日本大百科全書(ニッポニカ) 「草木染め」の意味・わかりやすい解説
草木染め
くさきぞめ
草や木から採取した材料を用いて、繊維に色を染め付けることで、植物染めというのと同じ意味である。もともとこのことばは、大正から昭和にかけて、「月明会」を主宰して衣食住における自然復帰を提唱した染色家・山崎斌(あきら)の創案登録したものが、その親しみやすい呼び名から一般化し、今日に至ったものである。もとより植物染めという名称自体が、洋服に対する和服・着物というのと同じく、明治の初めに人造染料が入ってきたのち、これに対して在来の染め物を称したことばで、それほど古いものではない。
古来染料として用いられた植物の種類は非常に多く、わが国だけでも数百種に達するが、このうち色素の堅牢(けんろう)性の少ないもの、材料の採取の困難なものなどはしだいに陶汰(とうた)されて、現在一般に用いられているものは数十種にすぎないであろう。これらの植物性の染料を、染色技法のうえから分けてみると、だいたい次の三つが考えられる。
(1)直接染料substantive dyes これは染料の色がそのまま水に溶けて被染物に染め付くもので、たとえば食品の着色に用いられるウコンやキハダ、クチナシ、柿渋(かきしぶ)、ベニバナ、クサギなど。媒染を必要としないもの。ただし、こうした染料も、色の染まりをよくしたり、定着度を高めるために、酸、石灰、豆汁、油などの助剤が用いられることが多い。
(2)建(たて)染め染料vat dyes 建染めでは、アルカリに溶解する染料は、これを還元させることによってロイコ化合物(無色塩基)となり、それが空気中で酸化すると、染料が復活して、繊維に定着する。媒染は必要としない。植物染料ではないが貝紫の染法は、このもっとも簡単なものである。カテキュー(阿仙薬)や青いクルミの果肉による染色なども、酸化によって発色する。しかし、建染め染料を用いるもっとも進んだ形のものは藍(あい)薬で、インジゴを含む染料は、わが国の蓼(たで)藍や琉球(りゅうきゅう)藍、インド藍、大菁(たいせい)(ウォード)など50種くらいあるといわれる。
(3)媒染染料mordant dyes これは、染色に際して染料に加えられる助剤のうち、繊維の上について、染料とともに水に不溶解性の化合物をつくるものをいい、天然染料の多くはこれに属する。そのもっとも素朴なものは、タンニン酸と鉄分をあわせ用いた茶、黒系の染色における鉄媒染で、その数は非常に多い。クリ、カシワ、クルミ、ザクロ、ビンロウジ、フシノキ、ヤマウルシ、ヤシャブシ、ヤマモモ、シャリンバイなど。これに対して、黄色や赤の染色には、アルミニウム媒染によって行われるものが多い。古くはアルミニウムを含有する植物を求めて、これの粉末や煎汁(せんじゅう)、灰汁(あく)などが多く用いられていたが、高文化の土地では金属アルミニウム(ミョウバン)が用いられ、これがしだいに広がっていった。おもな媒染染料には、アカネ、スオウ、タンガラ、ヤマモモ、カリヤス、ムラサキなどがある。
[山辺知行]
『山崎青樹著『草木染・糸染の基本――浸し染の手法』(1978・美術出版社)』▽『山崎青樹著『草木染の事典』(1981・東京堂出版)』