内科学 第10版 「血管奇形・もやもや病」の解説
血管奇形・もやもや病(血管障害)
脳血管奇形は胎生期の脳血管形成期の異常により生じる先天奇形であり,脳卒中の原因となる.もやもや病(Willis動脈輪閉塞症)はWillis動脈輪を形成する脳主幹動脈に進行性の狭窄や閉塞を生じ,側副血行路が二次的に発達して脳血管撮影上もやもやした網状の異常血管像を呈し,虚血と出血のいずれもが生じうる,厚生労働省特定疾患に指定されている原因不明の疾患である.
分類
McCormicの分類によれば,脳血管奇形は毛細管拡張,静脈瘤,海綿状血管腫,動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM),静脈性血管腫に分類される.もやもや病は発症年齢により若年型と成人型に分類されるが,鈴木らは血管撮影像の経時的変化により第1期(carotid fork狭小期),第2期(もやもや初発期),第3期(もやもや増勢期),第4期(もやもや微細期),第5期(もやもや縮小期),第6期(もやもや消失期)に分類している.
原因・病因
脳血管奇形は先天性の形成異常により生じる.もやもや病の病因については血管炎や自己免疫など後天説が有力であるが,原因は解明されておらず,遺伝的素因の関与も指摘されていたが,2011年日本人を中心とした国際共同研究グループによりRNF213遺伝子(mysterin)の多型(p.R4810K)が疾患感受性遺伝子であると同定された.家族性海綿状血管腫の原因遺伝子としてはCCM1とCCM2が同定され,変異も確認されているが,最近CCM3の原因遺伝子としてPDCD10(programmed cell death 10)が報告された.
疫学
血管奇形の臨床例ではAVMが70%を占め,毛細管拡張や静脈性血管腫は無症状で,偶然発見されることが多い.AVMは80~85%は天幕上に発生し,脳正中深部と天幕下に5~10%ずつ発生する.発症年齢は20~40歳で,30歳代に最も多い.海綿状血管腫は病理学的にはAVMについで多く,大脳に発生しやすいが,橋,小脳橋角部,脊髄にも発生し,発症は20~50歳代の男性に多い.もやもや病は日本人を含むアジア人に多く,特定疾患医療費受給者は6000人であり,発症年齢の分布は5歳前後にピークがあり,30~40歳に2番目のピークがある二峰性を示し,大多数は孤発例であるが,家族内発症が10%前後にみられる.
病理
AVMは胎生3~4週に発生する血管奇形で,異常動静脈間に直接吻合がみられ,血流は毛細血管を経ることなく,動脈血が直接静脈血に移行する病態である.海綿状血管腫は異常に拡張した洞様血管腔からなり,血管の間に正常組織は存在しない.もやもや病では動脈内膜の結合組織の増生と弾性線維の多層状新生がみられ,内弾性板は全周性に保たれるが,しばしば著明な屈曲蛇行を示し,脂質沈着などの動脈硬化性変化はみられない.
病態生理
AVMは出血と痙攣の原因となる.出血はくも膜下出血(SAH)が多く,脳内出血や脳室内出血も生じうる.出血は静脈性出血であり,軽症のことが多く,小さいAVMのほうが出血しやすい.痙攣はAVMの発生部位に依存する.海綿状血管腫は腫瘍内出血として発症する.もやもや病は若年型では虚血発作が多いが,成人型では虚血と出血が同程度に生じる.虚血症状は脳灌流圧低下により生じると考えられ,過換気による脳血管の収縮により誘発される.一方,脳出血は脆弱な異常血管網が血行力学的負荷により破綻して生じると考えられる.
臨床症状
AVMではSAHを生じると激烈な頭痛と髄膜刺激症状がみられ,痙攣を生じる場合にはAVMの発生部位によりさまざまなタイプの痙攣が生じる.海綿状血管腫では脳出血を生じた部位の局所神経症状を示す.もやもや病では脳虚血症状の多くはTIAであるが,虚血が長時間持続すると脳梗塞に至る場合があり,啼泣,過換気,吹奏楽器の演奏などにより誘発され,幼児では急性片麻痺(acute infantile hemiplegia)の重要な原因疾患である.
