血清反応陰性脊椎関節症

内科学 第10版 「血清反応陰性脊椎関節症」の解説

血清反応陰性脊椎関節症(関節リウマチおよび類縁疾患)

概念・分類
 血清反応陰性脊椎関節症は,リウマトイド因子陰性で,おもに仙腸関節,脊椎,四肢大関節に発症する関節滑膜の炎症に,靱帯付着部,眼,皮膚,腸管などの関節外症状をしばしば伴う疾患群である.HLA-B27対立遺伝子との関連性が特徴で,強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis:AS),Reiter症候群を含む反応性関節炎(reactive arthritis:ReA),乾癬性関節炎(psoriatic arthritis:PsA),炎症性腸疾患関連関節炎(enteropathic arthritis:EnA),若年性脊椎関節症,分類不能脊椎関節症などが含まれる.
疫学
 HLA-B27との関連性が注目され,ASの90%,ReAの80%,PsAの40%,EnAの30%が陽性で,HLA-B27関連関節炎ともよばれる.HLA-B27陽性率は北米白人の7%に比し,日本人は0.3%で発症率も低い.また,HLA-B27を有し,ASの家族歴があると10~30%が発症する.大規模調査では,HLA-B*2705(全般),2702(白人),2704(東アジア人)とASやReA発症との関連性,SpA,AS,EnAの疾患関連遺伝子として各々IL23R,ERAP1,TNFRSF1AとTNFSF15が報告されている.
病理
 仙腸関節炎の初期病理所見は,リンパ球浸潤や滑膜細胞増殖を伴う滑膜肉芽組織による関節軟骨下の侵食で,その後,線維軟骨の再生に伴って徐々に骨化する.靱帯付着部炎は,脊椎や骨盤のみならずアキレス腱付着部にもみられ,靱帯や腱の骨付着部での炎症を特徴とし,骨びらんから線維化,骨化に至る.
病態生理
 HLA-B27とSpAの疾患感受性遺伝子が連鎖不均衡の状態で共存するとの十分な証拠は得られていない.また,SpAは無症候性腸炎を併発することが多く,ReAでは,細菌感染が先行し関節から菌体抗原が検出され,HLA-B*2705遺伝子導入ラットは通常環境下でSpA類似症状を自然発症することから,細菌感染に対する免疫応答の異常が示唆される.疾患関連遺伝子の報告と抗サイトカイン療法の効果などから,病態形成におけるTNFとIL-23の関与が注目される.TNFは何らかのトリガーにより産生が誘導され,組織の炎症や破壊,Wntシグナル制御による骨形成の誘導を引き起こし,また,IL-23の産生はTh17細胞の分化誘導を介して,組織の炎症の遷延化に関与すると報告される.
臨床症状
1)強直性脊椎炎(AS)
90%がHLA-B27陽性で,10歳代後半~30歳代の若年男性の発症が多い.初発症状は,仙腸関節炎による腰背部のこわばり,不快感,疼痛で,夜間,明け方に強く,運動により改善する.初発時は間欠性,片側性で,緩徐に発症し,徐々に持続性,両側性となる.好発部位は仙腸関節で(100%),椎体間,椎弓間,肋椎間関節,脊椎間軟骨結合を侵しながら脊椎炎が上行する.進行すると,関節軟骨の線維化,骨化による腰椎可動制限,胸椎後弯の増強と胸郭拡張制限を呈する.さらに進行すると,脊椎骨折脱臼,環軸椎亜脱臼,馬尾症候群をきたす.1/3に肩,股,膝など四肢大関節炎を伴い,進行すると股,膝関節の屈曲変位を呈する.
 関節外症状として,関節近傍の靱帯付着部炎が,アキレス腱付着部,踵骨,肋胸骨接合部,棘突起などに,早期からみられることがある.25%の症例が急性前ブドウ膜炎を呈し,疼痛,涙液の過剰分泌,かすみ目が急激に出現し,前眼房に多量の滲出液が貯留する.治療が不適切だと視力障害をもたらす.頻度は低いが大動脈弁閉鎖不全症,肺線維症がみられることがある.
