血球貧食症候群

内科学 第10版 「血球貧食症候群」の解説

血球貧食症候群(白血球系疾患)

定義・概念
 血球貪食症候群HPS)は,骨髄や肝臓などでマクロファージ赤血球白血球といった血球細胞を貪食している像がみられる疾患の総称である.高熱,汎血球減少,肝機能障害を伴い,「症候群」の名が示すように単一疾患ではなく,原因は多岐にわたる.小児科領域では,血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH)の呼称が一般的である.
分類・原因
 HPSには一次性のものと二次性のものがある(表14-10-20).一次性HPSは家族性に発症し,2歳以下の小児に認められる.家族性血球貪食性リンパ組織球症(familial hemophagocytic lymphohistiocytosis:FHL)ともよばれ,重症例が多い.近年PRF1(perforin),UNC13D(Munc-13-4),STX11(syntaxin 11),STXBP2(syntaxin binding protein 2,Munc 18-2),SH2D1A(XLP),RAB27A,XIAP(BIRC4)各遺伝子の点突然変異が報告され,発症の分子的メカニズムの解明が端緒についた.
 二次性HPSの原因は感染症,悪性腫瘍,自己免疫疾患などがあり,重症度もさまざまである.成人例は基本的に,二次性HPSである.ウイルス感染が誘因となるVAHS(virus-associated hemophagocytic syndrome)や,悪性リンパ腫に伴うLAHS(lymphoma-associated hemophagocytic syndrome)は別称がついているが,ウイルス以外の感染症やリンパ腫以外の悪性腫瘍でもHPSは発症する.このほかに,造血細胞移植後の生着前後にHPSを認めることがあり,特に臍帯血移植で多く認められる.
病態生理
 一次性HPSの本態は,遺伝子変異によるNK細胞や細胞傷害性T細胞(CTL)の機能低下である.このため病原体などの標的を処理できず,これらを刺激するためにインターフェロンγ,TNF(tumor necrosis factor)αなどの炎症性サイトカインの放出が持続して,種々の症状を引き起こすと考えられている.
 二次性HPSでは,感染症(ウイルス感染が多い),悪性腫瘍,自己免疫疾患などの基礎疾患により炎症性サイトカインが放出され,発熱や汎血球減少などをきたすと同時にマクロファージが活性化されて貪食像を呈する(図14-10-20).マクロファージの貪食により物理的に血球が減少するのではなく,これらは高サイトカイン血症により並列して起きている.このため,貪食像を呈さないマクロファージも増えている.マクロファージ活性化症候群(macrophage activated syndrome:MAS)という別名もあるが,疾患の原因をマクロファージに求めるのは誤解を招く表現である. 造血幹細胞移植後のHPSは,移植後の免疫反応によるサイトカインがHPSを引き起こしている.
臨床症状
 発熱は必発である.リンパ節腫脹や皮疹,肝脾腫を認める例もある.病勢の進行は速いので,重症例では痙攣や意識障害などの中枢神経症状を呈することがある.
検査成績
 汎血球減少を認めるが,程度はさまざまである.生化学検査では,肝酵素(AST/ALT),ビリルビン,LDHの上昇を認め,フェリチン,CRPなどの炎症性物質も上昇する.そのほかに,トリグリセリドや可溶性IL-2受容体の高値,フィブリノゲン低値を認める.フェリチンの上昇はHPSに特異的ではなく,肝臓からの逸脱酵素である.そのほかにも,感染症や非特異的炎症,悪性腫瘍などでフェリチンは上昇し,HPSとして特異度が高いのは10000ng/mLをこえる超高値の場合のみである.サイトカインでは,IFNγ,TNFαに加え,IL-1β,IL-6,IL-10,IL-18,INFR-1,sFas,FasLなどが上昇する.
 一次性HPSではNK活性が低下する.ウイルス感染による二次性HPSでは,ウイルス抗体価で初感染パターンか再活性化パターンを示すほか,ウイルスDNAのPCR法による定量で高値を示す.
診断・鑑別診断
 HLH-2004 studyで使用された診断基準に修正を加えた基準を表14-10-21に示す(Jordanら,2011).特異的遺伝子変異があれば,それだけで一次性HPSと診断可能で,そうでない場合はB項目の8項目中5項目を満たせば診断可能である.成人例は二次性HPSなので,基礎疾患の検索を念頭におきつつ治療に入る.ウイルスによるHPSでは,原因がEBVとそうでない場合は対応が異なるので,原因ウイルスの検索が必要である.
治療・経過・予後
 原因や基礎疾患別に予後は異なるので,臨床的な重症度と基礎疾患を考慮して治療を行う.症状が軽い場合は無治療で経過観察も可能であるが,CMVなどEBV以外のウイルス感染による二次性HPSでない限り,何らかの加療が必要になる.まず炎症性機転を抑制するため,ステロイド,シクロスポリン,エトポシドなどによる単剤あるいは併用療法を行う.HLH-94/2004では,初期治療は3剤併用の化学療法を8週間としている.遺伝子異常や家族歴から一次性HPSと診断された場合は,症状を繰り返すのでそのまま造血幹細胞移植(HSCT)を実施する.移植まで上記治療を継続する.二次性HPSで症状が消失しない場合も,直ちにHSCTを実施する.症状が消失した場合は8週の治療後に経過観察し,症状の再燃がなければ治療終了,再燃があればHSCTを行う.EBV感染によるHPSでは,血中のEBV-DNAの正常化所見も含めて判断する.
 成人例,特に30歳以降の中高年以降では,症状緩和後も原因疾患の検索が重要で,悪性腫瘍の場合それに応じた治療が必要である.EBVが原因の場合は,悪性腫瘍に準じた対応が必要になる場合が多い.NK細胞リンパ腫・白血病がベースにある場合,HLH-2004のステロイド,シクロスポリン,エトポシド併用療法は有効性が低いので,いつまでもこれを続けずに早急に有効な化学療法に切り替えるべきである. 造血幹細胞移植後HPSの場合は,新たな免疫抑制薬を加えるなど免疫抑制薬を強化する.[鈴木律朗]
■文献
Henter JI, et al: HLH-2004: Diagnostic and therapeutic guidelines for hemophagocytic lymphohistiocytosis. Pediatr Blood Cancer, 48: 124-131, 2007.
Jordan MB, et al: How I treat hemophagocytic lymphohistiocytosis. Blood, 118: 4041-4052, 2011
河 敬世:血球貪食症候群の病態と治療.日内会誌,93: 1666-1672, 2004.