検査成績
未破裂AVMは単純CTで高吸収域や石灰化を認めることがあり,造影CTで血管塊(nidus)が著明な増強効果を示す.出血性AVMでは血腫が高吸収域を示し,SAHを伴うことが多い.MRIでは血管塊が蜂の巣状の無信号域として描出される.脳血管撮影では血管塊とともに流入動脈と流出静脈が認められる(図15-5-22).海綿状血管腫はCTでは石灰化を伴う高吸収域の病変として認められ,造影剤による増強効果があり,MRIでは腫瘍内出血を認め,脳血管撮影では無血管野として示される.
もやもや病は頭部CTでは脳梗塞や脳萎縮がみられ,頭部MRIではこれらに加えて基底核附近に拡張したもやもや血管がflow void signとして認められることがある.頭部MRAは解像力の進歩によりもやもや血管の描出が可能となった.もやもや病の確定診断と手術適応の決定には脳血管撮影が必要である(図15-5-23).SPECTでは脳血流量の低下や血流低下部位がみられ,脳循環予備能が低下しているとダイアモックス負荷後の脳血流増加率の低下が観察される.脳波では過換気後の突発性徐波の出現(rebuild up)がみられる.
診断
SAHや痙攣を生じた若年患者においてCTやMRIでAVMが疑われる場合には確定診断と手術適応の決定を目的として脳血管撮影を行う.若年者や原因不明の脳出血では海綿状血管腫も鑑別対象となり,皮質・皮質下出血のみならず橋出血でも高血圧が合併していない場合には海綿状血管腫を考える必要があり,MRIのT2*画像やSWI(susceptibility weighted image)が有用である.小児や若年成人で過換気による脳虚血症状を反復している場合にはもやもや病を疑う必要があり,確定診断には脳血管撮影を行う.
鑑別診断
若年者や原因不明の脳卒中は脳血管奇形やもやもや病のほかに血液凝固異常,出血性素因,動脈解離,線維筋性形成異常症,血管炎,薬物中毒などでも生じうるので,これらの疾患を脳や血管の画像検査とともに既往歴,臨床症状,血液凝固検査,免疫学的検査などにより鑑別する必要がある.
合併症
重症の脳卒中例では急性期に感染症や消化管出血を合併しやすく,脳浮腫や頭蓋内圧亢進を生じて脳ヘルニアを併発する場合がある.
予後
AVMの予後は脳動脈瘤に比べて良好であり,死亡率は10%,その後の20年は年間平均2%といわれている.虚血型もやもや病で脳梗塞や脳萎縮がみられる幼少児では発達遅滞が生じうる.出血型もやもや病は再発しやすく,虚血型もやもや病より予後不良の傾向がある.
治療・予防・リハビリテーション
AVMの根治療法は直達手術による全摘出であるが,大きさや部位により困難な場合も多く,塞栓術やガンマナイフなどの放射線療法が行われる.もやもや病では脳虚血症状には抗血小板薬や脳循環改善薬を投与する.進行が阻止できず,脳虚血発作を反復する場合には浅側頭・中大脳動脈吻合術などのバイパス術や脳硬膜動脈血管癒合術,脳筋血管癒合術,脳硬膜動脈筋癒合術,大網移植術などの血管新生促進術を行う場合がある.海綿状血管腫は無症候の場合には経過観察のみでよく,症候性の場合には外科的摘出術を考慮する.[内山真一郎]
■文献
Masuda J, et al: Moyamoya disease. In: Stroke: Pathophysiology, Diagnosis, and Management (Mohr JP, et al), pp603-618, Churchill Livingstone, New York, 2004.内山真一郎:脳血管障害.内科学(2分冊版Ⅱ) (黒川 清,松澤佑二編),第2版,pp1707-1715,文光堂,東京,2003.内山真一郎:もやもや病.ダイナミックメディシン(下条文武,斉藤 康監修),第5巻,pp18-59-18-51,西村書店,新潟,2003.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報