蛋白漏出性胃腸症(読み)たんぱくろうしゅつせいいちょうしょう(その他表記)Protein-losing enteropathy

六訂版 家庭医学大全科 「蛋白漏出性胃腸症」の解説

蛋白漏出性胃腸症
たんぱくろうしゅつせいいちょうしょう
Protein-losing enteropathy
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 血漿蛋白(けっしょうたんぱく)、とくにアルブミンが消化管内に異常にもれ出ることによって起こる低蛋白血症を主徴とする症候群です。この病気は以前、本態性低蛋白血症(ほんたいせいていたんぱくけつしょう)と呼ばれていましたが、メネトリエ病の症例に放射性ヨードで標識したアルブミンを静注後、採取した胃液中に血漿アルブミンが異常漏出していたことが報告され、本症の概念は確立しました。

 代表的な病気として、胃のメネトリエ病腸リンパ管拡張症があげられますが、この2つの病気を原発性、他の器質的病気に合併するものを続発性と分けることもあります。

原因は何か

 蛋白漏出の機序として、下記の3つがあげられますが、これらが単独あるいは複合して蛋白漏出を起こすと考えられています。

①リンパ系の異常

 腸壁から静脈に至るリンパ管の形成不全や閉塞による腸リンパ管拡張症、収縮性心外膜炎悪性リンパ腫腸結核クローン病非特異性多発性小腸潰瘍症(ひとくいせいたはつせいしょうちょうかいようしょう)などで腸リンパ系の異常がみられ、それによって蛋白漏出が起こります。

②毛細血管透過性(とうかせい)の亢進

 アレルギー性胃腸症、アミロイドーシスなどでは消化管の血管透過性が亢進し、蛋白漏出を生じます。

③消化管粘膜上皮の異常

 潰瘍性大腸炎クローン病メネトリエ病、消化管の潰瘍性病変や悪性腫瘍などでは、この機序による蛋白漏出を生じます。

症状の現れ方

 浮腫(むくみ)が主な症状で、顔面や下肢などの限局性のものから、時には胸水や腹水を伴う高度なものもみられます。リンパ系の異常に基づく症例では、乳び性(白濁したリンパ液のこと)の胸水・腹水がみられます。

 そのほか、下痢、悪心(おしん)・嘔吐、腹部膨満感(ぼうまんかん)、腹痛などの消化器症状や、脂肪便(泥状便で酸性臭がある)、発育障害を伴うことがあります。

検査と診断

 一般血液検査では、低蛋白血症、低コレステロール血症、低カルシウム血症、鉄欠乏性貧血がみられます。消化管への蛋白漏出を証明する検査として、α1­アンチトリプシンクリアランス試験やシンチグラフィが行われます。さらに原因となる病気の診断には、消化管造影X線検査、内視鏡検査、生検による組織検査、リンパ管造影などが必要です。

治療の方法

 腸リンパ管拡張症では、低脂肪・高蛋白食の摂取、中鎖脂肪酸を含む半消化態栄養剤の投与を行います。薬物療法としては、通常は利尿薬やアルブミン製剤を投与しますが、副腎皮質ホルモン薬の投与が有効な場合もあります。また、メネトリエ病では、H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬などの薬物療法が行われます。

 そのほか、続発性の症例では、原因となる病気に対する治療を十分に行うことが大切です。

 保存的治療で効果があまりなく、病変が限局している場合には、外科的治療の適応となります。

病気に気づいたらどうする

 原因不明の浮腫に気づいたら、総合病院の内科を受診すべきです。リンパ系の異常に基づくものと診断されれば、低脂肪・高蛋白食の食事療法を心がけることが大切です。

飯田 三雄

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「蛋白漏出性胃腸症」の解説

蛋白漏出性胃腸症(消化管・膵・腹膜の疾患)

