日本大百科全書(ニッポニカ) 「テタニー」の意味・わかりやすい解説
テタニー
てたにー
tetany
わずかの刺激によってもおこる、筋肉の痛みを伴ったけいれんをいう。この状態は発作的であり、顔面や四肢におこりやすいが、喉頭(こうとう)筋、呼吸筋などにおこると呼吸困難に陥り、窒息をおこすので危険である。とくに手におこると、親指が手のひらのほうに曲がった状態となり、いわゆる助産婦状手の姿勢をとることが知られている。代表的なものは、上皮小体(副甲状腺(せん))の機能低下による低カルシウム血症の場合にみられる。上皮小体のホルモンは、カルシウムとリンの代謝に深く関係し、これらの血中濃度を正常に保持しているものである。この上皮小体ホルモンが欠乏すると、血中のリン濃度が上昇し、カルシウムの低下がおこるとともに、尿中にカルシウムが排泄(はいせつ)されないようになる。このため、神経、筋肉の興奮性が高くなり、テタニーの症状を呈することになる。上皮小体の機能低下は、上皮小体の発育不全、周囲の病変による破壊などでおこることもあるが、実際には、甲状腺に疾患があり、甲状腺を摘出するとき、誤って甲状腺に付着している上皮小体を摘出してしまうことが原因となる場合が多い。
[渡辺 裕]
なお、テタニーが潜在性の場合でも、血圧計のマンシェットを上腕に巻き付け空気を送入して最高血圧以上で3分間圧迫し阻血状態にすると、その刺激で助産婦状手を呈したり(トルソー徴候Trousseau sign)、耳介の前で顔面神経をたたくと顔面筋の収縮を認めたり(クボステック徴候Chvostek sign)するので、発見できる。また、既述のようにテタニーは上皮小体の機能低下によるものが典型的であるが、そのほか、ビタミンD欠乏による低カルシウム血症でもみられ、過換気症候群や頻回の嘔吐(おうと)などに伴うアルカローシスでもおこるなど、いろいろな場合におこるので、一つの症候群とみることもできる。
[海老原進一郎]