改訂新版 世界大百科事典 「カリヤス」の意味・わかりやすい解説
カリヤス (刈安)
Miscanthus tinctorius (Steud.) Hack.
イネ科ススキ属の多年草で,刈安の名は“刈りやすい草”の意味と解されている。異名の近江刈安は滋賀県伊吹山に生えるカリヤスの意味。ヤマカリヤスの名もある。日本の本州中部の山地の特産種で,山林中の草地に群生することが多い。茎は株立ちとなり,高さは1mに達する。葉は茎の節につき,幅広い線形で,長さは30cm余り,幅は1~1.5cmあり,まばらに粗い毛がある。9~10月ころ,長さ15cmくらいの花序を出す。ススキ属ではあるが,カリヤスの花序では細い総(ふさ)が数個掌状につき,毛におおわれない。小穂はやや密生して,長さは5mm強,芒(のぎ)はなく,対をなして,一方には短い柄が,他方には長い柄がある。小穂の付け根に短い基毛がある。かつて黄色染料として用いられ,アイとの交染で緑色も出していた。全草を乾燥し,熱湯で煮出して染色し,黄色のほかに,灰汁と石灰で茶緑色,鉄媒染で黒褐色に染色できた。天平時代から江戸時代まで庶民の間で実用され,一時は栽培されたこともある。
執筆者:小山 鐵夫
染色
乾燥した草を熱湯で煮出し,灰汁媒染によって黄色に染めるが,色素成分はフラボン系のものである。《延喜式》には,灰汁を用いて〈深葱(ふかぎ)〉〈浅葱〉に染め,刈安で下染めしてから,紫根を交染して〈青白橡(あおしろつるばみ)(灰色を帯びた青緑色)〉を得,藍と刈安の交染で〈深緑〉を得ると記されている。なお,八丈島で黄八丈の染色に使われるコブナグサを八丈刈安または刈安と呼んでいる。
執筆者:新井 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報