改訂新版 世界大百科事典 「虚血性骨壊死」の意味・わかりやすい解説
虚血性骨壊死 (きょけつせいこつえし)
ischemic necrosis of the bone
骨では,基質に埋まり基質の代謝をつかさどっている骨細胞は,骨を循環する豊富な血液から栄養を受けているが,骨の血行がなんらかの原因で広範に途絶すると,骨細胞は死滅し骨の代謝は停止する。この状態を虚血性骨壊死と呼ぶ。虚血性骨壊死が関節面の軟骨を支えている骨梁に発生すると,ちょうどシロアリに食害され家の柱が破損して屋根が落ちるように,屋根に相当する関節面が破壊され,関節面の不適合や変形を生じて関節機能の荒廃をきたす。
骨壊死を発生する原因が比較的明確なものを症候性骨壊死symptomatic necrosisと呼ぶ。これには外傷性のもの(股関節脱臼や大腿骨頸部骨折後の大腿骨頭壊死など),放射線照射後に生ずるもの(骨盤部大量照射による大腿骨頭壊死など)のほか,減圧症(潜水病,潜函病),ゴーシェ病,鎌状赤血球症に合併するものなどがある。最近では,このほか大量の副腎皮質ホルモン投与との関連も重視されている。原因不明のものは特発性骨壊死idiopathic necrosisと呼ばれる。これには成人の特発性大腿骨頭壊死,ペルテス病(小児大腿骨頭壊死),膝特発性壊死(高齢者大腿骨内顆関節面の病変),キーンベック病(成人月状骨壊死),ケーラー病(小児の足の舟状骨病変),フライバーグ病(第2ケーラー病ともいわれ,思春期の第2中足骨頭の病変)などがある。成人の特発性大腿骨頭壊死は1960年以降症例が急増し,アルコール愛飲,肝臓障害との関連が検討されている。このほか骨梗塞(こうそく)と呼ばれる関節面の支持と関係のない長管骨の骨幹や骨幹端の部分的骨壊死があるが,これは無症状で,臨床的には問題とならないもので,他の目的でX線撮影をした際,発見されることがある。
執筆者:杉岡 洋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報