フェリチン(読み)ふぇりちん(英語表記)ferritin

デジタル大辞泉 「フェリチン」の意味・読み・例文・類語

フェリチン(ferritin)

動物肝臓脾臓ひぞう・小腸粘膜などに含まれる鉄たんぱく質。鉄原子をヘム基の形で含まない非ヘム鉄たんぱく質に分類される。鉄の吸収貯蔵に関与している。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェリチン」の意味・わかりやすい解説

フェリチン
ふぇりちん
ferritin

鉄タンパク質の一つ。肝臓、脾臓(ひぞう)、小腸粘膜、骨髄、筋肉などにあり、20~24%の鉄と1~2%のリンを含む。タンパク質部分のアポフェリチン分子量約48万で、分子量約1万8500のサブユニット24個と約2万4000のサブユニット20個からなり、直径約120オングストローム(Å)の球形の殻をつくっている。この内部に最大限4500個の鉄原子が、三価の水酸化鉄、リン酸鉄の形で包み込まれている。サブユニットはアミノ酸163個からなり、その3分の2がα(アルファ)-ヘリックスポリペプチド鎖がとりうる安定な螺旋(らせん)構造の一つ)をつくっている。脊椎(せきつい)動物ではH、L型(ペプチド鎖。H鎖は分子量の大きい重鎖、L鎖は小さい軽鎖)があり、植物、細菌ではH型だけがある。小腸粘膜では鉄の吸収、他の臓器では鉄の貯蔵の役割をもっている。成人男子は約3.5グラムの鉄を含有するが、そのうちの1グラムがフェリチンとして存在する。女子はその半分くらいである。フェリチンを結合させた抗体は、組織内の特定の抗原の所在を電子顕微鏡で観察するために使われる。この抗体は、腫瘍マーカー(しゅようまーかー)(癌(がん)の存在の可能性を示す物質)の一つでもある。ミトコンドリアのフェリチンは分子量約3万の前駆体から約2万2000のサブユニットになり、その20個が集合してできている。フェリチンはカビや植物にもあることが確認されており、関連タンパク質間でのアミノ酸配列はかなり違いがあるが、立体構造の保存性が高い。なお、ヘモシデリンhemosiderinは細網内皮系細胞やその細胞間にあって、フェリチンタンパク質の殻が一部消化重合したものとされており、鉄含量は40%近くと高い。ヒト、ウマ、カエル、細菌などにありフェリチンより鉄含有量が多い。なお、2003年アコヤガイ(シンジュガイ)のフェリチン・サブユニットがアミノ酸206個からなることが中国から報告された。

[野村晃司]

『内田立身著『鉄欠乏性貧血――鉄の基礎と臨床』(1996・新興医学出版社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「フェリチン」の意味・わかりやすい解説

フェリチン
ferritin

動物の脾臓,肝臓,小腸粘膜などに存在する鉄を含む複合タンパク質。分子量約48万(2万4000のサブユニットが20個),20~24%の鉄と1.2~2.0%のリンを含む。一般にはウマの脾臓から抽出され,赤褐色の結晶として得られる。生体内では鉄の貯蔵と吸収に関係している。電子密度が高くその存在を電子顕微鏡で容易に認知できるので,フェリチンで標識した抗体は,対応する抗原の細胞や組織内分布を調べる目的で使われる。この方法はフェリチン抗体法と呼ばれる。
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化学辞典 第2版 「フェリチン」の解説

フェリチン
フェリチン
ferritin

Fe3+ とタンパク質の複合体で,その20% 近くを鉄が占める.アポフェリチン(タンパク部分)の分子量を4.6×105 とすると,約1800個もの Fe3+ が結合していることになる.鉄の吸収や貯蔵部位である腸,脾臓,骨髄,網状赤血球,肝臓などに多く含まれる.[CAS 9007-73-2]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「フェリチン」の解説

フェリチン

 生体内の鉄の貯蔵形態で,分子量約800kのタンパク質(アポフェリチンという)と鉄の複合体.鉄の形態は非ヘム鉄.血中のフェリチンは体内の鉄の貯蔵量の指標になる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報