2)反応性関節炎(ReA)
非淋菌性尿道炎や細菌性腸炎などの2~4週後に発症する関節炎で,なかでも,関節炎,結膜炎,尿道炎を3主徴とする疾患をReiter症候群とよぶ.HLA-B27は約80%に陽性で,若年男性に好発する.一般にクラミジアなどによる尿道炎,サルモネラや赤痢による腸炎に続いて結膜炎,関節炎と生ずることが多い.
 関節炎は,非対称性,骨破壊性で,膝,足関節など下肢に好発するが,片側性の仙腸関節炎(20%)や脊椎炎を伴うこともある.関節外症状として,足底腱膜やアキレス腱などの腱付着部炎,結膜炎,急性ブドウ膜炎,連環状亀頭炎,脂漏性皮膚角化症,前立腺炎,子宮頸管炎,爪の肥厚,まれに大動脈閉鎖不全症があげられる.
3)乾癬性関節炎(PsA)
乾癬を伴うびらん性多発性関節炎で,30~40歳代に発症し,男性にやや多い.関節炎はびらん性多発性関節炎で,進行すると骨破壊を伴う.関節リウマチrheumatoid arthritis:RA)と異なり,遠位指節間関節も侵される.炎症はときに関節周囲組織に及び指趾ソーセージ様腫脹を呈することもある. 乾癬は関節炎より先行することが多いが,乾癬が重症な例では関節炎も重症である.爪の変化が特徴的で,初期には点状陥凹(nail pitting)を進行すると爪甲剥離となる.関節外症状として,乾燥性角結膜炎,虹彩炎などの眼病変(25%)や大動脈弁閉鎖不全症がある.
4)炎症性腸疾患関連関節炎(EnA)
潰瘍性大腸炎やCrohn病の約10~20%に合併する関節炎である.関節炎は,非対称性,多発性,非破壊性,移動性で膝,足関節などの下肢に好発し,約20%に仙腸関節炎を呈する.一般に,腸症状が関節症状に先行し,両者の寛解増悪は連関する.関節外症状は,結節性紅斑,下肢の皮膚潰瘍,網状青色皮疹,ブドウ膜炎などである.
5)その他:
若年性脊椎関節症は,約80%がHLA-B27陽性で,7~16歳の男子に発症し,おもに下肢の非対称性関節炎と付着部炎を主症状とする.青壮年期にASに移行することが多い.分類不能脊椎関節症は,仙腸関節炎や付着部炎を有するが,ASの分類基準を満たさない症例であるが,最終的にはいずれかのSpAに至ることが多い.
 SAPHO症候群は,脊椎,仙腸関節などの滑膜炎,痤瘡,掌蹠膿疱症,前胸壁の関節包,靱帯,骨の慢性炎症に伴う骨化,鎖骨無菌性骨髄炎を特徴とする症候群で,約30%がHLA-B27陽性である.
 Whipple病は,腸性脂肪異栄養症ともいわれ,発熱,体重減少,下痢,脂肪便,腹部症状,および,移動性対称性の多発関節炎を呈し,しばしば仙腸関節炎を伴う.Tropheryma whippleiの感染による腸管リンパ閉塞が原因とされる.
検査成績
1)血液検査:
SpAに属するいずれの疾患も,疾患活動性に伴い赤沈亢進とCRP高値を呈する.リウマトイド因子は陰性で,HLAのタイピングは診断に有用である.
2)画像検査:
ASのX線所見では,病像の進行に伴い,仙腸関節の関節裂隙拡大,癒合,脱灰がみられるようになる.また,初期には付着部炎として前上下角部が削られた椎体前縁凹面直線化(squaring)がみられ,進行に伴い胸腰椎移行部を中心とした脊椎靱帯骨化(syndesmophyte)により椎体間が架橋され,さらに棘突起間も融合して骨性強直に至り,X線上竹節様脊椎(bamboo spine)がみられるようになる.ReAやPsAのX線所見では,指趾末節骨骨破壊と先細り,指趾節基部カップ変形(pencil-in-cup),指・趾骨骨膜の線状あるいは線毛状骨新生,踵骨底の石灰化などが観察される.仙腸関節炎や腱付着部炎の早期診断においてはMRの有用性が高い.特に,X線で検出不能な仙腸関節炎の早期から,滑膜炎,軟骨変性,軟骨下層の骨侵食や骨髄浮腫が観察される.
