キハダ(その他表記)Amur cork(tree)
Phellodendron amurense Rupr.

改訂新版 世界大百科事典 「キハダ」の意味・わかりやすい解説

キハダ
Amur cork(tree)
Phellodendron amurense Rupr.

樹皮の内皮が鮮黄色を呈するミカン科の落葉高木で,高さ20mに達する。樹皮は灰色または灰褐色で深裂し,コルク質の発達が著しい。葉は対生し,奇数羽状複葉で長さ20~30cm。小葉は卵形ないし卵状長楕円形,両端はとがり,縁には小さい鋸歯と縁毛があり,裏面中肋基部に柔毛があり,もめば芳香がある。雌雄異株。初夏に頂生の長さ6~8cmの円錐花序を出し,小さい花を多数つける。花は5数性。果実は球形で直径約1cmの液果状核果,黒く熟し,なかに5核,5種子を含む。日本全域,朝鮮,アムール,ウスリー地方,中国東北部に分布する。コルク層を除き平板状に乾燥した樹皮を黄蘗(おうばく)(または黄柏)と称し,健胃剤とする。奈良県で作られる陀羅尼助(だらにすけ)(ダラスケともいう)はこの黄蘗のエキスを材料とした胃薬である。材は建築,家具,器具,箱などに用いる。種子は苦みがあり,薬用,殺虫剤とする。また街路樹にも用い,樹皮の内皮は黄色染料とする。
執筆者:

古代から樹皮の内皮を染色に用い,またこの粉末は健胃薬としても使われる。薬理作用主成分の植物塩基ベルベリンberberineであり,染料の黄色色素の成分もこれと同じである。キハダは水溶性多糖類を含み染料助剤となり,タンパク質繊維にも植物繊維にもよく染着する。染色はきわめてたやすく,媒染剤

不要である。《延喜式》は藍との交染による深緑,中緑,浅緑,青緑などの色を染め出す処方を伝えている。また防虫作用があり写経用紙を染めた。正倉院にその記録と遺品がある。
執筆者:


キハダ (黄肌)
yellowfin tuna
Thunnus albacares

スズキ目サバ科の海産魚。キワダとも呼ばれる。その名のとおり第2背びれ,しりびれ,小離鰭(しようりき)が鮮黄色で,体もやや黄色を帯びる。全世界の熱帯から亜熱帯にかけて広く分布する。本州中部以南の日本近海に一年中生息し,夏季には北海道近海まで北上する。ひれや体色が黄色いこと以外にも第2背びれやしりびれが著しく延長するのが特徴。ただし,体長70cmくらいまでの小型のものではあまり長くない。マグロ類中比較的大型な種類で,体長2m,体重200kgになる。産卵場所は赤道をはさんで南北30度までの広い海域に及ぶ。日本近海では4~8月にかけて産卵する。表層または中層性の魚類,甲殻類およびイカ類をおもな餌とする。おもにマグロはえなわで漁獲される。肉はピンク色。夏がしゅんで,刺身で食べられる以外に,缶詰や魚肉ソーセージにも利用される。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キハダ」の意味・わかりやすい解説

キハダ(ミカン科)
きはだ / 黄膚
[学] Phellodendron amurense Rupr.

ミカン科(APG分類:ミカン科)の落葉高木。高さ15メートルに達する。樹皮には厚いコルク層があり、表面は黄褐色を帯び、内皮は黄色で苦味がある。葉は対生し、奇数羽状複葉、長さ約30センチメートル。小葉は9または11枚、先がとがった長楕円(ちょうだえん)形ないし卵状楕円形で、長さ約10センチメートル、縁(へり)に鈍い鋸歯(きょし)があり、裏面は白緑色を帯びる。雌雄異株。夏、枝の先に円錐(えんすい)花序をつけ、黄緑色の小花を開く。萼片(がくへん)、花弁は雄花・雌花ともに5~8枚。雄花は雄しべ5本、雌花は雌しべ1本で子房は5室。核果は黒色球形で、種子は5個。北海道から九州および朝鮮、中国東北部、アムール地方に分布する。変種のオオバキハダは葉や花序に母種より毛が多く、本州中部地方に分布する。

