頭部外傷によって、頭蓋骨よりも内側(頭蓋内)に血腫や脳のむくみ(
組織が押し出されることをヘルニアといいます。押し出された脳は深部にある生命維持中枢(
初期症状は意識障害と
さらに進行すると呼吸が止まります。呼吸が停止した最重症例では、治療を行っても救命の可能性は低くなります。次いで脈が乱れ、血圧が下がって死に至ります。
意識、瞳孔(および除脳姿勢など)の臨床症状から診断します。原因の診断のため、頭部CTは必須です。脳ヘルニアを示すCTの所見として、正常では左右対称の脳の構造が圧迫のためゆがんで見えたり(正中構造の偏位)、頭蓋内圧亢進のため
瞳孔異常の初期症状がみられたら、治療は一刻を争います。原因に対する治療が優先され、血腫があれば
脳ヘルニアが進行し、脳幹の機能が失われた場合は(たとえば呼吸停止)、手術の危険が高く、開頭手術を行えないこともあります。
血腫がないか少量の場合は手術の効果が低いため、薬物療法が選択されることが多く、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬(グリセオールやマンニトール)の点滴注射が行われます。頭蓋内圧亢進に対する特殊な治療法にはバルビツレート療法や低体温療法がありますが、副作用も大きいため適応は慎重に判断されます。頭蓋骨を外す
予後は原因によりますが、一般的には症状の進行程度と、症状出現からの時間経過に比例して悪くなります。
並木 淳
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
頭蓋(とうがい)内圧が急性に異常亢進(こうしん)した場合に脳の一部が転位をおこした状態をいい、圧迫円錐(あっぱくえんすい)あるいは脳嵌頓(のうかんとん)ともいう。すなわち、頭蓋内圧や脳組織圧が亢進すると、脳組織が抵抗の減弱した部位に向かって脱出し、脳内にある固定された部分(大脳鎌(かま)、蝶(ちょう)形骨縁、テント切痕(せっこん)、大孔など)に絞扼(こうやく)・圧迫される現象で、脳ヘルニアが持続すると脳の損傷は不可逆性となり、脳幹の圧迫障害は呼吸麻痺(まひ)を招いて死に至る。
頭蓋内では、大脳鎌によって左右の大脳半球に、蝶形骨縁によって前頭葉と側頭葉に、テント(小脳天幕)によって大脳と小脳に、大孔(大後頭孔)によって脳と脊髄(せきずい)にそれぞれ区分されているが、脳内占拠性病変(脳腫瘍(しゅよう)や血腫)あるいは他の頭蓋内圧を亢進させる要因(脳浮腫、髄液循環障害、脳循環障害)によって脳組織が前述の区分を越えて脱出すると、その境界部分は脳の固定された部分に圧迫されて脳機能が障害される。とくにテント切痕ヘルニア、大孔ヘルニアでは生命維持ができなくなる。すなわち、テント切痕ヘルニアでは海馬鉤(かいばこう)や海馬回が嵌入して中脳を圧迫し、瞳孔(どうこう)不同、片麻痺、意識障害をきたす。片麻痺が病変と同側におきることがあるので注意を要する。意識障害があるため反対側の同名半盲の出現は気づかれにくいが、病側後大脳動脈の絞扼による後頭葉の虚血症状である。進行すると、大孔ヘルニアを合併する。大孔ヘルニアでは小脳が大孔に嵌入して延髄を圧迫し、意識障害、呼吸麻痺、血圧の上昇、徐脈(クッシング現象)をおこし、合併する髄液や血液の循環障害はこれらを増悪させて死を招く。他の大脳鎌ヘルニアや蝶形骨縁ヘルニアは脳実質が広範に脱出することはなく、これだけで重篤な症状を呈することがほとんどない。
これらの症状は一挙に出現するのではなく、しだいに進行してくるものである。したがって、治療は、注意深いモニターによって、早期に脳ヘルニアの徴候をキャッチして進行を予防することが第一となる。また、原因となる疾患の治療に加えて、頭蓋内圧を下降させるための過換気療法、頭蓋内圧下降剤(マニトールやグリセオールなど)による治療、ステロイド療法、バルビツレート療法、低体温療法のほか、髄液ドレナージ、内・外減圧術、側頭葉切除、テント切痕切開などの外科療法を行う。
[加川瑞夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…浮腫が発生した部分では,組織圧の上昇により微小循環が障害される。また浮腫組織はその容積の著しい増大のために頭蓋内圧を上昇させ,近接する部分は浮腫組織による圧迫に伴って偏位するが,それが高度な場合には,小脳テント,大後頭孔などの開口部から脳の一部が押し出され,脳幹を直接圧迫することによって致命的な障害をきたすことがある(これを脳ヘルニアという)。このように脳浮腫は種々の原因による脳損傷に続発し,さらに障害を悪化させるので,臨床上きわめて重要な病態である。…
※「脳ヘルニア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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