンパ節において,抗原特異的Th2細胞のサポート下に抗原特異的IgE抗体が産生されて発症する.IgE抗体は,マスト細胞表面の高親和性Fcε受容体(FcεRI)と結合してマスト細胞を感作し,侵入してくる抗原と反応して,その結果マスト細胞からヒスタミン,ロイコトリエン,プロスタグランジンなどが放出される.このうち,ヒスタミンは鼻粘膜知覚神経(三叉神経)終末のヒスタミン受容体(HIR)を刺激し,刺激はSP(サブスタンスP),CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)陽性線維を介して,順行性に延髄のくしゃみ中枢に伝えられ,迷走神経を介してくしゃみが引き起こされる.さらに,くしゃみ中枢から分泌中枢に伝えられた刺激は,おもに副交感神経からなる反射遠心路に伝えられ,副交感神経が分布する鼻腺を刺激して鼻漏が生じる.一方,マスト細胞から放出されたペプチドロイコトリエン(pLTs:LTC4,D4,E4)をはじめ,ヒスタミン,プロスタグランジン,PAFなどは直接鼻粘膜の血管に作用して,血管拡張,透過性亢進から容積血管のうっ血,浮腫により鼻閉を引き起こす.特に,pLTsの作用は強く,濃度換算するとヒスタミンの数十倍の強さをもつ.
 一方,花粉症も含めてアレルギー性鼻炎患者の鼻粘膜には好酸球をはじめ,好塩基球,T細胞など活性化を受けた多くの浸潤細胞が多数認められる.花粉症患者に,花粉の非飛散期に花粉の暴露を行うと,即時相に引き続いて鼻粘膜局所では好酸球はじめさまざまな炎症細胞浸潤,炎症メディエーターが出現し,抗原の非存在下でも鼻漏や鼻閉などの症状が生じる.すなわち遅発相の存在である.花粉症も代表的Ⅰ型アレルギー疾患であるが,同時に炎症反応としての性格をもつ.アレルギー炎症の形成には,化学伝達物資,サイトカイン,ケモカイン細胞接着分子が複雑に関与している.
臨床症状
 アレルギー性鼻炎でみられる3主徴は,前述のようにくしゃみ発作,水様性鼻漏,鼻閉であるが,特に大量の抗原に暴露される花粉症では,眼症状,口腔症状,咽頭症状,皮膚症状・発熱・頭痛など全身症状などの出現も高い.これらの症状は,抗原そのものが標的臓器で障害を起こす以外に,鼻症状による鼻呼吸障害の結果として誘導されるもの,さらに治療薬による副作用もあり,鑑別は必ずしも容易ではない.
検査成績
 問診,鼻鏡検査,鼻汁好酸球検査から,過敏性の有無,アレルギーの有無を判断する.問診では症状とその程度以外に,好発期,合併症,既往歴,家族歴も重要である.典型的なアレルギー性鼻炎患者では,蒼白に浮腫状に腫脹した鼻粘膜と水様性分泌液が鼻鏡で観察される.しかし,鼻粘膜の発赤を示す症状も少なくない.皮膚テスト(安価,感度良,痛みあり,結果は即時に),血清特異IgE抗体定量(高価,敏感,痛み少ない,結果得るまで数日要),さらに誘発テストにより診断・治療方針の決定に進む.誘発テストでは,両側下鼻甲介前端に抗原ディスクを置き,5分間に生じるくしゃみの回数,鼻汁量,粘膜腫脹度から判定する.
診断・鑑別診断
 鼻のかゆみ,くしゃみ,水様性鼻漏,鼻閉といった鼻症状をもち,鼻汁好酸球検査,皮膚テスト(または血清IgE抗体陽性),誘発テストのうち2つ以上陽性ならば,アレルギー性鼻炎と確診する.一方,このうち1つのみ陽性であっても典型症状を有し,アレルギー検査が中等度以上陽性ならアレルギー性鼻炎と診断してよい(特に,花粉症や誘発テストのできないとき).鑑別として非アレルギー性非感染症の鼻粘膜過敏症があり,血管運動性鼻炎,好酸球過多性鼻炎が重要である.前者は,症状はありながらも鼻汁好酸球陰性,皮膚テスト・血清IgE抗体陰性であり,後者は,鼻汁好酸球検査は陽性であるが,皮膚テスト・血清IgE抗体は陰性である.また,感染性鼻炎として急性鼻炎,いわゆるかぜとの鑑別も重要である.かぜでは,鼻汁中に好中球や剥落上皮細胞が主体であること,咽頭熱や発熱,関節痛などの全身症状をもつ頻度が高いこと,多くはウイルス感染だが,二次感染を生ずると粘性,膿性に鼻汁が変化することが特徴であるが,アレルギー性鼻炎との鑑別は必ずしも容易ではないときもある.