 名は、内皮の色に由来する。樹皮のコルクは瓶の栓や漁網の浮きに用いる。なお、天平古文書(てんぴょうこもんじょ)に黄蘗(おうばく)染の黄色紙がみられるなど、昔は染料として藍(あい)とともに使われていた。

[古澤潔夫 2020年10月16日]

薬用

漢方では、幹の皮から厚いコルク層を除いて鮮黄色の部分だけにしたものを黄柏(黄蘗)(おうばく)と称し、消炎、利尿、止瀉(ししゃ)、解毒剤として下痢、黄疸(おうだん)、肝炎、湿疹(しっしん)、腫(は)れ物、口内炎、肺結核、肺炎、腎(じん)炎などの治療に用いる。民間では、以前は本品のほかにセンブリゲンノショウコアオキの葉などを加えた水製乾燥エキス(黄柏エキス)を陀羅尼助(だらにすけ)、百草(ひゃくそう)、煉熊(ねりま)といい、竹の皮に包んで深山の茶店などで売っていて、急性胃腸病、腹痛、下痢の治療に用いた。ベルベリン系アルカロイドを含有しているので苦味が強く、胃腸機能改善のための苦味健胃剤としても用いられ、血圧降下作用も知られている。この粉末を酢で練って、打撲症に外用する。

[長沢元夫 2020年10月16日]


キハダ(海水魚)
きはだ / 黄肌鮪
yellowfin tuna
[学] Thunnus albacares

硬骨魚綱スズキ目サバ科に属する海水魚。体長1.8メートルに達する。第2背びれと臀(しり)びれが著しく伸長するのが特徴。これらのひれや第2背びれの後方にある離鰭(りき)が鮮やかな黄色であり、キハダの名称は、ひれは古語でハタといったことに由来する。体の背部は濃青色、側面は黄金色、腹面は銀白色を呈し、体側に淡色の横縞(よこじま)状の斑紋(はんもん)がある。第2背びれや臀びれは若魚期には短く、成長に伴い伸長する。若年魚はキメジとよばれる。キハダマグロ、キワダ(またはキワダマグロ)は別称。ほかに、伸長したひれに由来するイトシビの名もある。

 熱帯性のマグロであり、太平洋、大西洋、インド洋の赤道海域を中心とした熱帯、亜熱帯域にわたり広く分布する。暖流の影響のあるところでは、夏季に日本の東北沿海やオーストラリア南東部など温帯域にも回遊する。産卵が行われるのは水温24℃以上の水域であり、幼魚期、若年期には島嶼(とうしょ)や陸岸に近接した水域に生息し、表層を群れをつくって遊泳するが、成長に伴い沖合いに分布域を広げ、中層を遊泳するようになる。表層を浮遊する木材など漂流物に付随遊泳する性質があり、木つき群とよばれる。表層遊泳群は竿(さお)釣りや巻網によって漁獲され、中層を遊泳する魚は延縄(はえなわ)漁業の対象となる。マグロ類のなかでキハダはもっとも漁獲量が多い。欧米諸国では缶詰として利用されているが、日本では鮮魚としての消費が多い。

[上柳昭治]


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百科事典マイペディア 「キハダ」の意味・わかりやすい解説

キハダ(植物)【キハダ】

北海道〜九州,東アジアの山地にはえるミカン科の落葉高木。樹皮は淡黄褐色で厚いコルク層をなし,内皮は黄色となる。葉は対生し,裏が粉白色で,5〜13枚の小葉からなる奇数羽状複葉。雌雄異株で,5〜6月,小枝の先に黄緑色の小花を円錐状につける。果実は球形で径約1cm,秋に黒熟。内皮をオウバク(黄柏/黄蘗)といい,健胃薬とし,陀羅尼助(だらにすけ)の主成分。染料にも用いる。材を家具,細工物とする。