診断
 欧州の分類基準では,炎症性脊椎痛または滑膜炎に,家族歴,乾癬,炎症性腸疾患,左右変動性臀部痛,腱付着部障害,仙腸関節炎のうち1つ以上を満たすものをSpAと分類する.炎症性脊椎痛や滑膜炎に関しては,参考事項として緩徐な発症,40歳以下,3カ月以上持続,運動で改善,朝のこわばりが付記される.ASでは,New York改訂診断基準がある(表10-2-4). ASの疾患活動性は,患者質問票によるBASDAIや客観的な総合評価を組み入れたASDASやASAS コアセットなどが用いられる.また,PsAの疾患活動性は総合評価としてのPASIが汎用される.また,関節や脊椎のX線やMRIを用いた定期的な構造評価も重要である.
鑑別診断
 SpAに分類される疾患群間の鑑別診断は,表10-2 -5のとおりである.SpAで末梢関節炎が前面に出現した際には,RAとの鑑別が困難となるが,欧州分類基準,および,仙腸関節炎の存在,HLA-B27が鑑別に有用である.
経過・予後
 SpAの経過は多彩である.ASの早期は自然寛解と増悪を反復し,比較的軽度か限定的であることが多いが,頸椎の完全な強直を伴う場合には機能不全に陥りやすい.ReAの大半も3~12カ月で自然消退するが,15%は再発性,慢性で進行すると骨破壊を伴い機能障害をきたす.まれに,眼合併症による失明を認め,死因としては,頸椎骨折,心血管系合併症,炎症性腸疾患による出血,急性腹症,非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)による治療の副作用,続発性アミロイドーシスなどがあるが,平均寿命は一般集団とほぼ同等であるとされる.
治療
 薬物療法は,消炎鎮痛によるQOL改善効果を目的とする抗炎症薬が第一選択治療として用いられ,シクロオキシゲナーゼⅡ選択性を有する薬剤を選択する.また,ステロイド薬は原則として使用しない.抗リウマチ薬は,ASに対するサラゾスルファピリジン,PsAに対するシクロスポリンなどの有効性が報告されるが,メトトレキサートを含めて十分なエビデンスに欠ける.一方,SpAに対する生物学的製薬によるTNF阻害療法の顕著な有効性が注目される.抗炎症薬使用でも高い疾患活動性を有する症例,関節や脊椎の破壊進行が速い症例に強く推奨される.臨床症候の劇的な回復とともに関節破壊の進行を抑止できる.わが国でも,AS,PsA,EnA(Crohn病)に対して抗TNFキメラ抗体インフリキシマブ,抗TNFヒト型抗体アダリムマブが使用できる.また,抗IL-12/IL-23p40ヒト型抗体ウステキヌマブは,PsAに保険収載され,同様に顕著な治療効果を有する.現在,T細胞選択的共刺激調節剤CTLA4-Ig融合蛋白質アバタセプト,抗IL-17抗体セクキヌマブなどが臨床試験段階にある.今後は,治療目標が寛解導入や関節破壊進行制御へと変遷すると期待できる.なお,クラミジアによる尿道炎,腸炎にはテトラサイクリン系抗生物質などが有効である.反復する際には,パートナーとともに抗菌薬を投与する.ASでは,毎日の運動や良肢位,姿勢の維持による変形の防止,枕の禁忌などの理学的療法,歩行障害の強い症例では人工股関節置換術や椎体骨切り術などの外科的療法も考慮される.[田中良哉]
■文献
Braun J, van den Berg R, et al: 2010 update of the ASAS/EULAR recommendations for the management of ankylosing spondylitis. Ann Rheum Dis, 70: 896-904, 2011.
Dougados M, Baeten D: Spondyloarthritis. Lancet, 377: 2127-2137, 2011.
Taurog JD: The spondyloarthritides. In: Harrison’s Principles of Internal Medicine, 17th ed (Fauci A, et al ed), pp2109-2119, McGraw-Hill, Columbus, 2008.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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