オウム病、トラコーマ、非淋菌(りんきん)性尿道炎(性感染症の一つ)などの病原体となる偏性(絶対的)寄生(純寄生ともいう)性の細菌。宿主(しゅくしゅ)(寄生対象となる生物)の細胞内に封入体といわれる構造体があり、そのなかにみられる小粒子を病原体とし、厚膜(クラミスchlamys=「厚膜の」の意)をもつ生物という意味から、クラミジアと命名された。
1907年、ドイツのハルバーステダーLudwig Halberstaedter(1876―1949)とプロワセックStanislaus von Prowazek(1876―1915)はトラコーマ患者の目の病変材料をオランウータンに接種し、その血膜上皮にクラミジアの封入体を観察した。1957年タングTangはクラミジアを発育鶏卵に接種し、分離培養に成功した。
クラミジアはウイルスと同じように偏性細胞寄生性であり、小形の生物である。これを細菌とする根拠は、明瞭(めいりょう)な細胞構造をもち、二分裂法によって分裂増殖をし、DNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)の二つの核酸を同一細胞内にもち、しかも、細胞内にリボゾームをもつからである。また、リケッチアも同様、偏性細胞内寄生細菌であるが、クラミジアはリケッチアのように中間寄主として節足動物を必要としないこと、呼吸酵素をもたず宿主細胞のATP(アデノシン三リン酸)に頼ってタンパク合成をすること、封入体を形成することなどの性質があり、リケッチアと異なる。また、ゲノムの大きさについてもリケッチアよりはるかに小形である。
分類上はクラミジア目クラミジア科クラミジア属よりなる。クラミジア属は抗原性、封入体の性状、宿主域などによって4種に分類され、クラミジア・トラコマチスC. trachomatis、クラミジア・プジタチイC. psittaci、クラミジア・ニューモニエC. pneumoniae、クラミジア・パコルムC. pacorumがある。
クラミジアは増殖の過程で、基本小体(EB=elementary body)、網状体(RB=reticulato body)、中間体(IF=intermediate form)の三つの形態となる。EBは0.3マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)の小形粒子、電子密度が高い。RBは直径0.5~2.0マイクロメートル、比較的大形細胞である。核様構造は明瞭ではなく、リボゾームが多く存在する。IFは網状体から基本小体への転換期に出現する。明瞭な核様構造がみられる。
EBは感染力をもち、宿主細胞と結合して感染を開始する。通常、感染後7時間程度でRBに変わる。35~70時間程度分裂を繰り返して繁殖し、大きな封入体となる。
[曽根田正己]
クラミジア感染症は不顕性感染が多く、持続的にこの細菌が宿主に生存する。
クラミジア・トラコマチス(トラコーマ・クラミジア)は、ヒトの目や性器の粘膜に、局所的に感染する性感染症である。非淋菌性尿道炎(NGU=non-gonococcal urethritis)は日本でもっとも多くみられるクラミジア感染症である。性行為によって感染し、男性では前立腺(せん)炎、副睾丸(ふくこうがん)炎、女性では子宮頸管(けいかん)炎や子宮内膜炎をおこす。性器から目へ、直接間接に感染して封入体結膜炎をおこす。
クラミジア・プジタチイは人獣共通感染症である。多種類の鳥類に感染し、ヒトは鳥の排泄(はいせつ)物から間接的に気道感染する。肺炎を中心に全身に感染がおこる。セキセイインコやハトなどの飼育鳥類が原因となることが多く、とくに輸入鳥類には注意が必要である。母子感染により、新生児が結膜炎や肺炎をおこす例もある。
一般的に、テトラサイクリンやエリスロマイシンが有効な治療薬となる。
[曽根田正己]
『松本明著『クラミジア学入門』(2000・大学教育出版)』
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出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
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