キハダ(魚類)【キハダ】

サバ科の魚。別名キワダ。地方名マシビ,イトシビ,キンヒレなど。小型の若魚はキメジともいわれる。全長2mになる。世界中の暖海に広く分布するマグロ類。日本海にはまれ。体側に黄色みがあるため黄肌の名があるが,鮮度が落ちるとこの色は消失する。第2背びれとしりびれおよびそれらの副びれは淡黄色。産額が多く,刺身,すし,缶詰などにする。夏に特に美味。
→関連項目マグロ(鮪)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キハダ」の意味・わかりやすい解説

キハダ
Thunnus albacares; yellowfin tuna

スズキ目サバ科の海水魚。食用。熱帯水域の代表的なマグロ。キワダとも呼ばれる。全長 1.5~2m。体は肥厚した紡錘形で,背面は青黒色,腹面は白色である。第2背鰭と尻鰭は黄色で高く伸び,鎌状。背鰭,尻鰭の後方に8~9個の小さい黄色の離れ鰭をもつ。トビウオ,イカなどを餌とし,おもに延縄 (はえなわ) で漁獲される。世界の温・熱帯の海洋に広く分布する。

キハダ(黄蘗)
キハダ
Phellodendron japonicum

ミカン科の落葉高木。山地に自生し高さ 15mほどになる。葉は奇数羽状複葉。木の皮をはぐと黄色であることからこの名がある。この樹皮には苦みがあり,健胃整腸の作用があって重要な薬用植物とされる。夏に,枝の先端に円錐花序を生じ,多数の黄緑色の小花をつける。材は緻密で光沢があり,家具材や工芸材として価値が高い。

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世界大百科事典(旧版)内のキハダの言及

【料紙装飾】より

…紙を書きやすく,また長く保存するための工夫は,古くから行われてきた。たとえば紙をたたいて平滑にする打紙(うちがみ)や,玉や牙で磨く瑩(けい)紙,防虫のため黄蘗(キハダ)で茶色に染める努力などである。これらからしだいに,文様を彫った版木に紙をのせ,玉や牙で磨いて光沢のある線で文様を表した蠟箋(ろうせん)あるいは蘇芳(すおう),苅安(かりやす),藍(あい)など各種各様の植物染による色紙などの装飾技法が生み出されてきた。…

【マグロ(鮪)】より

…日本ではふつうマグロとは大型のサバ型魚類で刺身として生食に供されるものを指すことが多く,このためカジキ類をもカジキマグロと称することがある。分類学上のマグロ属はビンナガ(ビンチョウ)Thunnus alalunga(英名albacore)(イラスト),クロマグロ(ホンマグロ,シビ,ハツ)T.thynnus(英名bluefin tuna)(イラスト),ミナミマグロ(豪州マグロ)T.maccoyii(英名southern bluefin tuna),メバチT.obesus(英名bigeye tuna),キハダ(キワダ)T.albacares(英名yellowfin tuna)(イラスト),タイセイヨウマグロT.atlanticus(英名blackfin tuna),コシナガT.tonggol(英名longtail tuna)の7種を含む。このうち,ビンナガ,メバチ,キハダの3種は世界の熱帯から温帯にかけての広い範囲に生息する。…

【マグロ(鮪)】より

…日本ではふつうマグロとは大型のサバ型魚類で刺身として生食に供されるものを指すことが多く,このためカジキ類をもカジキマグロと称することがある。分類学上のマグロ属はビンナガ(ビンチョウ)Thunnus alalunga(英名albacore)(イラスト),クロマグロ(ホンマグロ,シビ,ハツ)T.thynnus(英名bluefin tuna)(イラスト),ミナミマグロ(豪州マグロ)T.maccoyii(英名southern bluefin tuna),メバチT.obesus(英名bigeye tuna),キハダ(キワダ)T.albacares(英名yellowfin tuna)(イラスト),タイセイヨウマグロT.atlanticus(英名blackfin tuna),コシナガT.tonggol(英名longtail tuna)の7種を含む。このうち,ビンナガ,メバチ,キハダの3種は世界の熱帯から温帯にかけての広い範囲に生息する。…

※「キハダ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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