日本大百科全書(ニッポニカ) 「キハダ」の意味・わかりやすい解説
キハダ(ミカン科)
きはだ / 黄膚
[学] Phellodendron amurense Rupr.
ミカン科(APG分類:ミカン科)の落葉高木。高さ15メートルに達する。樹皮には厚いコルク層があり、表面は黄褐色を帯び、内皮は黄色で苦味がある。葉は対生し、奇数羽状複葉、長さ約30センチメートル。小葉は9または11枚、先がとがった長楕円(ちょうだえん)形ないし卵状楕円形で、長さ約10センチメートル、縁(へり)に鈍い鋸歯(きょし)があり、裏面は白緑色を帯びる。雌雄異株。夏、枝の先に円錐(えんすい)花序をつけ、黄緑色の小花を開く。萼片(がくへん)、花弁は雄花・雌花ともに5~8枚。雄花は雄しべ5本、雌花は雌しべ1本で子房は5室。核果は黒色球形で、種子は5個。北海道から九州および朝鮮、中国東北部、アムール地方に分布する。変種のオオバキハダは葉や花序に母種より毛が多く、本州中部地方に分布する。
名は、内皮の色に由来する。樹皮のコルクは瓶の栓や漁網の浮きに用いる。なお、天平古文書(てんぴょうこもんじょ)に黄蘗(おうばく)染の黄色紙がみられるなど、昔は染料として藍(あい)とともに使われていた。
[古澤潔夫 2020年10月16日]
薬用
漢方では、幹の皮から厚いコルク層を除いて鮮黄色の部分だけにしたものを黄柏(黄蘗)(おうばく)と称し、消炎、利尿、止瀉(ししゃ)、解毒剤として下痢、黄疸(おうだん)、肝炎、湿疹(しっしん)、腫(は)れ物、口内炎、肺結核、肺炎、腎(じん)炎などの治療に用いる。民間では、以前は本品のほかにセンブリ、ゲンノショウコ、アオキの葉などを加えた水製乾燥エキス(黄柏エキス)を陀羅尼助(だらにすけ)、百草(ひゃくそう)、煉熊(ねりま)といい、竹の皮に包んで深山の茶店などで売っていて、急性胃腸病、腹痛、下痢の治療に用いた。ベルベリン系アルカロイドを含有しているので苦味が強く、胃腸機能改善のための苦味健胃剤としても用いられ、血圧降下作用も知られている。この粉末を酢で練って、打撲症に外用する。
[長沢元夫 2020年10月16日]
キハダ(海水魚)
きはだ / 黄肌鮪
yellowfin tuna
[学] Thunnus albacares
硬骨魚綱スズキ目サバ科に属する海水魚。体長1.8メートルに達する。第2背びれと臀(しり)びれが著しく伸長するのが特徴。これらのひれや第2背びれの後方にある離鰭(りき)が鮮やかな黄色であり、キハダの名称は、ひれは古語でハタといったことに由来する。体の背部は濃青色、側面は黄金色、腹面は銀白色を呈し、体側に淡色の横縞(よこじま)状の斑紋(はんもん)がある。第2背びれや臀びれは若魚期には短く、成長に伴い伸長する。若年魚はキメジとよばれる。キハダマグロ、キワダ(またはキワダマグロ)は別称。ほかに、伸長したひれに由来するイトシビの名もある。
熱帯性のマグロであり、太平洋、大西洋、インド洋の赤道海域を中心とした熱帯、亜熱帯域にわたり広く分布する。暖流の影響のあるところでは、夏季に日本の東北沿海やオーストラリア南東部など温帯域にも回遊する。産卵が行われるのは水温24℃以上の水域であり、幼魚期、若年期には島嶼(とうしょ)や陸岸に近接した水域に生息し、表層を群れをつくって遊泳するが、成長に伴い沖合いに分布域を広げ、中層を遊泳するようになる。表層を浮遊する木材など漂流物に付随遊泳する性質があり、木つき群とよばれる。表層遊泳群は竿(さお)釣りや巻網によって漁獲され、中層を遊泳する魚は延縄(はえなわ)漁業の対象となる。マグロ類のなかでキハダはもっとも漁獲量が多い。欧米諸国では缶詰として利用されているが、日本では鮮魚としての消費が多い。
[上柳昭治]