血球貧食症候群(組織球増殖症)

(2)血球貪食症候群
 組織球の腫瘍性疾患と鑑別すべきものに血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome:HPS)があり,これは非腫瘍性の組織球増殖性疾患である.なお,詳細は【⇨14-10-18)】を参照されたい.
概念・分類
 高サイトカイン血症により活性化し増殖した組織球が骨髄,リンパ節,肝,脾内で血球を貪食し,発熱,汎血球減少症などの激烈な症状をきたす症候群である.新生児・幼少時に発症する家族性血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH)と,続発性HPSに分けられるが,ほとんどは続発性である.
病因・病態
 家族性HLHはパーフォリン遺伝子変異とNK/Tリンパ球の活性化が関与しているとされる.家族性,続発性ともにNK/Tリンパ球の機能異常,持続的活性化が高サイトカイン血症を引き起こすと考えられている.続発性HPSの原因としてはウイルス感染症(特にEpstein-Barrウイルス),悪性リンパ腫が多く,その他自己免疫疾患や造血幹細胞移植後がある.
臨床症状
 高熱,肝脾腫,血球減少が高率にみられ,高LDH血症,高フェリチン血症,肝障害,高トリグリセリド血症,sIL-2R高値などを認める.
治療
 続発性では原因疾患の治療とHPSの治療を併行して行う.HPSの治療には副腎皮質ステロイド薬,シクロスポリン,免疫グロブリン製剤の投与が行われる.重症例ではエトポシドが用いられ,さらに造血幹細胞移植が必要となる場合もある.[檀 和夫]
■文献
Swerdlow SH, et al eds: WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, 4th ed, pp353
-367, IARC Press, Lyon, 2008.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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