概念・病態生理
 血漿蛋白特にアルブミンの消化管内への異常な漏出により低蛋白血症を主症状とする症候群である.原発性として胃粘膜の肥厚を伴い胃からの漏出をきたすMénétrier病や小腸からの漏出をきたす腸リンパ管拡張症があるが,基礎疾患に伴う続発性のものが多い.蛋白漏出のメカニズムにより①消化管のリンパ系異常,②毛細血管の透過性亢進,③粘膜上皮の異常(炎症や腫瘍)を伴うものの3つに大別できる.①は腸管粘膜のリンパ管拡張が組織的に特徴であり,腸管リンパ系のうっ滞が想定されしばしば全身のリンパ系異常を伴う.非代償期の腹水貯留肝硬変症,後腹膜線維症,腸結核,悪性リンパ腫やリンパ管腫があり,収縮性心外膜炎・右心不全・大静脈血栓症などの血行動態の異常を伴う場合もある.②の基礎疾患は全身性エリテマトーデス,Sjögren症候群,Henoch-Schönlein紫斑病など膠原病・リウマチ疾患が多い.③腸粘膜上皮の異常としては圧倒的に潰瘍性大腸炎,Crohn病,非特異的多発性小腸潰瘍など炎症性腸疾患が多いが,Cronkhite-Canada症候群,大腸絨毛腺腫など腫瘍性病変も含まれる.Crohn病ではリンパ系異常も想定される.
臨床症状・検査成績
 主訴はむくみであり,顔面や下肢の浮腫が唯一の症状である場合が少なくない.ときに下痢や腹部膨満を生じ,重症では脂肪転送障害による脂肪便や低カルシウム血症によるテタニー,低カリウム血症,胸腹水(しばしば乳び胸腹水)貯留をきたす.幼児期や小児では成長障害を合併する.
 血液検査では,低蛋白血症が本症を疑う第一の検査所見である.A/G比は正常に保たれ,免疫グロブリン特にIgGやIgMの喪失やリンパ球特にT細胞の喪失による免疫能低下がみられる.
診断・鑑別診断
 肝疾患やネフローゼ症候群,あるいは摂取不足や吸収障害による低蛋白血症を除外する必要がある.蛋白漏出の証明には血清アルブミンを用いたテクネシウム(99mTc)による経時的シンチグラフィが有用で,大体の漏出場所を推測できる.確定診断には消化管漏出の証明が重要であり,蛋白分解酵素に抵抗性のα1-アンチトリプシン便中クリアランスを用いて下記の式で算出する.正常値は14 mL/日以下であるが腸リンパ管拡張症では100 mL/日以上に達する.ただし胃酸で分解されやすので,Ménétrier病の場合には酸分泌を抑制して検査する.基礎疾患の検索を同時に行う.小腸透視検査,大腸内視鏡,必要に応じて小腸内視鏡で炎症や潰瘍病変の有無を検査する.腸リンパ管拡張症では,中心乳び管が拡張した「散布性白斑」像や,脂肪吸収転送障害を示す「白色絨毛」所見がみられ,組織所見で粘膜固有層や粘膜下層の腸リンパ管の著明な拡張をみる(図8-6-1).腹部超音波・CT・MRIを行い,必要に応じリンパ管シンチグラフィ,リンパ管造影,血管造影(上,下大静脈造影も含む)を施行する.
治療・予後
 対症療法,特に安静と高カロリー・高蛋白・低脂肪食の食事指導が重要である.重症の場合は消化態栄養(成分栄養)や半消化態栄養による管理が必要となる.中鎖脂肪酸を補給した食事も有用である.症状に応じて利尿薬の投与やアルブミンの補給を行う.補充療法により本症自体による生命の危険は回避でき,腸リンパ管拡張症ではリンパ管の側副血行路が育ち改善する症例がある.しかし,免疫不全の合併から感染症や悪性腫瘍の発生率(特に悪性リンパ腫)が高まるので,免疫機能や感染のモニタリングが必要である.
 続発性のものは現病の治療が最優先されそれにより予後が左右される.原発性のリンパ管拡張,膠原病・リウマチ疾患,後腹膜線維症やCronkhite-Canada症候群ではステロイド薬が有効な場合があるが,免疫不全状態を悪化させる危険性が高いので,期間を区切って使用すべきである.抗プラスミン薬やオクトレオチド製剤が有効であったとの報告がみられる.[三浦総一郎]
■文献
三浦総一郎,穂苅量太,他:蛋白漏出性胃腸症の原因と鑑別診断.日本医事新報,4238: 1-6, 2005.
三浦総一郎,穂苅量太:蛋白漏出性胃腸症.消化器の臨床,11 (1): 5-12, 2008.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「蛋白漏出性胃腸症」の解説

たんぱくろうしゅつせいいちょうしょう【たんぱく漏出性胃腸症 Protein-losing Gastroenteropathy】

[どんな病気か]
 血液中のたんぱく質、とくにアルブミンが胃腸管壁(いちょうかんへき)を通過して管腔(かんくう)内へ異常にもれ出ることでおこる病気の総称で、低たんぱく血症(けっしょう)がみられるのが特徴です。
 漏出(ろうしゅつ)の原因は、腸リンパ系異常、毛細血管透過性(もうさいけっかんとうかせい)の亢進(こうしん)、胃腸管粘膜上皮(いちょうかんねんまくじょうひ)の異常や潰瘍(かいよう)によるものがあります。
 原因疾患は、炎症性腸疾患、アレルギー性胃腸症、腫瘍(しゅよう)、腸管感染症、リウマチ疾患、心疾患などですが、原因不明のものもあります。
[症状]
 浮腫(ふしゅ)(とくに顔面や下腿(かたい)に多い)がみられます。重症になると腹水(ふくすい)や胸水(きょうすい)をともないます。
[検査と診断]
 血液中のたんぱく質の低下と、たんぱくの胃腸管内への漏出を確認します。
 たんぱくの漏出はα(アルファ)1‐アンチトリプシンがどの程度腸管に漏出されるかを調べたり、アイソトープ(放射性同位元素)を使ってアルブミンの代謝(たいしゃ)の度合いを測定して調べます。
 また、原因疾患を見つけるため、X線検査、内視鏡検査、生検(せいけん)やリンパ管造影も行なわれます。
[治療]
 原因疾患の治療が優先されます。対症療法として、利尿薬、アルブミン製剤の服用や、低脂肪高たんぱく食品や中鎖脂肪酸(ちゅうさしぼうさん)食品(腸での吸収が早い脂肪を使った食品)による食事療法を行ないます。また、副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイドがアレルギーや炎症性腸疾患によく効くことがあります。
 多くは広範囲な病変をともなうので、漏出部位が同定できなければ、手術は行なわれません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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