合併症
1)アレルギー性結膜炎:
特にスギ花粉症ではほぼ必発で,瘙痒感,流涙,異物感,眼痛などが主症状である.
2)口腔症状:
鼻呼吸障害による口腔乾燥,味覚障害の頻度が高い.一方,ある特定の食物を食べると,口腔粘膜や口唇に瘙痒感や浮腫状腫脹が出現する口腔アレルギー症候群も,特に花粉症と関連が深い.シラカバ花粉症患者では,リンゴサクランボなどバラ科の果実を摂取したときに好発することがよく知られている.その他,イネ科花粉症ではトマト,メロン,ミカン,ヨモギ花粉症ではメロン,バナナ,セロリなどが比較的原因食物として多いとされる.共通抗原の存在が指摘されている.
3)咽・喉頭症状:
異常感,瘙痒感,咳の頻度が高い.喉頭アレルギーの合併を指摘する意見もある.
4)気管・気管支症状:
アレルギー性鼻炎の20%前後に気管支喘息が,気管支喘息患者の40~90%にアレルギー性鼻炎の合併を認める.また,合併率が高いだけでなく,アレルギー性鼻炎の治療が喘息症状の改善に働くこと,合併していない場合にはアレルギー性鼻炎は喘息発症の危険因子となり,その治療は喘息発症のリスクを軽減するとも報告され,喘息との深い関連からone airway,one diseaseといったとらえ方も提唱される.ただ,花粉を抗原とする喘息は少ない.花粉症では,花粉の大きさから下気道には到達しにくいと考えられている.
5)胃腸症状:
腹痛,悪心など多彩だが,内服薬の副作用や心因の関与もある.
6)皮膚症状:
アトピー性皮膚炎に増悪因子として作用する場合が多いが,特にスギ花粉症患者の一部では,アトピー性皮膚炎の既往がないのに発症する場合がある.季節性で露出部に多く,浮腫性紅斑が特徴とされる.
7)全身症状:
頭重感,倦怠感,さらにうつ状態も認められる.鼻呼吸障害の関与も考えられるが,症状の詳細な機序については不明である.
予後
 若年者のアレルギー性鼻炎の自然寛解率は低く,特に小児スギ花粉症ではまれである.
治療
 治療の第一法則は,いうまでもなく抗原の回避である.花粉飛散情報の活用,マスクや眼鏡による花粉抗原との遮断,ダニ対策などが行われる.
 減感作療法(抗原特異的免疫療法)は治療の柱の1つであり根本治療の可能性,薬物使用量の減少が期待されるが,頻回な皮下注射が必要なこと,副作用発現の可能性といった患者負担も大きい.
 薬物療法は,最も広く普及している.化学伝達物質受容体拮抗薬のうち,ヒスタミン受容体拮抗薬は,作用時間が短く,くしゃみや鼻漏に高い効果があることが特徴であるが,特異性の向上から,鎮静作用,抗コリン作用といった従来の副作用は軽減され,かつ作用持続時間も長くなった新しい世代の抗ヒスタミン薬も登場している.ロイコトリエン受容体拮抗薬,トロンボキサン・プロスタグランジン受容体拮抗薬もアレルギー性鼻炎治療薬として登場し,特に鼻閉に対する高い有効性と同時に抗炎症作用が期待されている. 化学伝達物質遊離抑制薬は,副作用が少なく,鼻閉にも比較的効果がある反面,効果発現までに時間がかかり,かつ効果もマイルドである. 局所ステロイド薬のアレルギー性鼻炎治療における役割は大きく,効果は強く,かつその発現が比較的早いこと,全身的な副作用が少ないといった特徴がある. 漢方薬は,効果はマイルドであるが,症例によっては高い有用性を示す. 薬物療法の1つの指針を表10-24-1に示す.目標は治癒ではなく,あくまでも重症を中等症に,中等症を軽症にステップダウンしていくことにある.花粉症,特にスギ花粉症の薬物治療については,本格飛散による重症化前からの初期治療が有効とされている.本格的に飛散を迎えれば症状により局所鼻用ステロイド薬を併用する.ステロイド点眼薬は眼圧亢進に留意しなければならない.症状がより強ければ,短期間のステロイド内服も考慮する. その他,最近はレーザーを用いた鼻粘膜焼却や高周波電極を用いた鼻粘膜の変性療法の有効性が報告されている.ただ,根本的治療にはならず再発もあり,また重症例には単独ではあまり効果がない.鼻中隔弯曲など鼻内の構造異常が強ければ矯正手術を考慮する.[岡本美孝]
■文献
鼻アレルギー診療ガイドライン作製委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン,第6版,ライフサイエンス・メディカ,東京,2009.
奥田 稔:鼻アレルギー―基礎と臨床,医薬ジャーナル社,東京,1999.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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