改訂新版 世界大百科事典 「ヤマモモ」の意味・わかりやすい解説
ヤマモモ
Myrica rubra Sieb.et Zucc.
暖地に生えるヤマモモ科の常緑高木。赤く熟した果実は食用として市販されることもある。英名はwax myrtle,bayberry,bay rum tree,waxberry,wild clove。中国名は楊梅。高さ20mに達する高木で,枝先に葉を密につける。葉は倒披針形で,長さ6~12cm,幅2~3cmとやや小型である。成木では全縁でやや裏に巻いているが,実生苗や若枝の葉には,大きな鋸歯が出る。葉裏に腺点がある。雌雄異株。4月ころ開花。雄花序は赤褐色で,旧年枝の先端部の葉腋(ようえき)に直立する2~4cmの尾状花序となり,多数の花をつける。雌花序は短く,数花をつける。果実は球形で,6月ころ赤紫色に熟す。表面には多汁質の粒状突起が密生し,内に堅い核があり,1種子を有す。関東および福井県以西の本州,四国,九州,琉球,朝鮮南部,台湾,中国大陸,フィリピンに分布する。果樹として栽培(特に徳島県)もされ,いくつかの品種がある。生食のほか,塩漬,ジャム,果実酒などにする。樹皮は染料として用いられ,漁網の染色にも用いられる。材は乾燥すると堅くなり,ろくろ細工,ボタンなどに用いられる。ヤチヤナギM.gale L.var.tomentosa C.DC.(英名sweet gale,bog myrtle)は寒地の湿地に生える落葉小灌木で,葉は小さく先端部に鋸歯があり,果実は球果状。枝葉に芳香があり,衣類にはさんで防虫にする。
ヤマモモ科は2属約40種からなり,南アフリカにヤマモモ属の多くの種がある。
執筆者:岡本 素治
薬用
日本で開発された生薬で,樹皮を楊梅皮(ようばいひ)という。タンニン,フラボノイドのミリセチンmyricetinやミリシトリンmyricitrinを含む。収斂(しゆうれん)および利尿作用があり,下痢,打撲症に内用,また単独で用いた煎湯はヒ素の中毒を中和し,火傷,疥癬(かいせん)などの皮膚病に外用して効果がある。
執筆者:新田 あや
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報